第70話 裏切り者
森を堪能したノジコさんはお土産片手に帰っていった。
今回のお土産は饅頭とチュロスです。
「んー」
『どうですか?』
「今頭のなかを検索中です」
来客用ベッドに寝かされた女性を見る。
スヤスヤと安らかに眠っているところを見るや、相当疲れていたらしい。
実際、目の下に結構な隈ができていたからね。
しかし、こんな方知っていただろうか?
ぐるぐると記憶にある顔と称号していき、一人だけ該当した。
だけど、黒髪だったはず。こんな白のメッシュは入ってなかった。
『何処かの奴隷だったんでしょうか?枷の跡がついてました。特に足が酷いですね。傷が危うく骨に到達するところでした。他にも裂傷が背中に、切り傷も結構な数でした』
「…………、奴隷っていうか、拷問に掛けられていたみたいだね。ほら、爪が半分ない」
『本当ですね』
小指と薬指の爪が無くなっていた。
だからマリちゃん顔色悪くしてたのか。
悪いことしたな。
「多分だけど、シャドウだね。何があったのかだいたい想像つくけど、あんまりにも顔つきが変わっていたから分かんなかったよ」
体も痩せてしまっていて骨が浮いている。
首都からあの街まで結構な距離があるはず。
きっと不眠不休で逃げてきたのだろう。
「メナード、点滴してやって。魔力も送るけど、まずは薬と栄養を与えないと。このまま死なれても困るし」
『かしこまりました』
マリちゃんのケアをして、あとはシャドウが目覚めるのを待つだけか。
「ゆっくりとおやすみ」
シャドウの体の少し上を撫でるようにすれば、ポウと淡く光って消える。
体に残った毒やら呪いは消し去った。
魔力と栄養はこれから最高のものを与える。
あとは、本人の気力次第だ。
冷たい鎖が悲鳴をあげている。
突き刺す氷のような痛みが全身を貫いている。
これは見せしめだ。
期待に沿えなければお前らもこうなるぞ、と。
「…うう、っ…」
くっと、持ち上げられ、引き抜かれる痛み。
指先が燃えるような痛みで眠れない。
「…ぁ、やめ……ろ…」
背中に走る衝撃。
冷たいのと熱いのが襲ってくる。
気が狂いそうになる。
「 …──を─クにあ─ます… 」
ふ、と、温かい掌が頭を撫でた。
ああ、そうか。もう大丈夫なんだ…。
結構なうなされ方だった。
あんまりにも酷いので、これでは精神的に良くないからと、貘(バク)を呼び出して夢を食べてもらった。
これでしばらくは安眠になるとは思うけど。
「はぁ、どうしよう」
翌朝。
「…………ここは?」
シャドウらしき人が目を覚ました。
『おはようございます。体の加減はどうですか?』
メナードを見て、そして隣にいる僕に視線が移った。
「ウィル…げほっげほげほっ」
酷く掠れた声だ。
「メナード、先に水だね」
『ですね。口を開けてください』
水を飲ませると落ち着いた。
「シャドウでしたっけ?」
シャドウが頷いた。
良かった合ってた。
「ウィル・ザートソン…。ということは、私は辿り着けたのか…」
「吃驚しましたよ。秘密にしてた家の前で倒れているんですもん。何処で知ったんですか?」
「…さぁ、誰に聞いたんだったか。意識が朦朧としていて覚えていない」
「そうですか…」
残念。
後で探さないといけなくなった。
また仕事が増えるー。
『何か食べられますか?』
「……何か…、スープに浸したパンが食べたい…」
『かしこまりました。少々お待ちください』
メナードが部屋から出ていく。
「…、さて、僕に用があって来たのでしょう?そろそろ出して貰えませんか?」
そう言えばシャドウは弱々しくもニヤリと笑った。
「なんだ。バレていたのか…」
シャドウは布団の影を自分の術に繋げ、とあるものを引きずり出した。
それは一丁のライフルであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます