栗と枡 その弐

 年の瀬も押し迫れば今年もやって来る。

 今日は二十四日、クリスマスイブ! つまり明日はクリスマス!


 まだサンタクロースを信じていた子供の頃は、朝目が覚めると枕元にプレゼントが置いてあったっけ。

 正体を知ってからは直接手渡されるから、熱心に手紙を書くこともなくなった。

 二十五日の朝にしか味わえない、ちゃんと来てくれたかな? というあのドキドキが、ほんの少し懐かしい。


 とはいえ、ここは攘夷真っ只中の幕末。

 そんな西洋文化はあるはずもなく、サンタクロースも三太九郎という裕福な還暦のお爺さんになってしまう。

 まぁ、そもそもの話……私はもう子供ではないので、サンタクロースだろうが三太九郎だろうが関係ないのだけれどね。






 翌朝。

 私の枕元に大福が置いてあった。


「……なぜ」


 瞬時に眠気も吹き飛べば、すでに起きていた土方さんが言う。


「三太九郎の仕業じゃねぇか?」

「なるほど、三太九郎さんが……って、来たんですか!?」

「置いてあるんだから来たってことなんだろう?」

「今回は起きてなかったんですね……」


 一瞬、土方さんの眉間に皺が寄った気がするけれど、ふいと顔を逸らされた。

 どうやら今回はちゃんと寝たらしい。

 前回のうちにサンタ……三太九郎本人が贈り物を届けに来るわけではないと教えたから、起きていても会えないと悟ったのだろう。


 そんなことより、大福の乗ったお皿を手に取り土方さんに向かって微笑んだ。


「ありがとうございます! 顔洗ってきたらさっそく食べますね!」

「礼なら三太九郎にしてやれ。爺さんのくせに、夜中にせっせと持ってきたんだろうからな」


 まさか……三太九郎が持ってきてくれた、で貫くつもりだろうか。


「……土方さん、何だかお父さんみたいですね」

「はぁ!?」

「きっと、将来良いお父さんになると思います」

「そ、そうか? って、ちげぇだろうがっ!」


 そうは言っても私はもう子供ではないし、サンタ……三太九郎の正体も知っている。

 それに、子供といえどある程度の年齢に達すれば、大なり小なりショックを受けながらも真実を受け入れるものなのだ。

 ……って、そうではなく!


「子供扱いしないでください!」

「お前こそ、俺を父親扱いすんじゃねぇ!」

「夜中にこっそり贈り物を置くのは、大体が父親か母親って相場が決まってるんですっ!」

「んだとっ!?」


 それきり急に無言になったかと思えば、すっと片手が伸びてくる。

 お皿を持った手ではおでこを庇えない! と思ったら、あろうことか大福を取られパクっと食べられた。


「ちょっ! 私の大福っ!!」


 お皿を置くと同時にがっくりと崩れ落ちれば、土方さんの意地悪な声がする。


「金輪際、父親扱いするなよ?」

「しませんよ……。こんな酷いことするお父さんなんて、そうそういませんから……」


 よし、と嬉しそうに頭を叩かれ顔を上げれば、土方さんがにこにこしながら文机の上を顎で指し示す。

 見れば、大福がもう一つ置いてあった。


「やる。俺が食おうと思ってた分だ」

「あ……ありがとうございます!」


 お礼を言うなりさっそく頬張った。

 何だかんだ言っても、やっぱり土方さんは優しい。

 そして、その優しさは時々お父さんっぽい――


「おい」

「は、はひ?」

「余計な事考えんじゃねぇぞ?」


 なっ……どうしてバレているのか!?


 大慌てで全部放り込み、こくこくと首を縦に振るのだった。

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