第111話 凛子の舞
そして、とうとう私の出番が来た。 二人の走りを研究して、自分の走りを見直し、準備は万全であった。 初めて走るコースという事で、完全アウェーの状態であるし、逆に気を負わずに走れる気がしてリラックスすらできていた。
とにかく、二人の様子も十分探れたし、コースも何となく覚えたし、とにかくパジェロエボとの対話を楽しもう、初めて走る環境を楽しもうとウキウキしていた。
いよいよスターターもカウントを始める。
「それじゃあ、カウント始めます!! 4、3、2、1・・・・」
カウントに合わせて私はアクセルを煽る。 V型6気筒の心臓が、野太い咆哮をその地に響く。 パジェロエボは、獲物を狙うヤマネコのようないで立ちでそのスタートを待ち構えていた。
「スタート!!」
叫びと共に、旗が振りあがる。 私はすぐにクラッチミートをさせ、アクセルを全開にし、パジェロエボは猛ダッシュを決めてコースを走り出した。1コーナーを綺麗にまとめ、その後もリズムよくコーナーを抜け、時折気持ちよくテールを流したりしながら、スムーズに楽しくコースを駆け抜けた。
タイムは敢えて追わず、でも二人の走りをしっかり理解した上で、自分の持ち味を存分に発揮させて、とにかく楽しく美しく走る心がけて私はコースを走り抜けた。
あと3つ、あと2つ・・・・そしてあと1つ、コーナーを気持ちよく駆け抜け、ゴールへと一気に駆け抜けた・・・・!!
「ふうううう・・・・気持ちよかった・・・・!!!」
思わずそんな声を上げてしまうくらい、私はパジェロエボとの対話を心から楽しめていた。
あとはタイム・・・どんな感じなんだろう。
そんな事を考えていると、場内放送でタイムが読み上げられた。
「篠塚凛子選手のパジェロエボリューションのタイムは・・・・1分35秒9!! 1分35秒9!!!」
「え!? うっそ・・・・よっしゃあああ!!」
思わず私は驚いてしまっていた。 まさかそんな良いタイムを出せるとは思っていなかったし、思わず嬉しくなっていた。
会場はどよめいていた。 一歩及ばなかったとはいえ、あの女帝にもうすぐで追いつきそうなタイムを出してきたことに、それもコースを初めて走る新参者が。
私も少し自信がついてしまったし、次はもっと攻めてみようかな・・・・なんて考えを巡らせた。
「やはりやるわね・・・・凛子さん。 もう少しで並ばれるところだったわ・・・・次はもう少し踏んでみようかしら」
女帝も、凛子のその走りを見て、ひそかに闘志を煮えたぎらせていた。
ポーカーフェイスだった涼も、少し苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。
それぞれ色々な思惑を浮かべながら、1走目は終わった。 そして2走目も、もうすぐに迫っていた。
続く。
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