OPT.02
4月2日、アトランテ大陸のほぼ中央にあるズーベン半島、その付け根に位置する国立敷島学園 第11分校。
その体育館では、真っ赤なブレザーを着た新入生達が新たな学級の発表を心待ちにしていた――ただ一人を除いて。
【新入生の皆さん、あなた達はこのアトランテ大陸にて、国防とは何なのか、そして安全は黙って手に入る物ではないという――】
「昨日の入学式でも聞いたわ」
隣の中性的で整った顔の女子生徒がそう呟く。しかし黒髪ショートの少女の耳には入らなかった。彼女の頭の中は「なぜ機甲科に入れなかったか」という考えでいっぱいだったからだ。
その後、新入生達に新たな学級が発表され、彼らは各々の教室へと向かう。黒髪ショートの少女は配られた学級名簿を手に、自分の教室へと辿り着いた。
[歩兵科 1年381組]という札が掲げられた教室に入る。その中には十数人の新入生が既にいたが、会話は殆ど無かった。彼女はそっと静かに出席番号順に並んだ自分の席を探して座った。
それから数分、残りの新入生と担任教師がやってきた。その教室は、女であったが筋肉隆々で、肌は黒く焼け、土木関係者を思わす風体であった。
「皆さん初めまして。ここの担任となった、蜂宮 彩湖です。1年間よろしくね」
その風体に似合わぬ口調に、教室から笑いを抑えようとする声が聞こえてくる。
「ではまず、皆さん分隊ごとに別れましょう。ここに名簿があるので、その順に並んで座ってください」
彩湖先生は黒板に左から1~4の数字を書いていく。そして、新入生達は配られた名簿を見ながら、黒板に書かれたように分隊ごとに座った。
「皆さんはこれから3年間、機械化歩兵として学んでいく事となります。まぁ、歩兵とは大まかに言って3つに分類されますが、それは明日の講義としましょう。今日皆さんがやるのは、教科書の確認、及び使用する武器の選択です。歩兵たるもの、小銃は仕事道具であり親友となるものです。あなた達は歩兵戦闘車に乗るので、それを考慮し、自らの相棒を選んでください」
戦車。「敵の銃砲火に耐えうる装甲を備え、敵装甲車両を撃破しうる強力な火砲と敵兵を薙ぎ払う機銃を搭載し、敵塹壕やあらゆる障害を乗り越える踏破力を兼ね備えた戦闘車両の総称」(出典・『よく分かる 人類と戦争 技術の悲しき発展』ミンメイ書房)。アトランテ大陸に設立された防衛技術研究校である敷島学園、そこに設けられた戦車教育部隊・陸戦教育部 機甲科。「陸戦の王者」たる戦車を扱える学科として、とても人気が集まっている。それ故、毎年の志望倍率は150%を超える。しかし今年はどういう訳か、低かった(それでも最終倍率は101%であった)。
戦車に憧れる少女・明智 光は敷島学園 機甲科を志望した。だがしかし、落ちた。落選したのだ。結果、補欠的に歩兵科に入学する事となったのである。
敷島学園 第11分校は、22個ある分校の中でも珍しい陸海空が揃った分校である。4つの校舎と体育館、その南には校庭、更にその南には射撃場や演習場、分校の北側には格納庫や駐機場、2本の滑走路、西側には船着場がある。
新入生達は射撃場へと連れてこられた。そこでは、世界各国の銃器メーカーが出店を開き、実射体験も出来る会場に仕上がっていた。新入生達はそれらを自由に手に取ったり試射したりしていた。
光は、適当に色んなメーカーのブースをほっつき歩いていた。そして、ある企業のブースが目に止まった。そこは、「Karlskoga Armory カルルスクーガアーモリー」という看板を掲げていた。彼女が立ち止まると、スーツ姿の若い男が出てきて、光に話し掛けてきた。
「どうです? スバーリェ製兵器はお好き?」
「……スバーリェというと、カールグスタフと40mm機関砲、Strv-103しか出てこないんですが」
「カールグスタフですか。結構、ますます好きになりますよ。我が社の売れ筋です」
「そもそも好きでもないんですが」
そう言いながらも、男は1丁の小銃を彼女に手渡した。レシーバー(機関部覆い)を除いて、暗緑色のプラスチックで構成された、ごく一般的な小銃だ。だが、上部には光学照準デバイスを取り付ける為のレール、被筒(ハンドガード)には前方把握(フォアグリップ)が装着されている。
「ガワがプラスチック? でも木や鉄なんて、気温で変形するし、湿度に弱いし、何より重いし、ろくな事は無い。マウントレールもたっぷりありますよ、どんなオプションだって大丈夫。どうぞ持ってみてください。意外と重いでしょう? 余裕の耐久性だ、造られた環境が違いますよ」
「は、はぁ……でもわたし、機械化歩兵で――」
「なるほど、取り扱い易いカービン(騎兵銃)ですか。なら問題はありません。ほんの少しではありますが、これのカービンモデルも入荷しました」
そのまま彼女はシューティングレンジへと連れられ、件のカービンモデルを持たされた。そして、弾倉を渡される。見れば、イクサチラン共和国連邦軍を始めとするアトランタ海条約軍共通のSTANAG三〇連弾倉だ。渡されるまま、銃に弾倉を挿入、槓桿を引いて薬室に初弾を込める。そして、銃上部に固定されたCOMP/M2光学照準機を覗いて狙いを定める。狙うは20m先の人形標的(マンターゲット)、引き金を引いた。
5.56×45mm SS109弾の反動で銃口が跳ね上がる。銃を下ろし、的を見れば、的のど真ん中に命中していた。
彼女は騎兵銃を眺める。そして、セールスマンの男に言った。
「これ、ください」
それが、明智 光と騎兵銃・カルルスクーガアーモリー Ak-5Dの出会いであった。
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