第41話 お呼ばれされました

「ふーふんふふん♪」


午前中はマリちゃんの修行を見て、午後はオフ。

今は森の泉のほとりでウィンデーネとデートをしている。


『人魚の歌?』

「そうだよ。わかる?」

『ええ。この泉が繋がるときに人魚の子がきて聞かせてくれたのに似ているわ』

「良かった。練習した甲斐があった」


人魚の歌は魔力を込めなければ素晴らしく美しい歌だ。

といっても歌詞を口にすると自動的に魔力が練られてしまうから鼻唄だけだけど。


あんなに美しい生物が人を食らうなんて信じられないや。


『そう言えば、お弟子さんの様子はどうなの?順調?』


珍しい。

ウィンデーネがそんなことを訊ねるなんて。

人間に興味を持ったのか。

え、大丈夫なのかな?

悲劇の主人公みたいにならないか心配。


…いや僕も人間だから今さらかな?


「うん。凄いよマリちゃんは。僕の教えること全部理解して体現するの。あんまりにも才能ありすぎて自信無くなっちゃうなぁー」


いくら神様から加護を受けて幸運EXでも使い方を間違えると悲惨なことになっちゃう。


『良いじゃない。彼女ならきっと貴方の好い人になれるわよ』


ふわりとウィンデーネが消える。


神出鬼没な彼女は意地悪な消え方をするんだ。


「好い人ね…」


そんなの。


「とうの昔に諦めてる」













戸棚を漁る。

おかしいなぁ。塩がない。

というか岩塩もない。


「…使いきったっけ?」


覚えてない。


覚えてないけどないということは使いきったんだろう。

買ってこなくちゃいけないのか。


「仕方ない。メナード!」

『はいなんでしょう』


ぬるんと何かを作っている最中だったメナードが顔を出した。

手にはボウルと泡立て器。


「僕街に塩を買いにいくけど何かいる?」

『え?そこにございませんでしたか?』

「うん」

『おかしいですね…。私は私で塩の行方を探しますので。何か欲しいものといったらジャムですかね。トムヤンのイチゴジャムを所望します』

「わかった」


マリちゃんも誘おうかと思ったけど、ライムの所にいるらしい。

何か相談事しているのか真剣そのものだ。

そっとしておこう。


リウに変身おーけー。


「じゃあ行ってきます」

『いってらっしゃいませ』


ガシャガシャ何かのタネをかき混ぜているメナードに見送られつつ出発。


街に着くと更に荒れた感じになってた。

明らかに軍人の数が増えてる。

開戦も間近だというのに、僕に戦力割いてどうするんだって話だけどね。


てか。


「これは、一度僕を囮に誘き寄せて何とかするしかないな」


この街にはお世話になっているんだ。

それくらいはしないと。


「おばあちゃん、元気?」

「ああ!ああ!ウィ…リウちゃん!しばらく見ないからどうしたのかと心配してたよ」

「ごめんね。僕は大丈夫だよ」


店を見ると品数が減ってた。

補給もうまくいかないみたい。薬は不足気味。

これは作ってあげよう。

勿論いつもの通りに作るとバレるからそれなりに品質を落とさなきゃいけないのは辛いけど。


「お塩ある?」

「岩塩かい?粗塩かい?」

「両方あるなら両方欲しいな」


おばあちゃんは戸棚から二種類の塩を取り出した。

この国では塩は高価だからね。


お金を支払い受けとる。


「今度お薬持ってくるね」

「リウちゃんも大変なのに済まないねぇ」

「どーってことないよ」


このくらい大したことない。


「あ!そういえばね…」


コソコソとおばあちゃんが小声になる。


「あんたを探している人達がいるんだよ」

「? 軍人さん?」

「じゃなくて旅人さんなんだけど…、あのね、顔見知りって言ってた」

「顔見知り…」


はて?誰だろうか?


「夜、ノクターンの酒場で待ってるって。伝えたからね」

「わかった」


誰だか知らないけど会ってみるか。

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