第40話 レディ達が遊び歩きをするようです

扉を抜けると、濃厚な魔力の香りから街独特の土っぽい臭いになる。


あ、良い臭い。パンかしら。


『どちらにいかれますか?』

「そうねぇ。メナードはどこにいきたい?」

『えっ』


キョドるメナード。珍しい。


『あの、えと、私なんかが決めてしまってもよろしいのでしょうか?』


何いってるんだか。


「今日はメナードが楽しむ日なんでしょ?良いに決まっているじゃない!」


ほほを赤らめ、では、とメナードが口を開いた。


『喫茶店で、ケーキを食べたいです』


何この可愛い生き物。

男の時はイケメン過ぎて直視できなかったけど、女の時は時で目が潰れるじゃない。


ああやめて、首傾けるのやめて。

いろいろ危ないわ。


「勿論ですとも行きましょう。あとメナードさん手を繋ぎましょう。貴女危ないわ」

『…え?』


こんな可愛い娘、他の男がナンパしてくるに決まってる。

私が守らないと。








案の定沸いてきた男どもを威嚇しながらなんとか喫茶店に辿り着き、ケーキを嗜む。


久し振りな味。

森でのケーキも凄く美味しいけど、こっちはこっちで舌に馴染む味をしている。


てか。


「メナードなにしてるの?」


ケーキを分解している。


『どういう材料を使われているのかと思いまして』


なんで同じケーキを二つも頼んでいるのかと思ったら。


「それは仕事?趣味?」

『…趣味ですかね?』

「趣味なら仕方ないわね。後で私にも教えてくれる?」


意外な返答だったのか、メナードが嬉しそうに『はい』と言った。

時折お師匠が呟いていた「もえしぬ」っていう言葉の意味がわかりました。

これですね。


そのあと思う存分解体したあと綺麗に戻し、すべてを平らげた。

メナードが『理解しました』と最後に言っていたから、そのうち森でのおやつに出てくるかもしれない。








「はぁー、美味しかった。次はどこにいくの?」

『そうですね…。……!』


メナードの視線が揺らぐ。

魔物から完全に人型になっているのに、瞳が一瞬魔物のものになった。


『付けられてますね。マリさん。あの路地裏に入りましょう。振り返らないでくださいね』

「? はい」


メナードのいう路地裏に入った瞬間、メナードが突然私を横抱きにして高く飛び上がった。

悲鳴を上げ掛けたけど、お師匠のに比べたらと思うと冷静になった。

付けられているって言ってた。なら静かにしておかないと。


「!」


路地裏に男達が入ってくる。

服装を見るに軍人のようだ。


遠くてよく聞こえないが、乱暴を働こうと追ってきたらしく、姿を眩ました私達を酷く罵倒しながら去っていった。

ああ、良かった。連れがメナードで。


というか。


「よくこんなところでバランスをとっていられるね。しかもまったくグラつかない」


今立ってるとこ。二階建て住宅の、煉瓦がちょっとずれている所。

ヒールの先で踏んでるだけなのに、なんでこんなに安定性があるの?


『多分、私の中にヤギの血でも混ざっているのでしょう』

「なるほど」


納得した。






その後は邪魔されることなく服を買い、飲み食いし、メナードと存分に遊び回った。





あとはお師匠が変なことしてないといいけど…。

普段の姿を見てもメナードと同じように出来るとは思えない。


おやつや裁縫は上手いけど。


まぁ、なんかやってたら一緒に片付けよう。


そう思ってたのに。




「おかえりー」



何かやらかしていたどころか家がピカピカだった。

お師匠万能過ぎない?


『ただいま戻りました。これお土産です』

「ありがとう。おお!美味しそうなハム」


メナードがお土産ならこれが良いとごねたハム。

本当に目を輝かせている。


お菓子はありきたりだったかな。


『マリさんもお土産あるんですよ』

「マリちゃんはなに?」

「…………」


ええい。渡してしまえ!


差し出した袋をお師匠が受け取り、嬉しそうな声を上げた。


「ブルーバード店のドライフルーツケーキだ!!ありがとう!!これ大好きなんだ!!」


よかった。喜んでくれた。


『良かったですね』

「うん!」


また街に行ったときに買ってこよう。

ハムも一緒に。



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