最終話「フィナーレアワー~都市伝説終幕譚~」

5-1.フィナーレアワー~都市伝説終幕譚~

「お主のおかげで都市伝説退治はうまく行っとるのう」

 神社の居間で、ちゃぶ台でお茶を飲みながら、天子てんこが感慨深げに呟いた。

「このままいけば、この町から都市伝説がいなくなるのも時間の問題じゃろう」

「そんなに倒したつもりはないですが」

 ちゃぶ台を挟んで反対で寝そべる駆人かるとは本棚の本を寝そべり読みながら答える。この家でのくつろぎ方はもう憶えた。

「数体倒せば、それでいいんじゃよ。この町には都市伝説を倒せる奴がいる。そう思わせておけば十分に抑止力になる」

「そういうもんですか」

「うむ。そしたら、わしらはここにいる理由もなくなるから、また旅立たねばならんがのう」

 その言葉に、駆人は読んでいた本を放り出し、ガバリと起き上がった。

「え。天子様達ずっとここにいるわけじゃないんですか」

「そうじゃよ。ここに来た時も突然だったじゃろう。怪異あるところに怪奇ハンターあり。あちこち飛び回るのがわしらの仕事じゃ」

「そう、ですか」

 天子達とはほんの数日の付き合いだったが、命の危機をも共にしただけあって、駆人は相応の絆を感じていた。それが急に別れるとなると、少し寂しい。

「ま。今生の別れというわけでもない。また近くに寄った時は顔を見せてやるとしよう」

「……」

「じゃが、まだ都市伝説はおるからの。この町を真に救うまではお主に頼ることが多いからな。よろしく頼むぞ」

「……、はい!」

 天子達の仕事に口をはさむ権利はない。その時までは自分のできることをするしかないだろう。とりあえず今できるのはくつろぐことだ。投げだした本を手元にもどして、また読み始めた。


 そのまま夕方までだらだらとしていると、ガララと玄関の戸が聞こえた。

「こんにちは~。駆人クンいますか~」

「お。シオリか。居間にいるから入ってよいぞ~」

 はーい、と返事の後、こちらにしおりがやってきた。

「天子さん、七生ななおクンこんにちは」

 居間に入ってきた栞は、浴衣姿だ。髪もきれいにまとめている。

「おう。今日はまたずいぶんとお洒落さんじゃな」

「はい。これから近くの公園でやる夏祭りに行こうと思って。もしよかったら駆人クンと天子さん達もどうかなって思って」

 近くの公園と言うと、四葉公園でやる祭りのことだろう。なかなか大きな四葉公園でやる夏祭りは、その規模も大きい。屋台はいくつも出るし、音楽なんかの催しや、花火大会までやる。楽しいことが大好きな天子としては見逃すことはできない。

「それはよいのう!カルトももちろん行くよな?」

「はい。特に予定もありませんし」

「よし!そうと決まれば……。空子くうこ~!浴衣だしてくれ~い」

 違う部屋で家事をしていた空子の下に天子は飛んでいった。

 駆人と栞は、待っていてくれという天子の言葉に従って、縁側に腰掛けて雑談をしながら時間をつぶす……。


 しばらく経った日の沈みかける頃、縁側で涼む二人の後ろ姿に、空子が声をかけた。

「お待たせいたしました。久しぶりに着ましたからちょっと時間がかかってしまいましたね」

 振り向くとそこには浴衣姿の空子。纏めた銀髪から覗くうなじが艶めかしい……。

「うわあ。空子さんきれいですね!」

「ありがとうございます」

 浴衣を褒める栞の隣で、駆人は一切言葉を発しない。

「駆人君?いかがなさいました?」

 一切微動だにしない駆人の顔の前で、栞が手を左右に動かす。しかし、駆人は瞬きすらしない。

「か、完全に見とれてる。本当に駆人クンって空子さんに弱いんだね……」

 美人なのはわかるけど、と栞。その空子の後ろから、今度は元気な声。

「よう。待たせたな。わしの浴衣姿はどうじゃ!」

 空子の隣に並んだ天子は、クネクネとしなをつくる。空子と違って髪形は手を入れていないが、やはり姉妹だけあって、浴衣がよく似合っている。

「馬子にも衣裳ってやつですね」

 こちらには駆人はすぐに感想を述べた。

「おい。なんじゃその反応の違いは」

 ぷんぷんと音をたてて怒る天子をなだめてから、四人は準備を済ませて神社を後にした。


 夏祭りが行われる四葉公園までは、神社から歩いて数十分といったところ。つくまでの間に、天子は栞に、駆人が神社で聞いた話を伝えた。

「そうですか。それは寂しくなっちゃいますね」

「なんて言って、本当はわしらが邪魔だとか思っとりゃせんじゃろうな?」

「そ、そそそ、そんなわけないじゃないですか」

「冗談じゃよ。カルトと仲良くな」

 うつむき赤くなる栞の顔は、二人の前を空子と並んで歩く駆人には見えていない……。

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