Blue Water Floutilla

神奈内かんな

SOL.01

「錨を上げ!」

 その号令と共に錨が巻き上げられる。下手くそなラッパが鳴り、甲板に並んだ生徒達は敬礼をする。

「微速前進、出航よぉーい!」

 4隻の軍艦が、それぞれの岸壁から離れ始めた。

「航海長操艦、針路130度、ヨーソロー!」

 艦首側に2基の5インチ Mk45mod4単装砲が背負い式で、ずらりと64セルも並んだMk41垂直発射装置、電波反射性を考慮した前部傾斜檣楼、その側面に設置された4基のIN/SPY-1B(V)パッシブフェーズドアレイレーダーと20mm ファランクスMk15mod1B近接防御機関砲、その後方に32セルのMk41垂直発射装置と2基の四連装発射機、三連装魚雷発射管、四連装対魚雷デコイ発射管、静止式ジャマー発射機、ヘリ格納庫、その上部に設置されたGMLS-3八連装発射機と20mm ファランクスMk15mod1B近接防御機関砲、艦尾に1基の5インチ Mk45mod4単装砲が備わっていた。

 あかいし型防空巡洋艦3番艦CGH-707〈たてしな〉、うすづき型防空駆逐艦7番艦DDG-317〈かげつ〉、はくう型汎用駆逐艦2番艦DD-442〈かんだち〉、かざなみ型汎用駆逐艦1番艦DD-451〈かざなみ〉の4隻からなる、敷島学園 第11分校 海戦教育部 水上作戦科 第4艦隊 第512水雷戦隊は、海原へと進み出した。







 広い宇宙の中、何処かにある銀河系。

 そこに、恒星からほど近い惑星があった。水や酸素、鉱物が豊富にあるその星では、高度な知性を持った生命体が生まれ、その星全土に広がっていった。


 と、思われていた。飛行機と呼ばれる乗り物の発展と、それに伴う第一次世界大戦が勃発し、エウロパ大陸のケルティカ地方と北イクサチリン大陸のイクサチラン共和国連邦との間にある巨大な海に、未知の大陸が発見された。

 結果、イクサチラン共和国とチュートン連合帝国、さらにベリカヤラシーヤ帝国が奪い合い、焦土にしてしまった。

 戦後の調査で、何の資源も無し、更にどの大陸からも遠く離れていた為にどの国も領有権を放棄した。




 世界は再び大戦が起き、敷島皇国連盟に2発の核爆弾が投下され、チュートン統一帝国も東チュートン平等共和国と西チュートン公国連邦に分断された。

 イクサチラン共和国連邦とサビィートラシーヤ平等共和国連邦との対立が深まる中、あの名も無き大陸に注目が集まった。


 その大陸は、かつての神話になぞらえて「アトランテ大陸」と名付けられ、兵器の実験場にされた。




 それからおよそ80年。アトランテ大陸は各国から集められた高校生達による、実演弾と呼ばれる特殊な麻酔弾を用いた模擬戦争の場所にされていた。







 第512水雷戦隊は外洋に出た。天気は晴天、波は穏やか、周囲には他の船が見えない。

「佳美……じゃなくて艦長は何処行った?」

 [副長]と書かれた灰色の救命胴衣と真っ赤なブレザーを着た男子生徒がそう口を開いた。すると、操舵輪を握っていた女子生徒が答えた。

「あぁ、艦長なら外行ったよ」

「あいつ、勝手にほっつき歩きやがって……」

 その時、スピーカーから声が流れた。

〔CICより艦橋、レーダーに感あり。IFF、SIF、その他識別信号に反応無し〕

「了解、方位と距離、その他詳細を伝えろ」


「方位、右20度、距離22km、大型艦が1、その上空に小型機1、高度910メートル、戦闘機と思われる」

〔護衛機か? たった1機?〕

「1機だ、間違い無い」

「撃ち落とすか?」

 レーダー画面を覗くメガネの男子生徒の隣に立った、[砲雷長]と書かれたグレーの救命胴衣と赤いブレザーを着た男子生徒がそう言った。


 しかし、副長の彼は許可しなかった。

「自重しろ戦闘狂。見張り、右20度、何か見えないか?」

 その問い掛けに、艦橋外縁で双眼鏡を手にした男子生徒が応える。

「どらどらぁ? 右20度方向、大型艦1を視認」

「艦種は特定できるか?」

「そいつは厳しいな。水平線からどうにか出ている程度だ。だが、味方の艦じゃないな」

「そうなのか?」

 それを聞き、副長も双眼鏡を手に、艦橋外縁に出た。その双眼鏡には[艦長専用]と書かれていた。

「いいのか? それ」

「ここに居ないからいいんだよ」

「適当だなぁ」

「で、味方でない根拠は?」

「敷島学園が運用する戦艦はもれなく全て防空戦艦に改修され、クソでけぇ主砲は全て取り払われている。重巡洋艦も同様だ。だがあの艦はバカでけぇ主砲を4基も積み、艦橋も低くてステルス性皆無のデザインだ。ありゃ確実に、先の大戦の戦艦をレストアしたまま使ってる学校だな。イクサチランかチュートンかイングランドかフランクか」

「トスカーナとラシーヤを忘れてるぞ」

「は? 最弱国家のトスカーナとガチガチの陸軍大国ラシーヤが?」

「お前なぁ、仮にも海軍士官見習いの身分だろう」

「冗談だ。んで、どーすんだ副長殿?」

「ここは公海だが、味方でないなら攻撃しても構わない……だな」

 そして副長は艦橋に戻ると、マイクを掴んだ。

「艦橋よりCIC、副長権限で攻撃を許可する」


「待ってました! 総員、右対空・対水上戦闘よぉーい!」


 艦内でブザーが鳴り響き、各扉が閉じられていく。

「〈たてしな〉より全艦に通達、総員合戦準備」

「合戦準備よし」

 艦橋にピンと張り詰めた空気が漂う。そんな中、1人の女子生徒が駆け込んできた。茶髪ロング、赤いブレザーとパンツルック、グレーの救命胴衣の背中部分には[艦長]と書かれていた。そして叫んだ。

「何で勝手に戦闘準備始めてんだぁ!?」

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