はじめよう! 教員による生徒ダービー!

ちびまるフォイ

先生がいつも教えてくれること

その日も職員室では同じ話題で盛り上がっていた。


「いやぁ、次の学期末試験では誰が出てきますかねぇ」


「A組の星崎は硬いと思いますよ、やっぱり。

 彼女、来年に医療大学を目指すって話ですからもう勉強しているでしょう」


「B組の山下も負けちゃいませんよ。数学にかけてはピカイチ。

 最近なんかメキメキ力をつけていますからね」


「大穴でC組の小川はどうですか? いっつも授業中は寝ていますが

 前のテストのように満点を取る可能性もありますよ」


教師たちはあれやこれやと生徒の情報交換をしながら、

次の試験での点数を予想して投票を進めていく。


「次の試験も楽しみですなぁ」


教員たちは黒板に書かれた生徒オッズを眺めながら頷いた。

この学校では教員の評価は「票数」により決まる。


票数は普通に先生としての仕事をしているだけでなく

生徒ダービーにより増やすことが出来る。


「駄目堕センセ♪ 今回はどの子にするんですか?」

「出来留先生……」


駄目堕先生は自分の票を持ちながらも投票できずにいた。


「投票やめようかな……別にコツコツ仕事をしていても増えるし」


「何言ってるんですか。票を増やさなきゃ評価もされない。

 評価がされなくちゃ我々は薄給で働く現代の奴隷のままですよ」


「しかし、誰に投票していいかわからないし……。

 成績優秀な子に入れても、倍率低いからあまり変わらないでしょう?」


「ふふふ。そう思うでしょう? 実は順位を変えられる方法があるんですよ」


「というと?」

「自分の学級の生徒に投票するんです」


「……なるほど。やはり自分の生徒たちを信用するんですね。

 たしかに、教員たるもの自分の生徒の力を信じて……」


出来留先生はぶんぶんと顔を横にふった。


「違いますよ。そういうものじゃありません。

 生徒の学力を上げるんですよ。成績上位者にすれば順位を予想できるでしょう?」


「た、たしかに」


「まだ学期末試験までは時間があります。

 他の先生方はみんなルーティーンで授業をこなしているだけ。

 生徒の学力を一気に上げれば、大穴的中も夢じゃないですよ」


「がんばります!!」


駄目堕先生は「熱血」と書かれたハチマキを巻いて竹刀を手にとった。

完全なる学問の鬼と化する。


「あ、駄目堕先生。くれぐれも注意してくださいね。

 事前に問題を教えたりすれば元も子もないですからね」


「わかっています。私は教員ですから。不正はしませんよ」


駄目堕先生は気合を入れ直して教室へと戻った。

休浮かれている生徒を引き締めようと説教モードの空気を作る。


「みんな! いいか、次のテストは非情に大切なテストとなる!

 これが将来のあれやこれやに影響するいわば未来の分岐点。

 必ずいい点数をとるように!!」


生徒は顔を見合わせた。何いってんだこいつ、の顔である。


「そこで、このクラスでは特別カリキュラムを組むこととした。

 6時間目終了後に"強化授業"として2時間の授業を毎日行う!

 いいか。これはみんなのためだ。ここで成績を上げれば未来が広がる!」


「「「 ええ~~…… 」」」


「文句言うんじゃない! 今は嫌でも必ずこのことに感謝する日が来る!

 それだけ将来に直結する大事な試験なんだ!!」


竹刀を振り下ろして生徒の心を今一度引き締めた。

駄目堕先生は追加授業に備えて必死に参考書や問題集やらを準備した。


全員参加の強化授業は辞書ほどの厚さもある参考書とともに開始された。


「では、強化授業をはじめる!!」


 ・

 ・

 ・


初日、2日目、3日目……。


日を追うごとに強化授業の生徒数は減っていった。

さらに悪いことに強化授業を参加したくないばかりに仮病で休む生徒が増え始めた。


「くそ……。あいつら強化授業サボったのを怒られたくないから休みやがって……」


担当クラスの平均点は、教員に配給される票数に影響する。

平均点が高いクラスはたくさんの票数がもらえるし、悪いクラスはちょっぴりだ。


ちょっぴりの票数で生徒ダービーなんかに挑戦しても得られるものは少ない。

大逆転どころかアリのひと噛みだ。


駄目堕先生はホームルームと称して生徒を集めた。


「えーーみんな聞いてくれ。日に日に不登校の生徒が増えてきている。

 おそらく強化授業が嫌なのだろう。そこで先生から提案がある」


駄目堕先生は黒板に鮮やかなポスターを貼った。


「もし、このクラスが学年で一番高い平均点を取れば

 先生が自腹でみんなに好きなものをごちそうしよう!」


これには生徒からも歓声があがった。

やる気を取り戻した生徒がまた強化授業に参加し始める。


……が、それも長くは続かなかった。


ふたたび日を追うごとに参加率は悪くなっていくと駄目堕先生は、


「学年1位だったら好きなものをプレゼント!」

「学年1位ならハワイ旅行へ連れて行く!」

「学年1位にはペットフード1年分!」

「このテストで1位になったら故郷に帰って結婚!!」


さまざまな特典を増やして生徒を釣ったものの、

生徒も「ゴネれば特典増えるんじゃないか」と足元見られ

生徒と駄目堕先生の特典チキンレースがはじまった。


そして、ついに迫った学期末試験の日。


「どうか……どうか生徒に良い点をおめぐみください……!」


駄目堕先生は近くの神社に行って熱心なお祈りを捧げた。

お賽銭にギフトカードをたくさん課金した。


神社から戻り、廊下に張り出された試験結果をおそるおそる見に行くと。


「え!? 出来留先生がジャンプアップで1位!?」


駄目堕先生のクラスも微妙に底上げはされていたが、

出来留先生のクラスに追い抜かされてしまっていた。


自分の生徒に票を入れまくっていた出来留先生は

大量に手に入れた票で扇子を作り仰ぎながら登場した。


「出来留先生……いやはや、完敗です。本当に授業が上手なんですね。

 私なんか必死に授業を増やしても生徒がついてこなかったのに」


「はっはっは。それじゃ生徒は着いてきませんよ。

 今回どうやって成績上げたか知りたいですか?」


「もちろん」

「耳をかしてください」


出来留先生はこっそり耳打ちした。


「生徒に授業をさせるんです」

「え?」


「先生が授業をするのではなく、生徒に授業をさせるんです。

 で、授業を生徒側で評価させる。そうすると生徒同志で相互に勉強し合うから

 嫌味なく一気に成績が上がるんですよ」


これを聞いた駄目堕先生は「なるほど!」と手を打った。


「ぜひ駄目堕先生も次回のテストでやってみてください。

 次のテストで、私は駄目堕先生の生徒に票を入れますから」


「わかりました!」


駄目堕先生はさっそくこのアイデアを次回のテスト前に実践した。

先生主導で「やらせる感」のない授業に生徒はめきめきと力をつけ

次回のテストでは見事学年1位に返り咲いた。


「駄目堕先生、学年1位おめでとうございます!」


「出来留先生のおかげですよ、あの方法はすごいですね!」

「そうでしょうそうでしょう」


「ところで気になったことがひとつあるんです」

「なんですか?」




「我々はいったいこの学校で生徒に何を教えているんでしょう」

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