第15話 マジリックの要求
夕陽みたいな髪色に、紫の瞳。
つり上がった眉毛にバッサリ切った髪の毛を見る限りヤンキー。
ただのヤンキー。
「会って早々中指立てるのやめてよ下品だよ?」
精霊達に嫌われちゃうぞ。
「うっさいわ、この空色インコ。テメーのせいで俺は家無し状態なんだぞ責任取りやがれ!!!」
「いやいやいや待ってよ。なんで僕?なんもしてないよ?」
嫌がらせもしてないし家を吹き飛ばしてもいない。
記憶にない。
「お前が俺の噂を流しまくったせいで依頼人から追われているんだよ!!!俺は便利屋じゃねーーんだぞ!!!引きこもってたいんだ邪魔すんな!!!」
「あれ?でも昔さ、俺は世界一の魔術師になるんだー!だからどんどん依頼取って有名になって大金持ちになるんだー!って言ってなかったっけ?」
当時の記憶が再生される。
そう、あれは春のある日、木の下での将来の事を語り合った。
「いっっつの話を持ち出してやがんだテメーはッッ!!?十歳未満の夢を今でも引きずっていると思ってんじゃねーーーよッ!!」
激おこプンプン丸此処に在り。
動きがワサワサしてて暑苦しさ半端ない。
そうかー、もう大金持ちの夢は諦めたのか。
わかるわかる。手当たり次第に依頼取ってると録でもない奴が半分以上やって来て下らないことにクレーム入れてくるんだよね。
まぁ、だから僕も引きこもってたいしね。
「ん?じゃあもしかして髪の毛切ったのそのせいなの?あんなにキューティクルヘヤーでアジアンビューティーみたいだったのに」
何度ジャンプーのCMの真似させて遊んでいたっけ。
残念だなぁ。
「ああ…。あんまりにもしつこいんでな…。分身造って陽動してもらってる。家は売り払った…、くそ、楽園だったのに…」
「………なんかごめん」
髪の毛半分以上使った分身体は凄い性能を持っている。
何せ魔術師は髪の毛に余分な魔力を溜め込むから、それを使って造る分身体は本体の半分程の能力を持っている。
起動期間は節約して1ヶ月。
全力放出で1日。
でもだいたい平均一週間だ。
「あの、なんだったら育毛促進薬作ろうか?」
「俺が怒っているのは髪じゃねーよ!楽園手放させた事についてだよ!話聞いてた!?」
「そっちか。うーん、責任っていってもねぇ…」
マジリックの住んでた場所は王都に近い。
小さい町とかなら結界や幻覚で誤魔化すことができるけど、大きな町だと違和感が出てくるのが早い。
人の往来が多ければ多いほど周辺の魔力バランスが崩れるのが早まるのだ。
だから僕はこんな人がめったに立ち入らない所に楽園を作ったんだけどね。
にしても、そうかー、悪いことしちゃったなぁ。
良かれと思って僕に来る依頼を全部横流ししてたもんなぁ。
『あの…』
「ん?」
メナードがすすっと間に入ってきた。
『こんなところで話合うのもなんですし、中に入られては?』
お茶やお菓子を用意しますよ、と。
僕の態度で敵ではないと認識した使い魔達がいつの間にか解散していた。
流石は僕の使い魔。自由。
「そうだね。じゃあそうしよう。マジリックも良いよね?」
「…………、…ああ」
家に入り、メナードの用意した茶菓子を嗜む。
僕はこの世界で存在しないはずの日本茶を特別に作り出したものを啜り、マジリックは紅茶を飲んでいる。
「音立てるのやめーや」
「断る」
「お前こそ下品だろ」
「失礼な。この飲み方がこのお茶の作法なの」
やっぱり日本茶最高。
「さて、えーとじゃあマジリックの要求は髪の毛伸ばす事じゃなくて…、楽園の再生?」
「そう」
魔術師にとって家の中を楽園にするのは義務みたいなものだ。
居心地のよい楽園にすればするほど心身共にリラックスし、魔法の成功率も魔力の回復率も上がる。
「詳細な注文は?っていっても僕が干渉できるのもそんなにないけど」
「まずは、人が居ないところ」
「必須だよね」
超わかる。
「で、自然が多くて、魔力溜まりが近くにあるところ。火の精霊の生息地。そんで髪の毛切ったせいで体の魔力が足りなくて辛い。あとお前に攻撃したせいでな」
「それ僕のせい…?」
突然の濡れ衣にびっくりしているよ。
「そんな条件の土地あるか?」
「うーん、一応いくつか思い当たりはあるけど。大きい生き物は平気?」
「? ああ。大丈夫だ」
「おっけー。じゃあ呼ぶから待ってて」
マジリックを置いて倉庫にいく。
たしかここら辺にあった筈。
ああ、あったあった。
竜の髭で作られた布で巻かれて保存していた角笛。
よし、使えそうだ。
「マジリック、ちょっとこっちこっち」
手招きすると素直に来る。
ヤンキーで怒りっぽいけど、根は素直なんだよね。
だから精霊に好かれる。
「………おい、なんでそんなもの持ってる」
「姫様に貰ったんだー。可愛いでしょ?」
幼角の生え変わりで作られた世界にただひとつの姫様の竜笛。
それを吹いた。
フィーッ!と風の通り抜ける音が遠く響いていく。
これで待ってれば来るだろう。
「これでよし。あとは、クッキーでも食べて待ってよう」
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