第92話 バッサリいかれた

アルスレッドが浮かれている。

曰く、昔のライバルが持っていた武器に似ているんだと。

ようやく対決できると喜んでいた。


いいのか?それで。


と、頭の隅で考えながらもアルスレッドを奮う。

火花が散り、その火花を使って火弾を撃ち込んでくるという器用なことをする魔王さんと踊るようにして戦っている。


今のところ互いに負傷はない。

ない、が、ジリジリと魔力は減っていっている。


双方魔力の無駄使いは出来ないが、それでも倒すためには使わざるを得ない。


「まさか、この剣で苦戦を強いられるとは思いませんでしたよ」


アルスレッド単体が魔力で攻撃力を上げているので、今なら鉄でさえバターのように撫で斬れる筈なのだ。

なのに、それを察したかのように魔王さんはギリギリのところで剣の切っ先を活用できない角度で攻めてくる。


『俺様が槍の性能だけでこの地位にいると思ったのか?』

「思いませんでしたけど、想定以上でしたね」


円を描いて石突いしつきが降ってきた。

それを柄で弾けば魔王もなるほどという風な顔をした。


『貴様も魔法だけが能では無いということか』

「褒められると照れますねっ!」


ガキィン!!!と一際大きな火花が散り、一気に距離を詰めて猛攻を仕掛けた。


『ぐっ!』


左上腕を切りつけたが、魔力膜に阻まれて浅い。


「!?」


しゃがんだ刃が頭上すれすれを通過し、何かが切れる音が鈍く響いた。


ばさりと髪が重力に従って落ちる。

ハラハラと下に舞い落ちる髪がすぐさまに魔力に変換されて吸収された。


『はっはっはっ、短くても似合うではないか?頭が軽くなったんじゃないか?感謝しても良いんだぞ?』

「ええ、お陰さまで。肩凝りが無くなりそうです」


今生肩凝りしたこと無いけど。


《可哀想に髪無くなったな》

「まだある」


禿げたみたいに言わないでほしい。

まだあるから。

肩までの長さはあるから。


『そろそろ終わりにしないか?お前と遊んでいるのは楽しいが、俺様には立場というものがある』

「奇遇ですね、僕もちょうど同じこと思ってました」


いくら世界を閉じているとはいえ、維持しているのは僕だ。

そろそろキツくなってきた。

まさかこんなに長引くなんてね。でも、向こうもキツそうだ。

さては低魔力状態は慣れてなかったのかも。


クルクルと槍を回し、特効の構えをとった。

投擲はしないらしい。

聡い魔王の事だ。因果が封じられた以上、指定へと飛んでいくことはないと理解しているらしい。


『構えろ、これで終わらせる』


魔王さんが残った魔力を使ってすべての能力を向上させた。

それに同意するように僕も少ない魔力を攻撃へと回す。


「では…」


じり、と、互いの視線が重なり。








ある一瞬で体が動いた。







二本の閃光が衝突し、空間にヒビを入れた。











赤が飛ぶ。

血生臭い臭いが瞬く間に消えていく。

耳が痛い。


視界に迫った銀色の光を最低限の動きで回避し、意図に気付いた魔王が慌てて防御をしたが、すでに遅かった。


「ナイス、アルスレッドさん」


アルスレッドさんが溜めに溜め込んだ魔力を解放し、槍の出力を上回った。

刃は光に包まれ、虹色の発光体が付き従う。


『き、貴様!!その剣は…っ!!』


この剣を知っているのか。


『カリバーン!?何故!??なぜお前が持っているんだ!!!それは、果ての地にて封印していたはずだ!!!』


ああ、なるほど。

そういうこと。


「貴方でしたか。アルスレッドさんにあの地を教えたのは。黒いローブの人、ルスツ。物語の登場人物、かつての仲間でしたっけ?」


キシシと切っ先が槍の中に埋まっていく。


その言葉を聞いてか、アルスレッドさんの怒りの感情が流れ込んでくる。


「僕が救出し、そしてレベルアップしました。今はエクスカリバーです。さぁ、アルスレッドさん!」


僕の呼び掛けに呼応し、魔力を一点に集中させていく。

か細い悲鳴のような音を一つ、次の瞬間槍が真っ二つになった。


驚きのあまり固まる魔王に向けて、剣を振り上げた。


唸り声を上げてエクスカリバーから光の帯が高く聳え立った。

刃にヒビが入る。だが、まだ終わってない。


鞘に戻すや、上に飛ばされた魔王を追い掛ける。

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