第45話 後の祭り
草原に1人立っている男がいる。
空色の髪を風でたなびかせてこちらに向かって微笑んでいる。
なんとも癪に障る顔をしている。
男の癖に女みたいな柔らかい雰囲気を纏いやがって。
「まぁいいさ。その顔もすぐに無くなる」
一緒に並び立つのは数百の味方だ。
いくら優れた大魔術師であろうと、数の暴力には屈するしかないだろう。
それに、魔法の威力を大幅に下げる為の魔導具も大量に借りてきた。合図を出せばすぐさま魔力を乱す装置がウィル・ザートソンに向けて設置され、起動する。
ウウウウと低い唸り声を上げながら装置が四方八方からウィル・ザートソンの力を削いでいく。
ははは、見よ。
アイツの驚いた顔。
そうだこれは極秘に開発していた兵器だ。
対悪魔用の最終兵器だ。
魔法が一番と思い込んでいる輩に思い知らせてやる。
お前らは魔法がなければそこらのガキと一緒だとな。
「くくく。さっそく効果があるようだな」
何度も掌の開閉を繰り返し何かを確かめている仕草をしている。
具体的な効果の内容は聞かされなかったが、王国に所属している魔法使いで何度も実験を行い、効果は確かだといわれた。だから、これでもうウィル・ザートソンは恐れる存在じゃなくなったことは確かだ。
剣を抜く。
それを合図にあちこちから武器を取り出す音が聞こえてくる。
笑い声。
罵る声。
万が一まだ魔法を撃てたとしても、こちらには魔法防御盾がある。
「反国者を討ち取れえええ!!!!!」
一斉攻撃を仕掛けた。
矢が飛び、剣が煌めく。
絶対絶望の状況なのに。
アイツは。
「さて、と。やりますか」
愉しそうにそう言った。
「!!!?」
ウィル・ザートソンから土埃が波紋のように上がり広がっていく。軽い衝撃波。
魔法発動の気配はない。
思わず口角が上がる。失敗したか。
覚悟しろ、ウィル・ザートソ──
「そびえ立て」
ボコンと地面が音をたてた。
次の瞬間、足元が激しく揺れ動き、ウィル・ザートソンの背後からは岩の柱が生え、次々に天に向かって勢いよく伸びていく。いや、もはやアレは崖だ。
幾重にも幾重にも崖が折り重なり、山が出来上がって…
「…あれ?」
右手にコーヒーを握っている。
窓の外にはいつもと変わらない光景。
机に広げられた書類に水滴が落ちた跡。
俺は寝ていたのか?
いや、まて?討ち取ったか?
記憶が朧気だ。
ウィル・ザートソンを痛め付けたような記憶がある気がするが、夢だったか?
書類を見れば日付が違う。
そうか、俺はウィル・ザートソンを討ち取ったのか。
「ふふ…。むふふふふふ」
あの顔は愉快だった。
ああ、これで昇給するだろう。
そうだ、王に報告を。
「いや、そんなの後で良いか…」
今はのんびりしていたい。
こんなもんかと見上げる。
目の前には立派な城壁。
門は開け放たれ、中にはきちんと街が出来上がっている。
住人は軍人のみだけどね!
ははははーい!!(笑)
まさかあの装置が完成しているとは正直驚いたけど、僕が関与してなかったから余裕で相殺できたよね。
いやー、惜しかったねえー。
拡散型じゃなくて、集中型にしないと効果がなくなっちゃうんだよあれ。残念残念。
というわけで、僕は計画通りに睡眠と催眠魔法を発動し、即座に作っていた創街生成の魔法陣でインスタントの街をちょちょいと造り上げた。
街の名前はレプリカ。
あっという間に眠りこけた軍人達に、ウィル・ザートソンは討ち取った。君達は元の街に戻り、荷物を取ってこの街に移住すると催眠を掛けた。
潜在意識レベルでね。
そして僕の合図で一斉に起き上がった軍人達は、催眠の通りに手続きも含めて移住を完了してくれた。
きっと郵便局とかはおかしいなと首を捻るだろうけど、開戦準備にてんてこ舞いな役人達は後で良いやと放置してくれるだろう。
「これで少しの間は平和だ」
門に催眠重ね掛けの魔法陣、街中にも色々仕込んでおいたから、この街にいる限り解けることはない。
そのうち軍人の意識も薄れて、各々気に入った店に定着して立派に街として機能してくれるだろう。
もしかしたら家族も誘って暮らすかも。
五年くらいで解けるけど、気付いたところで後の祭りだしね。
「貴方で最後ですよ」
「はい…。失礼します…」
催眠に掛かっている人が街に入っていく。
これで全員だ。
街を見るとみんな幻覚に掛かって上手くいっている。
食料なんかも問題ないだろう。
そこんところも上手く催眠掛けて動物を狩って何とかするって植え付けたから。
「よーし、帰るかぁ!」
伸びをしつつ森に向かって帰路に着いた。
今日はメナードとマリちゃんがケーキを作ってくれるって言ってたからね。
楽しみだなぁ。
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