第74話 組織秘密だ!
「ふむ」
体調が良くなった。
乱雑に切られた髪をメナードとか言う魔物が綺麗に整え、薬と良い食事であっという間に改善へと向かっていった。
賭けに出て良かった。
本当は森の方に行こうとしたのだが、もはやそんな体力も残されておらず、たまに訪れる街に向かった。
居る確証なんてない。
朦朧とした意識のなか、適当な兵士に影で干渉していつ頃来そうなのかを探るうち、引っ越してきた者の中に違和感がある者を見つけた。
兵士自体は気にも留めてなかったが、なにやら引っ掛かる。
淡い期待のままその付近までやって来たところ、意識を失ったのだ。
運も実力の内と言うが、まさにその通りだ。
おかげで私はまんまとウィル・ザートソンの懐に入り込むことができたのだから。
実力で敵わないのから、小細工もやむ無し、だ。
「しかし、あいつは頭のなかでも読めるのか?」
両手に施された魔法を見る。
せっかくだから幾つか今後の弱点を突けそうなモノをちょちょいと拝借しようとしたが、先手を打たれてしまった。
色々試してみたが、どれもダメだった。
なんて高度な魔法だ。
「しょうがない。直接歩き回って集めるしかないか」
よっこらせとベッドから立ち上がり、ドアノブを回す。
鍵は掛けられていない。不用心すぎる。
「!?」
扉を開けると小さい女の子三人が扉の目の前に立っており、こちらを見上げていた。
気配はなかった筈だ。
不覚にも肩を跳ねさせてしまい悔しく思いながらも三人を見ると、人間ではなかった。
猫耳や羽を生やす人間なぞそうそう居ない。
居るとするなら実験に失敗した魔法使いか、実験台にされた哀れな人間か、亜人のどちらかだ。
『もう体だいじょうぶ?』
『汗かいてない?』
『服持ってきたよ!』
三人がそれぞれ喋り出す。
聞くところによると、着替えを持ってきたらしい。
羽の子が頭にのせている布の塊がそれか。
敵意はなさそうだが、相手は魔物だ。
しかし。
一瞬考え、瞬時に表情を整える。
優しげに微笑んでみると、三人ともにへぇーと笑う。
子供は楽で良い。
「ありがとう」
服を受け取った。
恐ろしく軽い。素材はなんだ?
「そうだ。ウィル・ザートソンは何処にいる?用事があるのだが」
用事を終えて戻ろうとした三人を引き留めて訊ねた。
『お庭にいる!お話ししてるよ!』
『濡れてるからタオルよういしないとね』
『邪魔したらメナードに怒られるよ』
庭か。
「ああ、邪魔はしない」
何かの魔法を使っているのなら、邪魔したらこっちが被害を受ける。
『よかった。じゃーね!』
バタバタと廊下を走っていく三人を見送り、受け取った着替えを机に置いてから指定された庭へと向かった。
初めて戦ったあの庭。
今も思い出してもイライラするが。
「……………」
雨の中。濡れたままでキノコにボソボソと話し掛ける奴の奇行を見て急激に冷めた。
何をしているんだ。
ほとんどドン引き状態で奴を見ていれば、すくっと立ち上がり首を捻りながらこちらを見た。
嫌な予感がすると、思ったときにはバッチリ目があってしまった。
「………」
まて、なんでこっちに向かってきているんだ!?しかも私をガン見で!!
底知れぬ恐ろしさを感じて逃走した。
「待って!待って!シャドウ待って!」
「待たん!!」
「ちょっと用があるんだって!」
用?私にか?
怪訝な顔をしながら振り替えると、先程まで濡れてた姿は何処へやら。すっかり乾いた状態で追ってきていた。
「なんだ!?追ってくるな!」
「影の術について教えてもらいことが!!」
「組織秘密だ!教えるわけないだろう!」
「取引しましょう!それならどうです!?」
「……」
足を止めた。
「………何が知りたい。場合によっては答えるが」
同じくウィル・ザートソンも足を止めた。
「シャドウってさ、分身できたよね」
「…でき──」
るわけないだろうと言おうとしたところで、一度見せてしまった事を思い出した。
「──るが、それがどうした」
ずずいとウィル・ザートソンが詰め寄る。
近いやめろ。
「それって分身の形式はなに?式紙とか!?」
「それ教えたら私も何か要求するぞ。良いのか?」
「…物によるかなぁ。何がほしいの?」
取引が始まった。
「魔法具を幾つかくれ。薬でも良い。売れるものなら尚更、だ」
「魔法具か…」
何やら考え込んでる。
「ハデめが良い?シンプルのが良い?」
どんな選択だ。
「シャドウの要望に沿ったモノがなかった場合、僕が一から造るから。あ、でも殺人兵器はやだよ」
造るのかこの魔術師。
錬金術しみたいなことして、なんなんだほんと。
「あとで要望を纏める。で?式紙かどうか知りたいと言ったな」
懐から術紙を取り出す。
「ああ。そうだ。それで私の動きを記憶させている」
詳しい仕組みは全く知らないけどな。
で?それをどうするんだ?
「それを教えて下さい」
………は?
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