第57話 予想外のリンゴ

脳内に甦るは、とあるアニメのあのシーン。

空飛ぶ城の心臓部。


木に守られた宝石がキラキラ輝いて空に君臨しているその姿。


あれを自分の手で造り上げてみたい。


そう。僕の夢はあの空飛ぶ楽園を作ること。

幸いにも、今僕の手の中にはほぼ全ての材料が揃っている。


細部は違えど、効果が同じならばそれはもう同じ存在と言っても過言じゃないだろう。


「ふふふふふふふ。さーて、やっちゃいますかー!!」







と、周囲にキラキラを撒き散らせなにやら企んでいるウィルを後ろから茂みに隠れてこっそり見ているマリとクー。


「お師匠、なにしているんだろ」

『きっとまた変なの作る気…』

「変なの?」


変なのとはなんだろう。


『前、トンネルに水流して“うぉーたーすらいだあ”作って遊んだ』

「何それ。水滑りって、ボート遊びと違うの?」

『こう、坂道を水に揉まれて落ちていく。最終的に湖に落下した…』

「え、なにそれ怖い」


豪雨で増水した川に流されるみたいな感じがする。


『すっごく楽しかった…!』


表情をあまり表さないクーが眼を輝かせていた。

そんなに楽しいのかと、マリは唾を飲み込んだ。


今度頼んだら作ってもらえるかな?


『おーい!時間よ!見張り変わって!』


目の前にリンリンが現れた。緑色の短い髪を後ろに流した女の子の精霊だ。


「まって、今お師匠が…、あれ?」


さっきまでいたはずなのに消えていた。


『空間の裏に逃げられちゃった…』

「なんの裏って?」

『じゃあよっぽど変なことするつもりよ、ウィル。私が見張っているから早く交代して、クー』

『ちぇ、はーい…』


クーがトボトボと歩いていく。可哀想に。


「それで、なんの裏に行ったって?」

『空間の裏。隣り合った世界でもいいわ。幾重にも時間が交差しているから、ちょっと危ないことしても、同調させなければこっちに被害がないの』

『危ないこと!?またお師匠は!!』


あれほど大変な目に遭ったのに!!


怒り心頭。

ぽすんとリンリンの手が置かれ、少し我に返った。

何かのルーンを使ったわね。鎮静かしら。


『だから、私たちが見張るのよ。手伝って、マリ』


枝を拾い上げ、地面に線を引く。

なるほど。


意図を察して、マリもリンリンの真似をして同じように線を引いていった。












視線が一つ、いや、二つ突き刺さる感覚。


これはリンリンのルーンだな。

表から僕の様子を見ているらしい。


その横の不安定なのはマリちゃん。


見られるのは恥ずかしいなー。でも、好奇心旺盛なのは良いことだ。


「じゃ、課外修行ってことで」


好きにさせてあげますか。


欠片を浮かべて、リンゴの木に触れる。


いきますよ!

それ!!


爪を立てて横に裂くようにスライドさせれば、リンゴの木の幹はいともあっさりとバラけて無数の帯の束になった。

黄金色の帯は揺らめきながら数を増やし、空間一杯に広がっていく。


光の粒が弾けながら踊る。


木の原型は最早無く、しかし空間一杯に広がるリンゴの香りが存在を主張する。


その真ん中に欠片を埋め込むと、絡み付き、急激に姿を変える。

リンゴの木の意思を汲み取り、枝を伸ばし幹を太くし天へと広がっていく。最早これは世界中では??と思った辺りでようやく満足したらしく、形が纏まっていった。


「………完全予想外なんだけど」


完成したリンゴの木の枝に果実が実る。

しかしそれは赤ではなく、黄金のリンゴであった。

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