血湧ケ、肉踊レ!
@kasekizawa_0302
◆PROLOGUE
私が生まれて初めて観たテレビ番組は、毎週現れる悪者を可愛らしい女児達が問答無用にぶっ飛ばしていくアニメでも、爽やかなお兄さんが子供たちと一緒に踊って主婦たちの心を鷲掴みにする子供向け番組でもなく、―――――たしか毎週木曜日のPM8:00に放送されていた音楽番組だったと思う。
テレビ越しに映るアーティストと呼ばれる人達は、歳や衣装もバラバラだけど、みんな共通して星をばら撒いていた。
今思えばあの星は、アーティスト達の姿に感動と衝撃を受けた私が見た幻だったのかもしれない。簡単に言えば、その人達はキラキラとしていたんだ。
数多くいるアーティストの中で、テレビから溢れんばかりの輝き持ち、私の目に焼き付いて離れなかった人物達は、俗に言う「アイドル」と分類される人達だった。
アイドルである彼らの歌声やダンスが、ファンを魅了し、ステージの熱は上がっていく。
テレビ越しの完成されたステージに、私は目を奪われ、魅了されていた。
テレビの奥のエネルギーに満ち溢れた空間に自分も溶け込みたいと幼いながらも感じるものがあったのだろう。皿洗いを終えた母が居間に戻ってきた時、赤ん坊だった私はテレビ画面におでこを擦りつけたり、テレビの裏へ回ったり、何とかテレビの中の世界へ入ろうと試行錯誤していたという。再度言っておくと、赤ちゃんがしていたことである。成人済みの現在は断じてしていない。
『ねえ、お父さん』
『ん?何だ?そら?』
私が十歳の頃、一緒にテレビを観ていた父に訊いたことがある。
『アイドルって生まれた時からアイドルなの?それともお腹の中にいる時からキラキラしてるの?どのくらいの割合でそういう人が産まれてくるの?』
我ながらバカ、いや、純粋な疑問だった。
おそらく父も「ねえ、赤ちゃんってどうやって産まれるの?」などという、子育てをする上の通過儀礼のような答え辛い質問よりも、答えやすい内容で安心していたんだろう。
ほっと息を吐いた父は私の頭を撫でながら、こう答えた。
『そら。人はみんな自分のお母さんとへその緒で繋がっていて、特別誰かが光っていることなく産まれてきたんだぞ。みんな、はじめは磨かれていない石だったんだ』
『石?』
私は興味津々な様子で父の話に聞き入っていた。
『ああ、原石だ。そらがキラキラして見えている人達も、はじめはただの石だったんだ。その石を長いこと磨いていって、こうして輝いているんだ。もちろん輝くまでの時間には個人差がある』
『ふーん、じゃあ私も磨けば輝くの?』
『輝くに決まってるだろ?父さんからしたら、そらはもう十分光って輝いているけどなあ』
『それはお父さんが私を身内贔屓で見ているからでしょ?』
『…わが娘ながら何という冷めよう…。でもな、そら。アイドルというものは、本人が目指すだけじゃダメなんだ。石には足がないだろう?』
『足?』
『階段ステップを上る足。彼らを支える脚や、道を一緒に作っていく人達がいるからこそ、彼らはこうして成功して、輝いているんだよ』
『ふーん…。あ!今リーダーのたっくんがウインクしたよ!かっこいいー!』
『おお?!そらはたっくん推しか?…うーん、流石わが娘!見る目があるなあー!将来が今から楽しみだなあ!」
『へへへ!』
それから歳を重ねていっても、私のアイドルへの憧れは募る一方だった。けれども自分がステージに上がって、歌を歌って、スカートを翻して踊ることにはさらさら興味が無かった。
私はアイドルを目指す者を、アイドルの道へと導く役割に憧れを募らせていったんだ。
アイドルを目指す原石を、自分の手で輝かせてみたい。アイドルにしか働かない五感と、このアイドルにしか反応を示さないハートを使って、作り上げてみたい。
――――まだ誰も見たことのない色を帯びたアイドルを。
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