クソエイムだと生きる価値もないって本当ですか

ちびまるフォイ

見当違いな成功はしない

「見て、今わたしの手を握ったわ」

「目元なんか君に似ているかもね」


「あなた、生まれてから名前を決めると言っていたでしょ?

 この子の名前……つけてあげて」



「ああそうだな……。この子は"クソエイム"にしよう」



クソエイム爆誕。



その後の彼の人生は名が体を表すものとなった。


わずか生後1ヶ月で自分の名前を直談判したまでは正常だったが、

徐々に体が成長するにつれ名前に引っ張られるように

やることなすことすべてが見当違いのクソエイムになっていった。


「僕と……付き合ってください!!」


「嬉しい! どうして私に?」


「それは……君と付き合ったあとに別れたら、

 きみの友だちの美人ちゃんとの相談という体で近づけると思ったから!」


「最低!!」


ビンタをしてもクソエイムは治らなかった。


「はぁ……俺はいつもこうなんだ。何をしてもうまくいかない。

 何をやっても見当違いな方向になってしまうんだ」


「元気出せよ」


「ありがとう。いつも相談に乗ってくれて。

 こうして思いを打ち明けることができる友人がいるだけで

 クソエイムだらけの俺の人生も多少なりとも救いになってるよ」


「なれたものさ」


「なぁ、なにか俺から恩返しはできないか?

 俺が自主的にやるとクソエイムでトンチンカンなことをするから

 君から俺に何をしてほしいか言ってくれ。それなら間違えない」


「じゃあ、1個だけいいかな?」

「ああ」


「毎回、お前の友達と、ぜんぜん知らない俺を人違いで間違えるのを止めてくれ」


「クソエイムゥ……」


クソエイムは落ちこんだ。


自分では真面目に努力しているつもりなのに、

いつだってやることなすことおかしな方向になってしまう。


「クソエイム、そんなに落ち込むことないじゃないか」


「父さん……」


「それに、そのクソエイムが生きる場所だってあるだろう?

 クソエイムということは普通じゃない行動ができるってことなんだから」


「そうか……その手があった!!」


クソエイムは自分の短所を長所として受け入れることにした。

そういう切り替えの速さもクソエイムならではだった。


引きこもりがちで射撃ゲームばかりしていたクソエイムは

憧れのゲーム会社に入るともちまえのクソエイムを大きく生かして

いくつもの斬新な企画やアイデアを起案した。


「……ということで、この企画はいまだかつてない

 斬新で新しくてニュートラルでインビテーションな

 新作超スーパー面白いゲームができるんですよ」


「ふぅん……で、利益は?」

「りえき?」


「ゲーム作るのもタダじゃないわけ。金がかかるの。それもものすごく。

 君の斬新な発想が売れる保証がどこにある?」


「クソエイムだからわかりません!」


「斬新で新しいゲームで大ゴケするくらいなら、

 手堅く売れているゲームの続編を作ったほうがいいに決まってる。

 こっちはボランティアじゃないんだよ、クソエイムくん」


「クソエイムゥ……」


クソエイムは現実の厳しさに照準を合わせることができなかった。

自分のクソエイムという部分を武器としてアイデアを出すものの、

クリエイティブな仕事ほどクソエイムの見当違いな意見は受け入れられなかった。


「それはちょっと見当違いだな」

「過去のデータなどの裏付けはあるのかい?」

「そんなのやったこともないよ。ダメだダメだ」


「クソエイムゥ……」


クソエイムはひどく落ち込んで吊橋のへりにたって、

巻いたロープを首にかけ始めた。


「なんだよ……自分のクソエイムを長所として考えても

 結局は誰にも聞き入ってくれないじゃないか。

 この社会ははみ出しものなんか受け入れていない……。

 クソエイムに人権なんてないんだ」


クソエイムは橋から足を踏み出すと、首に急激な圧力がかかった。

息が止まり顔がみるみる赤紫に変色し三途の川のファストパス売り場が見えた頃、

遺書を書き忘れたことにこの時点で気がつく。


「じま゛っ……これじゃただのクソエイム自殺になっちまう゛……!!」


どんな思いで自殺したのか伝えられなければただの迷惑なやつだ。

クソエイムは慌ててロープを持ち上げ橋のへりへと生還する。


「はぁ、はぁ……まったくもう……クソエイムなんて嫌だ。

 どうしてこういつもいつも、段取りがうまく行かないんだ」


遺書をしたためながらも書いている内容には社会へのうっぷんと、

文化祭のときだけやたら元気になる男子へのいらだちがつづられ続けていた。


書いているうちにクソエイムは持ち前の意味不明な発想力が発揮される。


「俺……なんでこんなことしているんだろう……。

 何をしてもうまく行かないクソエイム人生を歩まされ続けて

 あげくただひとりぼっちで死ぬまで追い込まれるなんて……」


クソエイムは遺書をビリビリと引き裂いた。


「クソエイムというだけで虐げられ続けてきた俺が死ぬなんておかしい!

 死ぬべきなのはむしろ俺という異物を受け入れられない社会だ!!

 こんな歪んだ社会なんか俺がぜんぶぶち壊して世界征服してやる!!」


極限状態まで追い込まれたクソエイムはすべての責任を無視し、

見当違いな場所へと発送を着地させた。


「やってやる! この世界を俺の力で征服してやるーー!!」


かくして、クソエイムは世界征服への道へと繰り出した。




そして現在。


「どうですか? 彼」


「ああ、すごいよ……。彼が来てからというもの

 社員のお客様相談窓口の腕がぐんとあがったんだ」




「だいたい、一度履いただけの靴下を新品と交換できないって

 それ企業としてどうなんだ!? お客様軽視じゃないのか!?」



世界征服もクソエイムで失敗した彼は今、

お客様相談窓口のクレーマーテスターとして

あらゆる会社でクソエイム文句が引っ張りだことになっている……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クソエイムだと生きる価値もないって本当ですか ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ