最強妹がひっそりと世界を救う傍らで〜気付けばポンコツパーティで魔王を倒す事なっていた〜

Sinbu

零章 はじまりの村

第1話 成人の日


 リタはいつも通りの時刻に窓辺のベッドから体を起こす。


 外はもう一時間もすれば朝日が差すだろう。



 木造家屋の平屋に父と妹の三人暮らしである。

 二人はまだ寝息を立てている。



「ふぅ、今日はあいつらの行動力からして何かやらかしそうだ。念の為用意しておくか」




 今日は村の成人式。

 大凡の若者は上京を夢見、冒険者として一旗上げるのが幼い頃からの目標だ。


 黒光りする自分の髪に出来たしつこい寝癖を水で押さえ、革の腰バッグにいそいそと小道具を入れると、壁に立てかけた手作りの木刀を手に持ち朝日もまだ上りきらぬ外へと静かに出ようとした。



「お兄、どこへゆく」


「ミサ。起きてたのか、危うくカッコつけた様に家を出で素振りに勤しむ勘違い努力家野郎に成り下がる所だった」


「うぉぉぉ!! 嫌だ嫌だ、そんなふうにいつも通りの振りして今日で最後なんでしょ! お兄も皆と一緒に街に出て、ギルドに登録して、最初は薬草なんかを刈ったりして気付けばその腕前でギルドマスターに目をつけられて、あっという間にSランクで都に呼ばれて、勲章もらって女の子とウハウハハーレムでミサの事なんか忘れちゃうんでしょ!? えーん」



 腰辺りでしがみつきながら、鳴き喚き、妄想の限りを喋り尽くすポニーテール少女。


 生まれた頃から白いその髪は白馬の尻尾如く銀色に光っている。

 リタは自分の胸下ほどしかない妹の頭をポンポンと優しく撫で、頬をかいた。



「止めろ、それ以上の言葉は兄を地獄へ追い詰めるむしろ辱めだ。ミサの事だから全てを予期して何か兄へのサプライズ等準備してるかもしれないが、今回はそれをまさかの発想を持って兄はお前を超えようと思っている」


「……なぬ?」



 リタはそう言いしゃがみこむと、妹の目を見てしっかりとした口調で言った。



「俺は街へは行かない」


「馬鹿な! ほんとに? 貴様」

「兄様だ。口が悪いぞ妹。今回ばかりは驚いたか。兄も成長した、成人だからな。さて朝の素振りに行ってくる」



 リタは満足そうな笑みで木刀片手にまだ薄暗い外へと繰り出す。そんな兄の後ろ姿をニコニコしながら見送るミサはまあいいっかと腕まくりをしていた。








 サンブラフ村は朝から飛ぶ鳥も逃げる程に賑わいを見せている。村の端から端まで行って帰ってくるのに数分程度しか要さないような小さな村だ。



 そんな村のあちこちにはわかり易いほど手作りの花飾りが、打ち付けられた杭に結ばれ僅かばかりの華々しさを醸し出している。 

 村の中心では儀式のように灯火が焚かれ、森の守り神であるジェバ神を象った木造が鎮座していた。


 辺境の村である。

 大した特産物もない。

 年に二度、春穀祭と夏祭りが小規模に開かれるぐらいでそんな事でも退屈な日常では村の皆も楽しみにしていた。



 しかし此度は違う。

 今宵はこの村で齢15になる少年少女が成人式を迎え、青年淑女となり、村に根を張ったり、或いは街へと一人立ちしていく数年に一度の式典とも言える大イベント。


 村に残る者達にとっては喜びと寂しさが混同する日とも言える。



 さてそんな中、二人の少年が人気もない村端で何やら楽しげに談笑していた。



「おいリタ、今日でこの村も最後だろ?ルーシアも誘って森に繰り出そうぜ!野ウサギの二、三匹でもとっ捕まえれば最後の晩餐に俺達青・年・の手で華を添えられるって訳だ」


「……無駄な体力を。主賓は大人しく夜まで談笑でもしてればいい。下手に事故にでも巻き込まれてみろ、成人式は一転、火葬場と化す」


「おいおい、縁起でもない事いうんじゃねーよ。俺達なら大丈夫に決まってんだろ。街に行って、ギルドに登録。とっとと依頼こなしてあっという間に百姓暮らしからSランクの英雄だ」



 リタの肩に後ろからガバッと腕を乗せて野心を滾らせるのは、リタと同い年のラックと言う赤毛の短髪を上に立ち上げた快活な男だ。



 身長は僅かにラックの方が高く、ガタイもいい。リタの方はすらっとしているが日々の鍛錬で無駄な脂肪が一切ないと言った細マッチョ体型だろうか。


 そんな軽口を幼馴染ながらに叩きあう中、なーに面白そうな話してんのぉ?! とリタの脇腹を後ろから小突く者。


 リタ、ラックと共に今日成人を迎える幼馴染の女、ルーシアがいた。ルーシアの小突きを受け流しながらリタはラックにぼやく。



「ぐほ、しかし予想はしてたがやはり思考が若すぎる。浅はかと言わざるを得ん。ついでにルーシア……素人だったらモロに入ってるところだ」

「おっ!! いいとこに来たなルーシア。丁度お前を誘おうと思ってたとこなんだよ」


「え、なになにー? 面白そう。皆お前たちは主役なんだから夜まで大人しくしてろって言うのよ、そんなの無理よね、若くて体力有り余ってるんだから!」



 だろう? 

 と赤髪のラックはリタを自分の方へ掴み寄せながらルーシアと円陣を組むように声をひそめた。


 これから三人で村近くにある森へと入り、野ウサギを取っつかまえて華々しく成人式に花を添えようと言う話だ。


 ルーシアは長い栗色の髪を右肩に流すとラックのその話を夢中で聞いた。



「と言うわけで時間は限られてる。用意が済んだらまたここに集合、三十分以内だ、いいな?」

「オッケー」

「それはやはり俺も行くのだろうか?」



 リタは面倒くさそうに目を輝かせる二人の奮起を真っ向から無下にする。



「当たり前だろ! リタぁ、俺達三人なら街で名を挙げるのなんざあっという間だ、村でトップクラスの腕っ節。なんせローグ老の御墨付だぜ、な?」



 嬉しそうにそう言うラックの言葉を聞き流しながらもリタは嘆息した。

 予想はしてたが、やっぱり億劫だとリタはボソリとつぶやく。



「あ? なんか言ったか?」

「いや」

「なんだよ」


 リタはだがキリッとした目でその眼光をラックと訝しげな顔をするルーシアに向ける。



「まあ何にせよいつも入っている森だからといって今日も何もないとは限らない、準備はしっかりするんだ。しかしタイムイズマネー、十分後に集合がベスト。そして俺は行かん」



 そう言うリタにラックはいや、どっちだよ! とツッコミを入れながら早速準備だと自宅へと戻って行こうとして再びリタの元へと飛び込んだ。



「って、お前も行くんだよ!!」

「何故」

「何故じゃねぇよ。毎度やらせんな、物語が進まねぇだろーよ! 青春だよ青春、最後の青春! 頼むよ、付いてきてよぉぉリタさん」


「リタぁ、いい加減私達も成人よ? 付き合いってのもこれから増えるのよ? それに明日にはリタも街に出るんだし。腰が重いのもそろそろ直さないと」




 リタはなんだか最もそうな二人の幼馴染の意見に自分が間違っているのかと悩み、頭をかいた。



 だが準備はすでにしてきているのだ。

 特にすることもなく、リタはその場に集合した。



 もう準備出来とったんかーい! とその後にラックから突っ込まれたのはいつもの事である。




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