第90話 のめり込み。
そして、そこからも私たちはゴーカートでひたすらに走り続けた。
私はとにかく感覚を探り出すように、そして陽ちゃんは周りの走りや、自分の感覚からゴーカートの乗り方を見つけ出していくように。
数年のブランクがあり、またゴーカート自体も新車になった事もあって少しばかり苦戦していたけれど、なんとか順応して私はコースを攻めたてた。 コーナーとコーナーをあたかも一つの線としてスラっとなぞり走り抜ける。 激しい音を立てて鼓動を打ち続けるエンジンを足でコントロールしながら、ステアリングの感覚を常に感じながら、あたかも全身でその小さな車体をコントロールするように。
実車もゴーカートも、この楽しさは寸分も違わない。走行時間をもう数分だけでも増やしてほしいな・・・なんて、考えてしまうほど、久しぶりのゴーカートにのめりこみ切ってしまっていた。
タイムも何だかんだで当時の自己ベストの46秒前半にはあっという間に追いつき、45秒台に入りそうな勢いであった。 我ながら、ちょっといいタイムが出て嬉しくなってしまった・・・・のだが、その一方でもとんでもない勢いで速さを身に着けていた存在がいた。
そう、陽ちゃんだ。 彼は最初の頃は1コーナーでスピンしてしまうほど慣れていなかったのに、ひとたび自分で何かを掴んでから、鬼が乗り移ったように速さを身に着けていたのだ。 最初は1分かかるか、かからないかのタイムだったのも、52秒、50秒、49秒・・・・と走行回数を増やしていくごとにどんどんどんどんタイムを縮めていき、なんと今は47秒半ばくらいまできていた。 小さい子は吸収が早いとはよく言うが、恐ろしいくらいの吸収スピードだ。
これはもしかして、この子持ってるんじゃないか・・・・とふと私は思った。
お昼を少し過ぎたくらいの時間にまたまた休憩を挟むことにしていたので、私はまた陽ちゃんに話しかけた。
「ねーねー陽ちゃん!めちゃめちゃ速くなったね! 結構何か掴んだ感じ?」
すると、陽ちゃんはスポドリをコクっと飲み込んだ後、満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
「うん! 凛子姉ちゃんとか、他の早い人の後ろ付いて動きをずっと見てたの! それとね・・・・」
「それと・・・・?」
「凛子姉ちゃんのアドバイスだよ! スピードを下げ過ぎないように・・・ってやつ!! タイヤが地面をずっと掴む感覚をつなげていけるようにしてるんだ。」
なんとあのアドバイスを言った倍以上の意味で彼は解釈してくれていたようだ。
なんだか、ちょっと嬉しい。これが車好きになるきっかけになってくれれば・・・!!なんてしみじみ思ってると、彼から突然提案が飛んできた。
「ねえ、凛子姉ちゃん。勝負・・・してみない?」
続く。
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