第93話 悪い子にはあれです

何故だ。

何故なのだ。


すべての計画は順調で、完璧な仕上がりであったはずだ。

多少のミスもほとんど想定内、誤差の範囲で、何があっても失敗する訳がなかった筈なのに。


『………』


俺様は無様に吹っ飛ばされているんだ?


数瞬の間、考えを巡らせた。

一体何が原因でこうなったのかを。


そしてすぐに答えが出た。


ウィル・ザートソンだ。

あいつを思い通りに動かすことが出来なかった。

それから少しずつ何かが狂い始めた。


そう、まるで磨きあげた歯車の一部に、ほんの僅かなコブができてしまったような。

たかがコブだと、そのときは甘く見ていた。

しかし、そのコブによって正常に回らなくなり、全てが崩壊した。


たった、僅かなコブが原因で、積み重ねてきたもの全てが失われた。


『はぁ…、そうだ。関わってはいけなかったのだ…』


もし手にいれたとしても、きっと何かしら良くないことが起きていただろう。


深い溜め息が出た。

今さら気付いたところで、もうどうにもなら無いが…。


魔力障壁が光によって砕け散っている。

カリバーンの光は浄化の光。あまりにも相性が悪すぎた。

ここまで威力は無かった筈だが、まぁ、ウィル・ザートソンの魔力で強化されたのだろう。


アルスレッド…。

ああ、そうだ。もしかしたらアルスレッドの時代から狂っていたのかもしれんな…。


光の中から奴が現れた。


耳が裂け、魔力の貯蔵庫である髪を切られてもなお怯まずに、口に笑みを浮かべてやってくる。

魔力も俺様と同じく空の癖に。


俺様を化け物という奴もいるが、俺様から言わせればこいつのが化け物だ。


『?』


片方の瞳の色が変わっている。

澄んだ緑からくすんだ灰色へと。


ははは、そうか。


『どれだけ魔力を隠し持っているんだ化け物め』


すると奴はいつもの笑みから苦笑へと変わる。


「これ、とっておきなんですよ。貴方用の。だから、誇って良いですよ」


誇って良いですよ、だと。

本当に笑わせる。


『貴様、近いうちに足元掬われて、岩の中に封印でもされるぞ!!!!!』


それなのに、ウィル・ザートソンは何でもない顔で。


「ええ、そうでしょうね。だから、その時まで僕は自分のために楽しく生きたいんです」


そういいながら、目の前に掌がセットされた。


『おい、お前、ふざけんじゃねーぞ…』


掌がとある形に変えられていく。


「ふざけてませんよ、大真面目です。悪い子にはお仕置きをしないといけないですから」


デコピンである。


その指先に魔力が集まっていく。

瞳に溜めていた分の魔力だ。


『ふざけるな!!!!そんなもので俺様を!!!!』











「 それでは、魔王ルシフェルフに最大の敬意を払い、僕のもっとも得意な魔法で終わらせてあげましょう」







光が収縮し、ウィル・ザートソンの指に環になって嵌まる。







「《 フィンガーノックアウト》」

































世界中が注目していた最大の戦争は一日足らずで終わった。


ウィル・ザートソンが魔王と共に一騎討ちで消えた後、伝説の煌竜が他の精霊竜達を率いてやって来たのだ。

先頭にいたのは消息不明だったマジリック・シャンソン。


それが、ものの数分で魔王軍を壊滅に追いやったのだ。

その時の魔法、神級はあまりにも美しく、煌竜達の能力向上にて、たった一撃で半数以上を戦闘不能に陥れた。


あとは、知っての通り。

アヴァロンの光で全ての魔王軍を無力化し、気絶した魔王を担いでひょっこり姿を表した。

ドラゴン族には犠牲が出たが、魔族の死者は少なく、気絶した魔王と共に魔界へと戻っていった。


それは勿論人間側もであったが。




つまるところこの戦争は、

ウィル・ザートソンの圧勝で終わった訳だ。



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