第34話 片づけは毎日少しずつが基本①
翌日。
類はまた仕事。明日がお休みの予定。
あおいと玲は公園へ。さくらも途中まで一緒。
午前中、聡子の様子を見たあとに、午後は予定を作った。
昨夜、玲は叶恵宅に泊まったらしい。朝、さくらの家に置きっぱなしの荷物を開いて着替えを取り出し、シャワーをした。
なにか、あったのか、なかったのか。でも、聞けない。
「楽しかった」
としか、聞いていない。ずけずけ聞ける性格だったらいいのに。
「シバサキの問題に、巻き込んじゃってごめんね」
「いいんだ。俺も楽しんでいるし。今さらだけど、お前と両想いのときは、早く成長して一人前にならないとって毎日焦って、類に嫉妬ばかりして、なにも楽しめなかった。お前にもつらく当たった。さくらは正しい選択をしたよ。でも、今はあおいといると、とても楽しいんだ」
「玲……」
「あおいが、いつか結婚したら類以上に泣くかも、なんて考えたり」
類と玲がW男泣き……見たくない。見たくない!
でも、いつかはあおいも巣立ってゆくのだろう、遠くへ。きっと自分も泣いてしまう、さくらは思った。
玲と一緒にお弁当を作り、食材を買い込んで親の家に顔を出すと、涼一がうれしそうな顔で出てきた。
「さくら、ありがとう。助かる。おお、玲くんも」
いきなり感謝されてしまった。
うん、分かっている。洗濯物の山。お皿の山。そして、ホコリの山。赤ちゃんがいるのに、ひどい。
「これ、さくらに全部やらせるつもりですか」
玲が涼一をにらんだ。
「うう、そういうつもりではないが……うう、すまない」
見かねた玲が、キッチンだけは手早く片づけてくれた。
そして、すぐに公園へ出発。あおい、玲、涼一、皆のメンバーで。室内に人がいたら家事が進まないと、察してくれている。
聡子はまだ寝ているらしい。洗濯から手をつけ、寝室に遠い場所から、静かに掃除をはじめた。
窓を全開にして、空気を入れ替える。
玲がいてくれて、さくらも助かった。あおいが一緒だったら、家事が進まなかったかもしれない。
ゴミを分別して捨て、放置してある衣類をたたんでしまう。
やっぱり、近くに住んだほうがいいのかもしれない。息巻いてマンションを飛び出したけれど、聡子がまた妊娠するなんて、あのときは考えもしなかった。
一時間ほど経過したところで、ようやく寝室のドアが開いた。
「ああ、さくらちゃん。ごめんなさいね、家事ばかりさせてしまって」
「おはようございます。気分はどうですか、お母さん」
見たところ、一時期よりは顔色はいい。けれど、痩せてしまっている。メイクをしていないせいもあるだろう。
「妻失格、母親失格。ダメダメ女の烙印を押されそう」
「いいえ、今は休んでください。大切な時期です」
「はー。あなたを類の妻にして、いろんな意味でよかった。ほんとうによかった。あの類が落ち着いて、結婚して家庭を持って、会社を継ぐ日が来るなんて」
「な、なにを言っているんですか。類くんはまだまだですよ。お母さんには、支えてもらわないと!」
「好きなようにやればいい。類の、したいように」
「ここだけの話、類くんは社長職を、ただの中継ぎだって考えています。シバサキの真の後継者は、皆くんだって」
聡子は目を丸くした。
「類が? あの子ってば。あんな気まぐれな子が、さくらちゃんみたいにマジメな女の子を射止たっていうのが、そもそも奇跡のはじまりなのに」
「私たちがくっつくように仕向けたのは、お母さんですよ」
「あはは、そんなこともあったわね。さくらちゃん、辛口」
「どういたしまして。今、作り置きできるおかずをいくつか作っています。寝室も掃除していいですか」
「ありがとう。さくらちゃんを、世界でいちばん頼りにしているのは私かも。顔、洗ってくる」
会社で気を張っている聡子とは、別人のようだった。涼一の前にいるときの聡子とも違う。
誰かの役に立ちたい。自分は後回しでいい。
さくらはずっとそう考え、それが当然つまり常識だとも信じていた。
けれど、世の中には自分至上主義な人もいる。聡子や類がわがままなのではない。結果、周囲の人を巻き込んでしまっても、大きな時間の流れの中では些細なことなのだ。
自分とはタイプが違うとはいえ、とても魅力的な生き方である。自分に持っていないものを強く感じる。憧れる。
たぶん、あおいも向こう側の人。彼女には、どんな人生が待っているのだろうか。
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