第49話 つまりこれは『因果の奪い合い』です

凄い圧。

精霊達はみんな森の奥に逃げちゃって、此処に残っているのは戦闘可能にした僕の使い魔達だ。


『ウィル・ザートソン。今からでもこちらに来るのなら間に合うのだぞ?』


攻撃する気満々なのに、そう提案してくる魔王。

名残惜しいよね。わかる。何だかんだと魔王さんはあのお茶会を気に入っていたし。


でもね、僕には僕の事情ってものがあるんだよ。


「無理ですよ、魔王さん」

『…………そうか』


心底残念そうな顔をしながら、魔王は槍を取り出した。

懐かしい。アレで腹を貫かれたことがある。魔槍・ガエアイフェ。狙った対象を確実に貫くというホーミング機能付きのチート武器だ。


『ならば、俺様の手に掛かって死ね』


魔王の手から放たれた槍が飛んでくる。真っ直ぐ、僕の心臓目掛けて。


『ウィル様!!!』


衝撃が背中側に抜けていく。

うん、普通に痛い。


これでも最高の防御膜張っていたんだけどな、やっぱり無理か。血を吐き出す。


『ふん。さようならウィル・ザートソン。あのソファーは形見として大事に使ってやる』


もう終わりだと、僕から目を離した魔王。


「やだなぁ、紅茶もまだ出してないのに帰るの早くないですか?」

『!!?』


ははっ、魔王の心底驚いた顔が面白いな。


『なっ…貴様何故…ッ!?』

「完璧に槍が心臓を貫いた筈だったのに、なんで何事も無かった姿で居るのだ?って?」

『……っ』


図星。


「だって魔王さん、まだ何もしてないじゃないですか。右手のそれだって、“まだ其処にある”のに」

『!!??』


魔王の右手には魔槍・ガエアイフェが収まっている。どこも血濡れておらず、それどころかまだ投げられてもいない。


だから、僕の心臓はまだ脈打ってる。


『……ははっ、これはこれは…』


笑っている。


『貴様、何をやった?』

「そんなの貴方がよくわかっているじゃないですか」


その槍と同じ。


「その槍が“因果の逆転”で“狙った心臓に突き刺さる事実から逆再生している”ように、僕達は“死ぬ前の地点から常に逆再生している”んです。だから、僕は貴方に槍を投げられてないし、貴方は僕に槍を投げてないんです。すみませんね、先手を打たせてもらいました」


こうでもしないと確実に勝てないからね。

いくら僕の力が強くても、チート武器一つあるだけで戦況は変わる。絶対に油断できない相手なんだ。この魔王は。


僕の言葉に、魔王がこれでもかというくらいに口に笑みを浮かべた。


『くくく…、ははははははははは!!!!まさか因果の奪い合いの争いになるとは思いもしなかった!!!面白い!!!』


魔王が投擲の構えから、打ち合いの構えに切り替える。


『では俺様とお前の因果の奪い合い、どちらが競り勝つかまで思う存分遊ぶとしようか』


杖を剣へと姿を変え、構えた。


「ええ、最期に笑うのは僕ですけど」

『はははは!!それが貴様の遺言か!!ゆくぞ!!!』















空がさまざまな色に染まっていく。

それを非戦闘員の子達と見詰めながら隠れていた。


「お師匠大丈夫かしら…」


さっきからの凄まじい圧で体の震えが止まらない。

大福ちゃんもわたあめちゃんも、クーちゃんも行ってしまった。

窓から見える光景はあまりにも恐ろしくて、恐ろしくて。

見ているだけでも、グロウさんもヒウロさんも、ロックさんもメナードさんも、何度も悪魔に殺られそうになった殺られたのにそれでも向かっていく。

私も何か手伝えれば良いのに、お師匠はこの家を守る結界の維持をお願いしてきた。


なんて愚かなことなのだろう。

あんな化け物相手に私たち人間は戦争を仕掛けようとしていたなんて。


勝てるわけがない。


『マリちゃん…、よしよし…』

「ライムちゃん…」


頭を撫でてくれている。

ホッとする。


──パリン


「!?」


何かが割れた音。


『二階…』

「!! 大変!!」


敵だったら大変な事になる。


慌てて階段を上り音のした部屋へと向かう。

お師匠の作業場の部屋。

あんまり入ってはいけないのだけど、そんな悠長なこと言っていられない。


扉を開けると、輝く光の元を悪魔が攻撃しようとしていた。

怖い怖い怖い怖い。でも!!!


「ヒールアップ!!ファストアップ!!アタックアシストスタート!!」


体に付属魔法が重ね手掛けされる。


悪魔がこちらに気が付いた。


「はああああああ!!!!」


近くの棒を手に取り、悪魔の頭を狙って振り抜いた。

こめかみに入って悶絶する悪魔。

棒はモップだった。


『この小娘がああ!!!』

「きゃあ!」


悪魔の鋭い爪が振り下ろされたが、体に当たる直前に何かに弾かれた。これは防御魔法?いつの間に??

いえ、考えるのは後!!


「喰らえ!お師匠直伝、リニアモーターアタック!!」


モップに電撃魔法を付属し悪魔に向かってフルスイング。

電流が磁力の道を作り上げ、モップで弾かれた瞬間的悪魔の体が道に向かって引っ張られ、悲鳴を上げながら悪魔は物凄い速度で壁の方へと吹っ飛ばされていった。


「…アンド、はぁ、強制排除…」


思わず座り込んだ。

良かった、うまくいった…。


「!」


パチパチと光がしばたいた。

出所は攻撃されかけていたフラスコ。


「…え」

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