第121話 あの頃の気持ち。
その瞬間、上原の中で何か昔に置いてきた感覚が徐々に戻り始めてきていた。
あの時のように、路面の感覚、ハンドルから伝わってくるフロントタイヤの感覚、アクセルを踏んだ瞬間のエンジンが動力を生み出して、リアタイヤで力強く地面を蹴飛ばす感覚・・・・
そうか、俺はさっきまでクルマを走らせている時に何も考えず、力任せに走っていたのだと。
ただただ、力任せにアクセルを踏んで、ブレーキを踏んで、ステアリングを操作して・・・・いわば、相棒と「会話」を全くせずに走っていたようなものだった。
凛子の駆るミラージュの、久しぶりに乗るとは思えない、あの時と同じシンクロ率の高い、綺麗な走りを目の当たりにして、上原はこのことに気づくことができたのだ。
さあ、どうする。あの時の俺はどんな風に相棒を操っていた?どんな風にあのコーナーへ、アプローチしていた? どんな気持ちで相棒と駆けようとしていた・・・・?
一つ一つコーナーを抜け、凛子の駆るミラージュのスムーズな走りを後ろから見つめ、本気で上原は思い出そうとしていた。 そして、少しずつ記憶のピースを戻していた。
あのコーナーに入るときは、ここを抑えて入るんだったな。 相棒は、このクセがあって、こうやって操作をして走っていたな・・・・ そして、あの時の俺。あの時の俺は・・・・誰よりもこの赤城道路を美しく、素早くコーナーを抜けることをイメージして走っていたな、と。
ぎこちなかった動きは徐々に影を潜め、少しずつ一本の線を描くような、綺麗な挙動になっていき、S2000も心なしか、走り始めの時よりもスムーズな動きをするようになっていた。
凛子に負けないくらい、あの時と同じように、綺麗に走って見せる・・・・!!
上原の心は静かに燃え上がっていた。
そして、その様子をバックミラーをチラ見しながら探っていた凛子もニヤッと笑い、してやったり・・・・と心の中で思っていた。
「そろそろ自分の中で気づいてきたかな・・・・ よっし、次で前後入れ替えてみるか!」
気づけばもう、赤城道路の終盤部分まできていた。
続く。
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