第50話 痛み分けってことで

『は、はははははは!!全く、貴様という奴はなんという狂人だ。まさかここまで狂っているとは思わなかったぞウィル・ザートソン!!』


紫色の光が点滅して、森の一部が抉り取られる。

それが一瞬にして逆再生。攻撃を受ける前の状態へと戻っていく。


飛んでくる槍が心臓を破壊し、それも逆再生。

すべての物事は無かった事になる。


「それはこっちのセリフですよ。一体いつになったら魔力枯渇してくれるんですか?」


槍以外の攻撃は後方へと滑っていき、結界が作用してチャージとして活用。使えそうにない魔法は反転させて軌道を沿わせて送り返す。

魔王の部下は結構打撃を与えているんだけど、この幹部連中がなかなか手強い。

何度みんなやられているか分からない。いくら因果の逆転があっても恐怖はあるはずなのに、それでも頑張ってくれている。

もっと戦闘用に弄れれば良かったんだけど、精霊体をあまり攻撃特化にすると感情消えちゃうから妥協しちゃったんだよね。


剣から放たれるビームが魔王の体を両断しても、部下の魔力で復活する。


はっきりいって狂い具合は僕とどっこいなんだよね。


『俺様を魔力枯渇させるなら、魔界全ての魔力を使いきらせないといけないな』

「…なるほど、つまり僕はいま一対一の勝負ではなく、僕VS魔界の全住人って感じなんですね。卑怯だわー」


そんなの先に魔界破壊しないと無理じゃん。

次からそうしよう。


『どの口がいう。この化け物め。俺様の槍の因果の裏を突くとは、頭おかしいんじゃないのか?』

「裏とは?」


おっともう気付いたか。


『この槍の特性、対象、貴様の心臓を破壊する地点からのスタートを回避する術はとある存在の道具でない限りは存在しない。その道具を利用せずに妨害すれば因果に矛盾が生じて槍が増える。心臓を破壊する槍と、妨害した槍だ。つまりはそこだけ存在が無理やり剥がれて分かれている』


おや?まさか魔王が次元の存在を知っているとは。

ちがうな、これは直感的にそういうものがあると感じ取っているんだ。


『矛盾が生じた場合、そうさせた方に反動の波が来る。あっという間に体が裂けてお陀仏だ。だが、お前の場合、心臓を破壊される因果を否定せず、その後から巻き戻りをさせている。槍の因果は達成され、かつ、お前の因果も達成されている。恐ろしい考えだ。吐き気がする』


オエと舌を出す魔王。

思わず称賛を送りたくなった。拍手喝采だ。


「お褒めに預かり光栄です」


笑顔たっぷりにそう言えば。


『反吐が出る』


と、返された。

酷いなぁ。


『だが、その仕組みが分かればこっちのものよ』

「?」


魔王が距離を取った。


「!!」


家の方から悪魔の気配。

え?いつの間に??


マリちゃんにこっそり付けていた防御魔法が発動し、僕直伝の魔法で強制的に悪魔が壁の外へと排出されてきた。

あ、クーが撃退した。


『ウィル・ザートソン、貴様はこれで終りだ』


再び魔王に視線を戻せば、凄まじい量の魔力が槍に集まってきている。

あれ?この感じ。


「………なるほど、これは考えたな、魔王さん」


久しぶりに冷や汗が流れる。

これだから、貴方は油断できない。


空が渦を巻く。

稲光が走り、槍に巻き付く。


『貴様はこれを避ける事はしないのだろう?』


意地悪く笑う魔王。

そうだね、僕はそれを受けざるを得ないだろう。

そうすればきっと。


「ですね。けれど、僕だってまだ見せてない“とっておき”はありますから」

『ははっ、それは楽しみだ、ナァ!!!!』


白い光を引いて槍が飛んでくる。

通常とは違う槍の攻撃にメナードが割り込んで庇おうとするけど、僕は謝罪をしながらメナードを蹴り飛ばす。


ダメだよ。

これは僕だからこそ、耐えられるんだから!!!


剣を杖に戻し、心臓に仕込んでいた魔法陣を発動させた。


半径10メートルの魔法陣が僕を中心に展開される。

形状は、チャージの魔法陣だ。


驚いた顔の魔王。


僕は意地が悪いからね、絶対に僕だけ損をしたくないんだ!!!


胸に切っ先がめり込み、一気に最深部へと到達。

心臓を貫き、魔王が仕込んだ“呪い”が発動した。


破壊された心臓が、再生する。魔王の呪いでだ。


「ゴボッ、いったいなぁ…」


やってくれるね、自分だって痛いだろうに。ほら、体が裂けてるじゃん。

ボタボタと赤い血を滴らせながら魔王が笑いながらこっちに飛んでくる。

僕の因果の逆転は発動していない。何故なら、殺されていないから。それでも槍は心臓に突き刺さったままだから死ぬほど痛い。


このくそ魔王め。

心臓を破壊すると同時に再生の呪いを掛けやがった。おかげで死にきれずにこんなにも苦しい。

因果の逆転に逆らったから魔王も反動が来てるけど、僕のいまの状況よりは良いだろう。


魔王が槍を掴んで、それをパイプにして体内からの攻撃に切り替えた。

全く鬼畜だよこの魔王は。

内臓ボロボロじゃん。


こういうのされるとさ、回復魔法の拷問って鬼畜の道具だよねと思う。いやほんと。現在の感想ね。

耳に悲鳴や怒声が聞こえるけど、まぁ、まてまてみんな落ち着いて。


ね?


『!』


がしりと魔王の手を掴んだ。


「魔王さん」

『なんだ?命乞いはもう』

「いいえ」


そんなつまらない事ではありません。


心の其処から笑みを浮かべる。

さすが魔王だよ。

少ない攻撃でフル充電完了させるとは恐れ入った。


「僕のお手伝い、ありがとうございました」

『!!?』


家の方向から半透明の青い鳥が膨れ上がり翼を広げた。


『な!なんだあれは!!??』


メキメキと音を立てて青い鳥は巨大化し、壁の内側にすっぽりと填まると、風の音に似た鳴き声を上げて空を見上げた。


「あれ?ご存じない?幸運の青い鳥ですよ」

『!』


魔王が壁の外へと吹っ飛ばされた。勿論槍も心臓から抜けた。ああ、痛い痛い。

胸を押さえて回復魔法をかける。

心臓を治すのは手間なんだぞ、全くもう。


幹部達も次々に壁の外へと弾き飛ばされ遠くへと落下していく。

魔王は空中で体制を整えたけど、想定内。


残党はいないな。

よし、計画通りだ。


みんなもちゃんと揃ってるし、少しイレギュラーがあったけど終わり良ければ全て良しってね。


『 ーーーーー!! 』


魔王が何か叫んでいるけど聞こえない。

ごめんね、もうその槍も使えないよ。何て言ったって、もう空間を断絶したからさ。


─── もう とんで いい?


青い鳥が要求してくる。


「うん、いいよ。おもいっきり飛んでおくれ、アヴァロン」


ズ…っ、壁が揺れる。


壁の内部から根が突き出して篭のように覆っていく。

そして。


森は空へと浮かび上がり、上昇していった。

















空の彼方へと消えていった森を呆然と眺めてしまった。

なにあれ、卑怯じゃね?あの魔法なに??


『魔王さま』


そうだ。ボーッとしている暇はなかった。


『ウィル・ザートソンとその一味は逃亡した!!我々の勝利だ!!!』


槍を掲げれば歓声の雄叫びが木霊していく。

そうだ。アイツは逃げたのだ、俺様から恐れをなして、一心不乱に空へと。


『………ちっ』


もやっとする。

確かに驚異は無くなった。森は丸ごと飛んでいき、土地をいくら傷付けど再生してしまうが、ウィル・ザートソンに呪いを掛けることもできた。

いくらあの化け物といえど、無傷ではいられまい。


だが、結果は結果だ。


必要な道は確保された。

目的は達成されたのだ。


空を睨み付ける。


だが、やはりモヤモヤが消えない。

なんだこれ。


『………どうされました?』


秘書が声をかけてきた。

ズタボロだった。

戦闘特化の部下がこうもやられたのにも納得がいかない。


『俺様は決めたぞ』

『はい?』

『敵前逃亡は許さぬ。やはりアイツは俺様の手で殺す。とうにかしてあの森を墜落させて全滅させるのだ』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る