第137話 全集中
暫く時間が経ってから、私はフィットに乗り込んだ。 乗り込む前は結構な緊張感があったけれど、一度シートに収まってしまえば不思議と落ち着きが生まれてくる。
やはり、私はそういう性なのだろうか。 スパルタンにまとめられた内装、そして、その匂いがそうさせたのだ。
いよいよ出走順が回ってこようとしていると、ユリがこちらに駆け寄ってくる。
「おーい、凛子。そろそろだけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。 むしろ、気分が引き締まってきてるくらいかな。 自分のできる仕事は全部やってくるよ」
「そ。それならよかった。 まあ、無理はしすぎなくていいから、凛子にできる最大限の走りをしてきて頂戴」
「うん、もちろん。 ・・・・よし、それじゃ、行ってくるよ」
そういって、二人で軽く握手を交わしてから、ドアを閉め、臨戦態勢に入った。
スタータースイッチを軽く押し、その心臓に火を入れた。
ボボボボボボボ・・・・と鼓膜にL15エンジンの鼓動が響く。
さあて・・・・行ってくるぞ!!
ローギアにシフトノブを動かし、メカさんの合図と共にゆっくりとピットロードを後にした。 その後は、一周回りながら、タイヤを温めてクルマの感じも探った。 基本的にセットアップ自体はこの間の練習走行で決めたものと同じであったが、今回はタイヤが新品になっている。 完全にタイムを出しに行けるようになっているのだ。
ここまでやってくれたなら、一番時計狙えるくらいに行かねば・・・・!!!
と気分を高めていると、あっという間にバックストレート後半まで来ていた。
「よし、ここからはアタックモードに入るか」
車内でそうボヤくと、私はギアを一段下げてから、思い切りフルスロットルにした。フィットは一気に車速を上げていく、立体交差を一気に抜けて、最後のビクトリーコーナーを手早く抜けると、ホームストレート。 遂にアタックタイムに入る。
「っしゃあああ!! いくぞおおお!!!!」
コントロールラインを全開で駆け抜け、私のタイムアタックがスタートした。
続く。
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