第四話 さいそくしょうぶ

 ところどころに岩山や木が点在する、赤茶けた荒野。そこで二人のフレンズが、言い合いながら土煙を巻き上げ地を駆けておりました。


「あーっもう、追っかけてこないでよー!!」


 時折後ろを見つつ走る彼女は、一見するとサーバルに似ています。ですが彼女よりもくすんだ黄色をしており、耳が小さく長髪です。そして少しツリ目ぎみで、上瞼うわまぶたにアイシャドーが入っています。『ネコ目 ネコ科 チーター属 “チーター” Acinonyx jubatus』のフレンズです。


「つれないな! 共に速さを磨こうじゃないか!」


 そのチーターを追いかける少女は、オレンジのジャージにブルマという、色々と攻めた格好をしています。頭から鹿にも似た角が二本生えていますが、鹿ではありません。どちらかと言うとキリンに近い種です。『鯨偶蹄目 プロングホーン科 プロングホーン属 “プロングホーン” Antilocapra americana』のフレンズです。


「だから、私は一人が気楽だって言ってるでしょ!?」

「一緒に走る仲間は何人いてもいいものさ。さあ、共に走ろう!」


 ソロ専門のチーターを、プロングホーンがパーティに誘おうとして揉めているようです。といってもこれは種としての本能に根差すものであるため、中々難しいでしょう。チーターは他の多くのネコ科と同じように単独で暮らしますが、プロングホーンは群れを作って暮らすのです。


「速さとは才能だ。その才能を何かに役立ててみないか?」

「何の話よ!?」

「もちろん速さの話さ! 私と一緒に走れば、その才能が役立つ場所が見つかるぞ?」

「おあいにくさま、私の才能はもう私の役に立ってるわ! とにかく私は一人がいいの! ほっといてちょうだい!」


 勧誘は行き詰まっているようです。きのこ教徒にたけのこ教を布教するようなものなので当然でしょう。音楽性の違いはいかんともしがたいのです。


「大体ねえ! 一緒に走る一緒に走るって、アンタにはもう“ロードランナー”がいるでしょ!」

「呼んだか?」


 噂をすれば何とやら。チーターが名を口にしたまさにその時、彼女の後ろからひょこっと顔が飛び出てきました。その足は地面についておらず、宙に浮いています。その頭から小さく横に突き出た翼がぱたぱたと上下しています。鳥のフレンズはこうして空を飛ぶことが出来るのです。


「うわ出た!」

「そりゃ出るさ、プロングホーン様あるところに私あり、だ!」


 どこか得意げな彼女のTシャツは、青と水色のツートンカラーで、中央には『Beep!』という文字が入っています。下は太腿丈のスパッツのみで、体にぴっちりと吸い付いています。プロングホーン程ではありませんが、こっちも割と攻めています。腰からは巨大な尾羽が伸び、灰色の髪の所々から、星模様のついた黒髪が生えていました。『カッコウ目 カッコウ科 ミチバシリ属 G・ロードランナー(オオミチバシリ) Geococcyx californianus』のフレンズです。


「あっやっぱダメだ、飛ぶと疲れる」

「アンタ何しに出て来たワケ!?」


 そんな彼女はあっという間に失速し、地に足を付けました。ロードランナーはれっきとした鳥ですが、飛ぶのが苦手なのです。フレンズ化すると飛行は楽になる、というのは他の鳥のフレンズの言ですが、それでも元の性質には抗いがたいようです。


「やっぱり道は走ってこそだよな!」

「ホント何しに出て来たワケ!?」


 ロードランナーは二人について走り始めました。それはまさに爆走と言っていいほどで、チーターにも引けを取っていません。『道走りロードランナー』の名に恥じず、『飛べる鳥』の中では走る速度が最も速いのです。


「いいぞロードランナー、その調子だ! このまま二人でチーターと共に突っ走ろう!」

「はいっ、プロングホーン様!」

「もうヤダこいつらー!」


 追いかけている方はノリノリですが、追いかけられている方はちょっと涙目です。ぼっちに協力プレイを強要するとは、なんと残酷なのでしょうか。しかしチーターはただのぼっちではありません。地上最速を誇るぼっちなのです。


「もうこうなったらぶっちぎってやるわ! この私を舐めんじゃないわよ!」


 チーターのせた金色の瞳に炎が灯ります。エンジンの回転数を上げ、二人を引き離そうとしたその時。今まさに走っている道のど真ん中から、未知の何かがやってくるのに気づきました。


「へ?」

「ん?」

「お?」


 しかし高速移動中で、おまけに口論で気が逸れていた三人にとって、その気づきは遅きに失していました。反応しきれずどんがらがっしゃんとその物体にぶつかり、三人はあらぬ方向に吹き飛んでしまったのでした。



◆ ◆ ◆ ◆



 三人がぶつかったのは、サーバルとかばんが乗るバスでした。衝撃でバスは横転してしまったのですが、驚いた事にぶつかった方は無傷です。頑丈です。


「もー、あんなにいきおいよく走ったらあぶないよー!」

「すまなかった、普段は誰もいないものでな」

「ごめんなさい」


 サーバルにしては珍しく、怒りの感情をあらわにしています。ぷんぷん、という言葉がぴったりで、あまり迫力はありませんが。


「まあまあサーバルちゃん、誰もケガはしなかったんだし……」

「でもかばんちゃん、ケガをしたら死んじゃうんだよ? 私はじょうぶだからいいけど、かばんちゃんがケガをしたら大変だよ!」


 どうやら本能がうずいたようです。野生動物にとって多くの場合、ケガと死は等号で結ばれるので無理もないかもしれません。ケガをして動けなくなれば、それは死ぬしかないのです。


「で、でもほら、サーバルちゃんのおかげで何もなかったんだし……ね?」

「うーん……かばんちゃんがそう言うなら……」


 ラッキービーストが『高速で移動するフレンズが近づいている』と警告し、ぶつかる一瞬前にサーバルがかばんを抱えてバスから飛び出したため、皆無傷で済みました。野生の本能のなせる業です。


「でも次からは気をつけてね!」

「ふん、道の真ん中をトロトロ走ってるのが悪いのよ!」

「チーター」


 プロングホーンがチーターをじっと見つめます。草食動物特有の横長の瞳孔に、静かなれども確固とした意思が宿っています。それに怯んだチーターは、かばんとサーバルに向き直りました。


「わ、わかったわよ! ぅー…………ご、ごめんなさい! これでいいでしょ!?」

「は、はい」

「う、うん」


 素直……ではありませんが、それでもしっかりと頭を下げた彼女に、二人は面食らったように首肯を返します。プロングホーンが忍び笑いを漏らしながら、チーターに近づきました。


「ふふふ、私はチーターのそういうところが好きだぞ」

「す、好きとか、何言ってんのよ!」

「という事でどうだ? 私と一緒に走る気になったか?」

「なるワケないでしょ!? どういう頭してんのアンタ!」

「こういう頭だが?」

「ツノを押し付けないで! アンタのツノはトゲが生えてて痛いのよ!」


 じゃれ合う二人を見たサーバルが、先程の怒りもどこへやら。にっこり笑顔で言いました。


「二人とも仲良しだね!」

「アンタの目節穴!?」

「いやいやいい目をしているさ。そうさ、私とチーターはとっても仲良しなのさ」

「だから違うって!」

「素直じゃないなチーターは」


 チーターは意地になって否定し、プロングホーンは余裕綽々に微笑みます。そんな二人を横目に、かばんがロードランナーに問いかけました。


「その、いつもこんな感じなんですか?」

「ああ」

「仲がいい……んですよね?」

「プロングホーン様が楽しそうだからなんでもいいぜ!」


 手下のかがみのような答えが返ってきました。比較的自由な傾向が強いフレンズの中で、こうして明確に誰かの下につく姿勢を見せるのは割と珍しい事です。上下関係を持つフレンズは他にも存在しますが、友達や仲間の延長線上といった程度で、そこまで厳格なものではありません。


「ああもうとにかく! 何度も言ってるでしょ、私は一人で走るの! だいたい私は地上最速なんだから、誰も私に追いつけないわ! 一緒に走るなんてムリよ!」

「ほほー、最速か。果たして本当にそうなのかな?」


 一際大きな声を上げたチーターに、ロードランナーがいやらしい笑みを浮かべて近づきます。チーターは怪訝な顔を彼女に向けました。


「はぁ? 何言ってんのよ」

「いやいや、最速はプロングホーン様だからな。チーターもプロングホーン様には劣るとはいえ、一応それなりには速いからな。認められないのも無理はない」

「は? はああ!? 地上最速はこの私、チーターよ! コイツなんかであるもんですか!!」


 正面からプライドを刺激されたチーターが沸騰します。ロードランナーは煽り運転の上手いフレンズだったようです。


「ほんとかぁー? プロングホーン様に負けるのが怖くて、そんな事言ってるんじゃないのかー?」

「私が負けるなんてあるワケないでしょ!!」

「ならば勝負だ!! 私が勝ったら、私の仲間になってもらうぞ!」


 すかさずプロングホーンが乗ってきました。息がぴったりの主従です。


「ふん、なら私が勝ったら金輪際仲間になれなんて言わないことね!!」

「いいだろう、いざ勝負だ!!」


 そういう事になりました。



◆ ◆ ◆ ◆



「スピードは私の方が上だったんだから、私の勝ちよ!」

「先にゴールしたのは私だったんだから、私の勝ちだろう?」


 レース終了後。チーターとプロングホーンの二人は、激しい口論を繰り広げておりました。どちらの言い分にも一理あるので、双方一歩も譲りません。


「あちゃー、ダメだったかあ……。白黒はっきりつければ何とかなるかと思ったんだがなあ……」

「あ、あの、ロードランナーさん」

「ん?」


 失敗したなーと独りごちるロードランナーに、かばんがおずおずと話しかけます。


「ああいう、焚きつけるような言い方はあまりよくないと思いますよ……?」

「そりゃそうだ、良い訳がない」

「え?」


 あっさり肯定されたかばんが、目をまん丸にしました。


「でも私はプロングホーン様の部下だ。だからプロングホーン様の望みのためなら、ああいう言い方だってしてみせるのさ。チーターにとっちゃ迷惑だろうが、そんな事は知らないね」

「それは……」

「ま、失敗してるんだから世話はないけどな。さて、次はどうすっかねえ」

「…………」


 かばんは何も言えませんでした。頭が良くとも友に恵まれていようとも、彼女はある意味まだ産まれて間もない赤ん坊のようなもの。悪い事を悪い事と知って、それでもなお主のためにと実行するロードランナーに対するには、未だ積み重ねた時間が足りません。


 かばんは何かを考えるように黙りこくってしまいます。そんな彼女に代わって口を開いたのは、勝負の行方はあんまり気にしていなさそうなサーバルでした。


「二人ともすっごい速かったけど、それじゃダメなのかなあ?」

「チーターハ最高時速120㎞、プロングホーンハ最高時速90㎞ニ達スルト言ワレテイルヨ。フレンズ化シテイルカラ、オソラクモット速クナッテイルヨ」


 二足歩行になっているのに走行速度が上がるのは謎ですが、それを言うならフレンズという存在そのものが割と謎なので、あんまり気にしてはいけないところなのでしょう。鳥のフレンズなど、明らかに物理法則を超越して飛んでいます。


「じそく120きろってどのくらい速いの?」

「サーバルヨリ少シ速イクライダネ。90㎞ダトサーバルヨリ遅イヨ」


 ちなみに動物のサーバルは時速70~80㎞と言われているので、あくまでフレンズのサーバルを基準とした話です。


「すごーい! でもそれなら、チーターちゃんの方が速いんじゃない?」

「チーターハ確カニ速イケド、短イ距離シカスピードヲ保テナインダ。プロングホーンハ長イ距離デモ速度ヲ保ッタママ走レルンダヨ」


 チーターが全力で疾走出来る距離は170~200m、最大でも500mです。しかしプロングホーンは全力で800m、時速55㎞程度なら6000mも走る事が出来ます。フレンズ化して距離も速度も伸びていますが、傾向そのものは変わっていません。


 ちなみにプロングホーンがこんなに速くなったのは、チーターから逃げるためではないか、という説が存在します。プロングホーンは名前に『americanaアメリカーナ』とあるようにアメリカ大陸に棲息していますが、昔はアメリカにもチーターが存在していたのです。

 それがフレンズと化した後は、プロングホーンがチーターを追っかけているのですから、不思議な因縁を感じさせる話でした。


「それって結局どっちが速いのー?」

「私よ!!」

「私だ!!」


 言い争っていても速さに関する事は聞こえているようで、二人揃ってサーバルに迫ります。判断がつかず困った彼女は、隣に助けを求めました。


「うーん、私にはよくわかんないかなー……かばんちゃんはどっちが速いと思う?」

「え?」


 かばんは少々ぼーっとしていましたが、サーバルに話しかけられ現実に戻ってきました。それでも一応話は聞こえていたようで、確認を取ります。


「えーっと……チーターさんとプロングホーンさんのどっちが速いか、という事ですよね?」

「そうよ!」

「そうだ!」


 かばんは顎に手を当てて少し考え込むと、顔を上げて提案しました。


「うーん――――なら、距離を変えて走る、というのはどうでしょう?」



◆ ◆ ◆ ◆



「じゃあまずは、あの木のところまで行って戻って来るという事でいいですか?」

「ええ、いつでもいいわ!」

「どんとこいだ!」


 かばんが指し示したのは、ちょうど一本だけぽつんと生えているひょろ長い木です。往復だと2㎞くらいはありそうですが、この程度だとフレンズにとっては短距離の範疇です。


「ではいきますよ。よーい――ドン!」


 かばんの合図と共に、二人は風になりました。目にも留まらぬとはまさにこの事です。あっ、という間もなく、チーターが戻ってきました。地上最速に偽りなしです。


「ゴール! ぜえ、やっぱり私が、はあ、地上最そげほごほげほっ!!」

「だ、大丈夫チーターちゃん?」

「水です、どうぞ」


 土煙でも吸い込んでしまったのかむせ返るチーターに、かばんが水筒を手渡します。むさぼるように水を飲む彼女の後ろで、プロングホーンも戻ってきました。


「うぅむ、負けてしまったか……さすがはチーターだな」

「プロングホーン様はこれからっす! 次は必ず勝ちます!」


 彼女も全力ではあったのですが、チーターのようにバテてはいません。まだまだ余裕がありそうです。性質の違いが如実に現れる結果となりました。


「じゃあ次のコースは……と言いたいところですが、チーターさんは少し休んだ方がよさそうですね」

「私を、誰だと、思ってんのよ、このくら……げっほげほげほ!」

「無理をするな、休んでおけ。最速は逃げたりしないさ」

「そうだな、休んどけよチーター」

「ロードランナーさん……!」

「負けた時の言い訳にされても困るからな!」

「ロードランナーさん……」


 かばんが同じ台詞を吐きますが、そこに込められた意味は真逆です。プロングホーンのためとは言っていましたが、煽り運転は割と素なのかもしれません。そんな挑発に乗って激昂しかけたチーターを、サーバルの純粋な瞳が貫きました。


「チーターちゃん、休も?」

「うぐぅ……わ、分かったわよ!」



◆ ◆ ◆ ◆



「待たせたわね! 次も勝って、完全勝利を決めてやるわ!!」


 休憩を挟んで復活したチーターが、腰に手を当てふんすとふんぞり返っています。一度勝った事で有頂天になっているようです。天狗のように伸びた鼻が幻視されるほどです。


「いいや、勝つのは私だとも。最速を極めるためなら鬼にもなるぞ、この角にかけてな!」


 対するプロングホーンはチーターに負けじと、その名の由来になった枝角プロングホーンを見せつけるようにそびやかし、不敵に微笑んでみせています。一敗してはいますが、少なくとも気概の面では互角であるようでした。


「ではさっき決めた通り、この道をぐるっと一周して先に戻って来た方の勝ちです。いいですね?」

「なんでもいいわ、さっさと始めなさい!」

「ああ、異論はない! 最終決戦だ!」


 道はかなり長く、短く見積もっても数十㎞はありそうです。それでも双方、全く負ける気はないようでありました。


「それでは、よーい――ドン!」


 チーターとプロングホーン、ついでにロードランナーが一斉に走り出します。距離が長いため先程より抑えめとはいえ、それでもすさまじい速度です。その姿はたちまち土煙の向こう側に隠れてしまいました。


「あれ、サーバルちゃんは行かないの? なんだか体がうずうずしてみたいだけど……」

「うーん、最初はいこうとおもってたけど、いいや! かばんちゃんを一人にさせたくないから!」

「サーバルちゃん……」


 サーバルがえへへと笑います。とそこで、彼女は何かに気付いたような表情を見せました。


「あ、そうだかばんちゃん」

「どうしたのサーバルちゃん?」

「これでチーターちゃんが勝ったら、勝負はチーターちゃんの勝ちだよね?」

「え? うん、そうだね」

「プロングホーンちゃんが勝ったら、どっちの勝ちになるの?」

「引き分けだね」


 さらっと吐かれた言葉に、サーバルがぱちぱちとまばたきします。


「えっと、いいの?」

「うーん……さっきちょっと考えたんだけど、どっちが勝ってもかどが立ちそうだったんだよね……。だから、ここは引き分けにした方がいいと思ったんだ」


 チーターが勝てばプロングホーンは潔く引き下がるでしょうが、ロードランナーがいます。口の立つ彼女は何だかんだと理由を付けて、再びチーターを勝負に乗せてしまうでしょう。チーターの方から勝負を挑ませれば、プロングホーンが拒むとは思えません。


 何より、『勝負をしている』という事は『チーターと共に走る』という事なので、プロングホーンの望みを疑似的にですが叶える形にもなります。ロードランナーが躊躇ためらう理由はありません。そうなればチーターの勝利など有名無実です。


 プロングホーンが勝てば、チーターは不承不承ふしょうぶしょうながら一応従いはするでしょう。しかしその性格上ストレスを溜める事になるのは見えていますし、それがいつ爆発するか分かりません。どういう形で爆発するかも分かりませんが、良い方向に進まない事だけは分かります。


「えーっと、つまり……この勝負は、プロングホーンちゃんが勝つの?」

「うん。短い距離ではチーターさん、長い距離ではプロングホーンさんが速いってラッキーさんが言ってたし、さっき見た限りでもそうみたいだったから」


 むしろこの場合は、『一勝一敗になると勝負が付かない』と三人が気付くかどうかの方が重要です。そうなった時の考えは一応ありましたが、難易度が高いのであえて口に出してはいませんでした。


「だから、どっちも最速って事にして何とか丸く収められないか、って思ったんだけど……」

「かばんちゃんでもむずかしいの?」

「二人のしたい事が正反対だから、どうにもならないかなあ……」


 チーターは『一人で走りたい』、プロングホーンは『チーターと一緒に走りたい』。見事に相反しています。どっちも満たすのがベストではありますが、それは前と後ろを同時に見るようなもの。であるならば、どうやったってベターにしかなりません。前提条件が変わらない限り、誰がやってもおんなじです。


「そっかあ……むりかあ……。でも、うーん…………」

「サーバルちゃん?」

「うん、それでもきっとなんとかなるよ! だってかばんちゃんはすごいし、チーターちゃんとプロングホーンちゃんはとっても仲良しだし、ロードランナーちゃんはプロングホーンちゃんのことが大好きだもん!」


 何の根拠もない断言です。しかしニカッと笑うサーバルは、心の底からそう信じているようです。かばんはそんなサーバルの笑顔をきょとんと見つめ、クスリと顔をほころばせました。


「そうだね、きっと何とかなるよ。サーバルちゃんは、本当にすごいや」

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