亜人武器変成術師と犬耳少女

@makobara

第1話異世界へ

「はあ、疲れた―。早く家に帰って横になりたい……」

部活の練習がハードすぎて今にも倒れそうだった。

俺は陸上競技部に所属していて、通っている高校はスポーツの名門校のため練習は地獄だった。


「やっと部活が終わった―、もう死にたいぐらいだよ」

そう独り言を言いながら、部活帰りの途中、電車に乗るためにスマホ画面で時刻表を確認していた。

その瞬間!


「君!危ない!」

知らない男性の声が聞こえた。

(誰だ?俺に言っているのかな……)

疲れによりもうろうとした意識の状態で男性の声にすぐには反応することができなかった。


すると、視界に飛び込んできたのは、トラックだった!

猛烈なスピードでこちら目がけて突っ込んでくる!

やばい、動かない、体が動かない!早く動かないと! 

しかし、体が思うように動かない!助けて!―――ぶつかる!!




………

目を覚ますと大きな岩に横たわっていた。

周囲は豊かな原生林が生い茂り、樹々の緑や空の青空が相まって、絵画のような景色が広がっていた。


これは現実ではないと思い、あたりの景色を見渡した。

透き通るような青みを帯びた空や近くからきこえる滝の音や滝から流れてくる濃い霧のようなひんやりと湿った空気。近くの生い茂る葉は、冷たい汗をかいたように朝露にびっしりと濡れている。


最初は夢だと思ったが、今までこんなにバーチャルリアリティーのある夢を体感したことはあっただろうか。ビジュアルとサウンドに加えて触感や匂い。



「何なんだよ、ここは。てかどこ?」

あたりを見渡すため起き上がろうとした時、頭の上には、冷たい水で濡れたタオルがのっていた。

「なにこれ?タオル?」


すると、『ピンポンパン~ポン、ピンポンパン~ポン、ピンポンパン~ポン』

学校のチャイムのような音が聞こえる。


「みなさん、こんにちは。異世界へ、ようこそ!私はこの世界の神です。訳があってこの世界に私が転生しました。これから、皆さんには私が出すミッションをクリアしてもらいます。では最初のミッションは、『信頼できる仲間をつくること』です。ちなみにこの世界にはモンスターがたくさんいますので、気を付けてくださいね!あと、詳しくはあなた方に配布したスマホで確認できますので、よろしくお願いします。では、また!」


「何だったんだ、今のは?」

意味がわかない、ここにどうやってきたのか、本当にここは俺がいた世界とは別の世界なのか、分からないことがたくさんありすぎて頭がパニックになりそうだ。


意味が分からないまま、とりあえず手に持っているスマホを起動した。

――どうも!神門(ミカド)リュウセイさん!――

どこからかまた突然声が聞こえる、驚いた俺は辺りを見渡すが誰も居ない……。

――ここです!スマホの中で話しています!――

スマホから声が聞こえてくることに気付き、

「今の声、聞き覚えがあるような……。でも思い出せないな。誰だっけ?」

数分、悩んだ結果、


「あっ!さっきの神様か!」

――そうです!神門リュウセイさん!でも少し違います。私はあなた専用の神です。簡単にいうと先程の神のコピーのようなものです。今日からリュウセイさんのサポートをいたします!最初のミッションをクリアできるように頑張りましょう!―

「いろいろ聞きたいことがあるんだが……」


――はい!なんでもおっしゃって下さい!――

「まず、どうして俺はこの世界に転生されたのか教えてくれ。」


――少し、お待ちくださいね。えっと…神門リュウセイさんは歩きスマホをしていたせいでトラックに轢かれて即死だったそうです。――

確かに目の前にトラックが突っ込んできたのまでは覚えていたが、まさか自分が死んだなんて思わなかった。


「でも、なぜ異世界に転生されたんだ?」

――それは、この世界の神が死んでいる時間がもったいないから転生した方がよくね?っという意見で転生されました!――

「適当だな、神は。」


――神はそんなものです!ではリュウセイさん!最初のミッションである信頼できる仲間を作りましょう!あと、これから一緒に旅をするにあたってまず私に名前を付けてください!――

「そんなの困るよ。自分で決めてよ。」

――それは無理です!これは決まりなのです!名前が決まらなければ旅が始まりません!――

「じゃあ、俺の名前が神門リュウセイだから俺の神門をとって、きみの名前はミカド。俺はリュウセイ。これでいい?」

――とても気に入りました!ミカドはこれからリュウセイサンの役に立てるように全力で頑張ります!――

「ああ、よろしく、ミカド。」

自分の苗字を呼ぶなんて少し変な気分だった。


――あっ!あとリュウセイさん、これをどうぞ!――

ミカドがそう言うとスマホ画面からイヤホンのようなものが出てきた。

――スマホと会話していると他人からみたらおかしく思われてしまうので、このイヤホンを付けてください!そうすると、心の中で話してくだされば会話することができますので。――

「すごい、便利なものだな。分かった。」

試しに心の中で会話してみた。


(ありがとう、ミカド。)

――どういたしまして!――

前の世界だったら、考えられないことが起こっていることに少し戸惑いはあるがそれ以上にこれから俺の新しい人生が始まることに少しだが楽しみもあった。


――リュウセイさん!誰かがこちらを見ています。――

(どこだ?)

――後ろの草の陰に誰かいます!――

「誰だ、隠れてないで正体を見せろ。」

そう言って後ろを振り返ると、草の陰から正体を現した。


リュウセイの前に現れたのは見た目が高校生ぐらいの女の子だった。

しかし、頭の上には犬耳が生えている事に気づいた。


パニック状態になったリュウセイは

「化け物だ!」

と犬耳少女に言い放った。


「な、なによ…⁉ びっ………  くりした……」

リュウセイの突然の大声に犬耳少女はびっくりして目が丸くなっていた。


(そ、そういえばさっき、神が『ちなみにこの世界にはモンスターがたくさんいますので、気を付けてくださいね!』って言っていたな。これがそのモンスターか。このままじゃ、せっかく生き返ったのにまた死んでしまう。)


そう思ったリュウセイはすごい勢いで走って逃げた。


「ちょ、ちょっと、どこ行くのよ! 待ちなさいよ!」


犬耳少女は必死に走っていったリュウセイの後を追っていった。


リュウセイが逃げた先は滝岸であった。

滝に近づくと流れが逆巻き、白く細かい泡が勢いよく上がっていく。水面を境に空中にも水中にも滝があるみたいだ。

そして、地球のなかに飲み込まれていく白濁した水を呆然と見ていた。


「やばい……この中に飛び込んでもあの犬耳モンスターに捕まってもどっちも結局死んでしまう。」


すると、後を追って走ってきた犬耳少女。


「何をする気よ! やめなさい! そんなとこから落ちれば死ぬわよ!」

そう言って迫ってくる犬耳少女をみて焦りと迷いをみせるリュウセイであった。


「犬耳モンスターに捕まって食われて殺されるよりは滝の中に飛び込んだ方が少しでも助かる可能性がある!」


「バカ! やめなさい!」

辺りに響くような大きな声、意を決したような声とともに岸から落ち、滝の中に飲み込まれていった。

(くっ、くるしい…… やばい………)


沈む、沈む、体が沈む。もがいても、もがいても無駄で気がついたら底深く。ふわふわとした感覚とは裏腹に。

(せっかく、生き返ったのに……)


下には深くて大きな闇、手招きをして待っている。光など、既に瞳には映らず、十分に働いてない脳が眠ってしまった方が楽だよと囁く。冷たくなった四肢はもう動かすことができない。さらに沈む。


(なんか苦しくなくなってきたな。……)

水面が遠くなっていき、俺の意識も沈み沈み、遠のいていく。

………


…… リュウセイの意識は失っていった。

………。


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