第46話 敵認定されました

魔王城。

薄暗い部屋にランプが等間隔で並んでいる。

部屋はかなりの広さがあり、その中心には円状の机。

その机には総勢13人の影が座っていた。


『………で?どうするのです?』

『…むう…』


その中の一つの影が唸った。


魔王である。


『むうじゃないです。どうすんですか?アレ』

『仲間に出来ないのなら、もう諦めるしかないのでは?』

『いや、しかし…』


現在、魔王は幹部達に質問攻めを受けていた。

それはもうグサグサと鋭い氷の刃で貫かれているように、言葉が容赦ない。


普段ならばすぐさま激怒し処分に移る魔王なのだが、あの魔術師と関わってから丸くなっていた。

あと全て図星であるため言い返せないと言うのが主な理由だったりする。


『魔王様。アレは貢ぎ物ではありません』

『ただの土産物ですね』

『貢ぎ物であるならば何故領地にいれないのでしょうか?』

『確かにあれらは極上の宝ですが、そもそもの目的は違いますでしょう』

『貢ぎ物よりも大切なのは軍事力の増加です』

『だいたい魔王様が直々出向いてアレですよ。見込みありますか?』

『ない』

『なし』

『右に同じ』

『こうやってなあなあにして結局足を引っ張っているだけの唐変木は要りません』

『ていうか、今さら仲間になったとしても仲良く出来ません。人間なんて糞くらえです』

『そもそも人間か?あれ、妖精の類いじゃないのか?』

『なら尚更反対ですね。妖精なんて揚げて喰うだけしか利用価値がない』

『美味いのか?あれ』

『サクサクしてる。わりと美味い』


話が脱線しかけている。

だが、右腕とも言える秘書が強引に話を戻した。


『どうすんですか?いい加減に決めていただけませんか?

敵とするのか?しないのか?』


もししないのならば、と言葉が続く。


『万が一失敗したとき、魔王軍は内戦が起きて崩壊するでしょう。勿論、貴方という魔王の力不足で、です』


『……………わかった』


魔王は頷いた。

お茶が出来なくなるのは名残惜しいが、これも奴が拒むからいけないのだ。

ならば、せめて俺様が全力で排除してやろう。


『ウィル・ザートソンを我々の敵とする。人間界への進軍の邪魔となっているあの森を排除するため、戦力を集めよ』

















「そう。で、そこでウィンドアロー」

「はい!」


宙に浮く火の玉に風の矢が突き刺さると、五倍ほどの火の玉になって爆発した。


「はわー、これは、凄いですね…。なんでこんなこと教えてくれないんだろ…」


あまりの火力の上がり具合にビビっているマリちゃん。

複合魔法はこの世界で教えないからね。

火を大きくしたいなら魔力をたくさん注ぎ込まないといけないっていう教育だから、かなりの驚きのようだ。


「そもそも属性が一つの人もいるからね。仕方ないよ」


火しか出来ない人に風を撃ち込めといっても困るだけだ。

あとは魔力の量で強い弱いを判断させるためだ。

魔力が少なくても変に頭が回る輩が上の階級にいけなくする為だろう。


だから驚くことにこの世界ではこういう自然現象の理解が遅れている。自然現象を変える力を持っているのに、力の持ち腐れをしているわけだ。

酸素っていう概念も無いしね。

未だにマリちゃんもよくわかってないし。僕が一生懸命説明して、かろうじて酸素という吸える空気とその他の吸えない空気がある。って認識だしね。


「不完全燃焼による爆発もあるんだよ。見てて」


火の玉を出し、周りを結界でおおう。

結界はあえて目に見える形で配置。


魔法で作り出す火は“魔力”が燃料の役割を果たす。

だから空気がなければ燃えていられない。そこで結界で中の酸素をなくしていく。

すると、ほら。一瞬激しく燃えた後、火が消えた。


「あの、消えちゃいましたよ?」


心配そうにマリちゃんが訊ねてきた。

失敗したと思ったらしい。


「大丈夫大丈夫。で、これをこう、投げる」


広場の中心に投げ、結界を展開。勿論マリちゃんと僕の所にも。


そして火を囲っている結界を解除した瞬間、火が大爆発を起こした。

辺りが火の海に染まり、視界が赤く染まる。

バックドラフトの発生だ。


マリちゃんの炎よりも大きなそれに悲鳴もあげることを忘れるほどに驚いたらしく固まってしまっている。


「こんな感じになる」


結界内に雨を降らせて鎮火。


「………なんていうか、お師匠って、人間じゃないみたいですよね。だって普通こんなの思い付かないじゃないですか」


まさかの弟子から人間じゃないと言われるとは。


「違うよ。思い付いたのは僕じゃない。僕も教わったんだよ、これ。僕の前の凄い人が発見した事を真似しているだけなんだ」

「お師匠のお師匠?って事ですか?」

「そんな感じかなぁー。!」


結界に向かって何かが飛んでくる。

小さいもの。攻撃ではない、けど、なんだろう。

なんとも言えない感情が視える。


「お師匠?」

「動かないで」


通過を許可。


すると結界をすり抜けて、それは真っ直ぐ僕の方へと飛んでくる。


「!! お師匠うし──」


それに気付いたマリちゃんが声をあげる。

ぱしんと振り返らずに掴み取った。


矢だ。

魔法の矢、文矢。


掴み取った矢を見れば、みるみるうちに手紙へと変わる。


「…手紙ですか?」

「うん…。…………」


目を通す。

そうか、やっぱりそうなっちゃうか。

今までにない展開だから期待していたんだけどなー。残念だ。


「マリちゃん、みんなに伝えてくれる?

魔王軍がここを潰すためにやってくるって」


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