第95話 闘争心の衝突。
1コーナーを鮮やかに抜け、ずっと回り込んでいくインフィールドへと突入する。
ここでも私はとにかくクレバーな走りを続けた。 後ろに陽ちゃんがずっと付け入っているし、一瞬でもロスを出した瞬間、きっと私は抜かれてしまう。 だからこそ、逆に基本に忠実な走り方をしつつも、変なところでインを開けないように心掛け、とにかく「抜かさせない」走りを心がけた。 大人げないかもしれないが、私にだって運転に関しては意地がある。 ここは威厳を見せたいところであった。
メンタル的にもこちらの方が余裕あるだろうし、ここはしっかり逃げ切ってみせるぞ・・・・! そう思ってコーナーを次々と抜けていっていたのだが、そんな時にこそピンチは潜んでいたのだ。
コース中盤、8コーナーを超えて9コーナーに差し掛かる時だった。私は侵入スピードを速めるために、直線的に抜けていたのだが、右リアタイヤを芝に落としたまま向きを変えようとしたので、ゴーカートの挙動が乱れ、インを巻いてスピンしかかっていた。
すかさず私はカウンターステア(逆ハンドル)を当て、立て直そうとしていた時だった。
陽ちゃんもここがチャンスどころと読んだのか、無理やりイン側に飛び込んできていたのだ。 向こうも、かなりの侵入スピードで来ていた。
とはいえ、こちらも譲るわけにはいかない、スピンモーションからすぐ立ち上がるべく、必死にコントロールを試みた。 そしてその結果、二人は交錯した。
ドンッッと音を立てて、陽ちゃんの乗るゴーカートが、私のゴーカートの脇腹を押す形となって二台は接触した。 向こうはぶつかって多少ビビったのか、若干アクセルを戻していたようだったが、私はアクセルを緩めなかった。どうにかギリギリのコントロールでスピンを止め、タイヤのグリップを回復して、姿勢を立て直してどうにか立て直した。
ふう・・・・と心の中で一息をつきつつも、そのまま緊張を緩めず走り抜けなければ・・・・!と思って私は、その後もしっかり後ろを気にしながら、ペースを崩さずに走り抜けた。
アクシデントが起きても、動じず、しっかりと走り抜ける精神力。ここでも私はしっかり保つようにしていた。
そして私は、なんとか陽ちゃんを振り切り、見事前を守ったままチェッカーを受けた。
「やったああああ・・・・ハハハハ何とか逃げ切ったあ・・・・」
軽く右手でガッツポーズをしながら、思わずそんなことを漏らしてしまっていた。
一週クールダウンしてピットに戻るや否や、陽ちゃんはこちらに駆け寄ってきた。
「いやあ、凛子姉ちゃんやっぱ凄いや・・・・僕も思いきりいったけど、やっぱまだ駄目だったわ。」
少し悔しさを滲ませながらも、彼は晴れやかな笑顔を向けて私に語り掛けてきた。
今日の朝の表情と比べたら、ずっと子供らしい、けれども男の子らしい頼もしい顔になった気がする。
「ふっふっふ・・・・私だってずっと競技やってきてるからね~!全力でいかせてもらったよ。 でも陽ちゃんの吸収の早さにはほんと驚いたよ。まだまだこれからなところもあるし、未熟な部分もあるけど、もっとテクニックを身に着けたら、もしかしたら私に勝てるようになるかもね~」
なんて、柄にもないウインクをしながらそう答えた。かれも納得したように、ニッと答えてみせた。
その後、日が暮れるギリギリまで遊んだ後、私たちは家路に着いた。
「ふう~久々にあんな乗ったら、腕がパンパンになっちったな~。・・・・明日は会社まで電車で行くべ・・・・」
「ハハハハ。凛子姉ちゃん、ほんと堪えてたんだなあ。・・・・あのね、凛子姉ちゃん。僕、もっと速く走れるようになりたいし、色んな人たちと競ってみたいんだ。今日、ああやってゴーカート乗ってて、速くきれいに操って、競争するのが楽しくて・・・・僕、もっともっとやってみたくなったんだ」
「そうねえ・・・・それなら、あそこでまた走り続けるのもいいし、いっそマイカートとか買って色んな競技に出てみるのもいいかもね。中古のゴーカートだったら、そんな手が出ないくらいではないし、たまに楽しむくらいならいいんじゃないかな。今度、お父さんお母さんに思い切って相談してみたら?」
なるほど・・・・と少し考えこむような表情をして
「うん、わかった。今度、思い切って相談してみるよ! 凛子姉ちゃん、今日は本当にありがとう!!」
心から嬉しそうな表情を浮かべて、彼は言った。私もせっかくなら・・・・と思ってこうして今日連れてきたわけだったのだが、想像以上に彼に興味を与えることが出来たのが嬉しかった。 車と乗り手が心を一つにして戦うモータースポーツの楽しさを伝えることが出来て、私は凄く達成感を覚えていた。
その後、彼は両親の理解もあってカートレースの道に進むことになり、凛子を驚かせるほどの成長を遂げることになるのだが・・・・それはまだまだ先の話。
続く。
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