第5話 魔王の部下が襲撃に来ました

大量の手土産を貰ってしまった。


「うー、重い…」


いくらなんでも多いよね。少しは断ればよかった。あーでも、せっかくくれるっていうし、使い魔達が好きなのもたくさんあったから断れなかった。


全部浮かせているんだけど、地味に魔力を通して重さが伝わる。少しなら全然余裕なのに、こんなトラックで運ぶような量は流石の僕も無理。


「ロック連れてくれば良かった…。次からはロック連れてこよう。荷物持ちで」


か、もしくはグロウとヒウロ。でもグロウは見張り役があるしなぁー。うーん。


「ん?」


違和感。

魔力の方か?それとも空間認識か?


視てみると、空間把握特有の緑色の三方向の線が視界一杯に現れた。森の少し上に、いくつかの転移跡を把握。

もー、なんかあったら鏡で連絡入れればいいのに。

しかもまだ何か転移しようとしてきているっぽいし。


めんどくさい。一応座標だけ設置しとこう。


「このままノロノロ飛んでても間に合わなかったら嫌だな。テレポートしよーっと」


視界に目的地を補足。

景色がぐぐっと伸びて、転移地点にズームアップ。

体が光に包まれ、景色が切り替わった。


「みんな大丈夫?」


そう声を掛けると、殆どの子が魔物型になっており、大福の羽を生やして巨大化したわたあめの口からはコウモリの羽がはみ出していた。

わぁ、モムモムしてる…。


わたあめの側へ行く。


『はっ!ウィル様!!』


僕に気付いたメナード。一旦ハンマー下ろそうか。

手で落ち着けと合図をすると、みんなそれぞれ持ってた武器を下げたり仕舞ったりした。見た感じ小規模の戦闘があったのかな?


「わたあめ、ペッしなさい」

『むー。ぺっ』


びちゃっ!と音を立てて人が吐き出された。

人っていうか、サキュバスっていう女性型の悪魔だけど。


『きゅうぅぅぅ……』


うええ、わたあめの唾液まみれで目を回している。

わたあめの体液って麻痺効果あるからなぁ。


「誰か拘束して、僕がヨダレ流しておくから」

『はーい』


フェンリルのクーがルーンで拘束してくれた。


さて起こそうか。

掌に魔力を集めて。


「おはようございます!」


パンッ!と手を叩く音と共にサキュバスの肩が跳ね、強制覚醒。


はっ!と起きたサキュバスが目の前の僕に驚き、拘束されているのに驚き、僕の後ろの大福とわたあめを見て悲鳴を上げた。

何をされたんだろうか。いや、想像はできる。きっと羽虫のように追い掛け回されていたぶられて最終的に喰われてあんなになっていたんだろう。


可哀想とは思わないけどね。

不法侵入しないとこの子達は襲わないし。


「あなたは誰ですか?」

『!! ウィル・ザートソン!!』

「お?」


いきなり魅了魔法だ。

効かないけどね。


「もう、先制攻撃止めてください。あとメナードとグロウも大丈夫だから、武器を下ろしなさい」

『……ッッ』


サキュバスの首から大鎌が、頭上からはハンマーが離れる。

みんな血気盛んなんだから。


「まさか同じ名前な訳無いですよね、お名前はなんですか?通り名も言わないのなら強制的に聞きますけど?」


悪魔が命とも言える名前を言いたがらないのは当たり前だ。だから通り名でもいいと妥協した。それでも言わないのなら可哀想だけど無理矢理になっちゃう。

実は僕ちょっと怒っているからね。


せっかく作った僕の楽園に土足で踏み込んで、ぐちゃぐちゃにしてくれちゃってさ。


そんな僕の気持ちが伝わったのか、サキュバスは恐る恐ると口を開いた。


『わ、我が名はラビリンガス。き、いや、お前がウィル・ザートソンだな』


声が凄い震えているけど精一杯虚勢を張っている。


『魔王様のご厚意を無下にして許されると思うか!』


だけど、喋っているうちに立ち直ってきたらしい。震えが消えてきた。


『魔の付くものを側に置いておいて、参加しないなどと寝言を言うつもりならば、強制的に連れてこいと言われて参ったのだ!!』

「ふーん、そう」


魔王ならやりそうだな。

多分この子派遣してきたのも僕の性別考えての事だろうし、てか無性別だからこういう強行したい交渉によく使うんだったっけ?

まぁいいや。


『わかったか!!なら、魔王様が許している間にさっさと使い魔全員連れて私に付いてくるんだ!!』

「やだ」

『や、え!?』


そんな死ぬほど吃驚した顔をしなくても。


初めて断られたのかな。


小さく「まってまって予定と違う」とか言っちゃってるし。「私さっき魅了使ったよね?」と自問自答までしている。

結論してなかったと思うって事で再び僕に魅了を使ってきたけど、残念ながらプレテクト掛けてるからそういう精神攻撃効かないんだよね。


ラビリンガスが頑張っている間暇だからメナードにハーブティー淹れて貰って目の前で飲んでいると絶望の顔になっていた。

あ、もしかして魅了効かなかったの初めてなんだね。


『なんで、魅了が効かない…』

「なんでって、そういう人もいるんだよ。知らない?」


フルフルと首を横に振るラビリンガス。

実際そういう人いるし、僕の場合は魔法で精神プレテクト掛けているからなんだけどわざわざネタばらししてやる気もないから、効かない人と認識してもらった。


すると再び震え始めた。

分かる。唯一最大の武器が使えないとわかった瞬間どうしたらいいか混乱するよね。


『ああああーーーー!!!!この規格外め!!!お前たち!!!もうこの森破壊しろ!!!!』


上空にゲートが開かれるのを確認した。


やっぱりあれはゲートだったか。

魔力が集まって扉の形になる。周りの雲が禍々しく渦巻き空気を汚染していく。物々しくも荘厳な扉が構築されて魔王のシンボルである三ツ目の羊が現れると、鎖で縛られていた扉が激しく内側からドンドンドンと振動する。


『あっはははははは!!!!ざまーないわね!!魔王様があんたは良い戦力だから丁重に扱いなさいと言われたから出さないでおいてあげたのに!!!あれが開けばもう終わりよ!!!ここの森をぐちゃぐちゃに破壊してあんたも存分に痛め付けてから連れていくから覚悟しなさい!!!!』


三つの南京錠の鍵が開き、鎖が弾け飛んだ。


扉が開いて、中から大量の蠢いたモノ達が一斉に飛び出してくる。


これで終わりか、と思われた瞬間、ラビリンガスの顔が固まった。


「一時停止」


その言葉と共に突然魔物達の動きが止まったのだ。

え?え?と混乱しているラビリンガス。


「逆再生開始」


僕がそう言えば、映像の逆再生のように魔物達が扉へと戻っていく。そして弾け飛んだ筈の鎖が戻り、南京錠の鍵が閉まる。そして雲がバラけ始めた。


『う、嘘嘘嘘!!!なんで!?魔王様から賜った魔法がこんな簡単に乗っ取られる訳がっ!!!』

「魔王さんに言っといて、作りが雑すぎて取っ掛かりが多すぎるよーって」


次々に消えていく雲に巻き込まれて扉もバラけていく。そして遂に何もなくなった。


「捕縛。受け取り拒否しますっと」


指先で示し、ひょいと山の向こうへとスライドさせると、魔力のマーキングが飛んでいった。

これでよし。


ラビリンガスを見ると、無になっていた。


うん。

存在を消したいのかな?

でもね、一応僕の楽園にやったことの報いは受けてもらうから。















魔王城。


ラビリンガスが俺の目の前でシクシクと泣いていた。

その頭には何故か角ではなくウサギの耳が生え、お尻にも本来の尻尾とは異なるフワフワの丸い尻尾が付いていた。

そして首から下げられたプレートには魔俗語で『森を荒らしてごめんなさい』との文字が。


『…………ふ』


面白い。

いくら下位の魔族とはいえ、こんなにしてくれるとは。

心の底から笑いが込み上げてきた。


「ふはははははは!!!!これはますます手に入れたくなったぞ!!!」


ウィル・ザートソン。

覚悟しておけ!!

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