5.惑星ループ

 諦め掛けた。心が弱いのだ。実際にはすぐに折れてダメんなってしまうのだ。それでも生きたいと思うんです。バーチャルストロング酒を飲んだからだろうか。幻覚なんだろうか。心のチャンネル登録数がえらく増えているとに気がついた。

 一瞬で十万人なんか超えた。桁がおかしなった。数字の中に英字だったり、かなだって交ざり始める。期待と不安で不安定に眺める。喉が渇いた。しばらく眺めていると数字はゼロに戻った。夏の日の幽霊にでも逢った気分だった。

 少しだけ懐かしくて嬉しくて、でもやっぱり怖くて吐いてしまった。


 泣き疲れて眠ってしまった。心の鋭利な鈍痛に起こされた。そしたら。

「あの。これ」

 と水を差し出された。

「ありがとうございます」

 と言って受け取った。


 今日はいい日だなと思った。


 冴えない物語のヒーローみたいな人がいた。


 とにかく彼女のいる場所に行きたかった。何ができるわけでもないのに。

彼女の発した周波数。免罪符みたいな孤独のちゃんねるは間違いなく僕たち、私たちにとってはそれ自体が壮大な共通項だったのだ。

男の子や女の子。性別すらも関係がない。もっと普遍的な。時代の空気とも言われるような。僕たちが吸って吐いた時代の空気。もはや僕たちのすべて。精神が未熟で。それでも生きたいと願った、子供で大人の、大人で子供の、若者の。すべて。


 届いていた。彼女が一瞬だけ発した寂しさの周波数は僕たちに届いていた。僕たちがインターネットと認識しているものの全てに刺さっていた。僕たちはインターネットになりたかった。僕たちは初めからインターネットそのものだった。

 

一人の女の子が泣いていた。僕だけでも、私だけがその孤独を。やりきれなさを。汚い公園でゲロまみれになって踊る君のことを。綺麗だなって思った一瞬を。僕たちだけでも覚えていなければならない。彼女のどうしようもなく綺麗で汚いゲロまみれの藍と愛と哀が混ざった一瞬が確かに逢ったことを僕たちだけはわかっていなければならない。それを受け取るのが僕一人じゃなかったというのは幸福でもあり寂しくもあるけど。悔しいな。もう。


 精神電波を受信せよ。精神電波を受信せよ!!Q!精神電波を受信せよ!!!!!!バカの飲み薬を入れろ。精神のチューニングを乱せ。乱せ!!!僕たちにIが足りないのなら。哀だって逢いだって愛だって使ってやれ。精神のバルク品だ。粗悪だ。どこ産なんだ。メイドインダメ人間か。通信がいつも不安定だな!!いつもは死ぬほど弱いのに・・・少しでも波長があってしまうと迷惑なほどに最強になってしまう粗悪品ばかりだ。嫌んなってしまう。それでも。


 僕たちはみんなしてインターネットの女の子ばかり好きになってしまう。

 鬱くしい月ノ光に群がる蛾のような純粋さと。身勝手に美しい一匹の兎を思い描くリビドーと。


 僕たちはみんなしてインターネットの女の子ばかり好きになってしまう。

 僕たちはみんなしてインターネットの女の子ばかり好きになってしまうんだ。


 女の子の心のチャンネル登録数なんて、寂しさの周波数なんて十万人ぽっちじゃ受信しきれないのだろう。

見たこともない桁に繰り上がっていく。コンピューターの世界ですら演算不可能だった。精神電波の受信数が多すぎたのだ。数字なんてものでは表わせないんだ。



 つまり僕たちに何ができるかっていうと。


 あなたに逢いたいなって。


 そんなため息交じりの電波をハウリングさせて。


 触れられない存在に手を伸ばして。


 はじめにあいがあったと。


 片思いと勘違いの海をぼんやり眺めることくらいなんだ。



★〜☆


 五千円で買ったボロボロのチャリンコ「惑星ループ号」で走っていく。とにかくいますぐ行かなければいけないと思ったから。生きなければいけないと思ったから。生きていないと思ったから。


 全力でペダルを漕ぐ最強の僕たちには車が鳴らすクラクションなんか聞こえなかった。結構な速度を出す車にモッシュされながら声にならない声で叫んだ。


「あー!!!!!!!!!!!あー!!!!!!!!!!!あなたに逢いたんだよ!!!忘れらんねえんだよ!!!!」



目を覚ました。


目の前で女の子が泣いていた。

目の前で男の子が泣いていた。

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