第89話 カートの奥深さ。

そして、2走目に向けて私たちは再びゴーカートへと乗り込んだ。


先ほどの1走目で陽ちゃんはある程度コツを掴んだようであったので、今回は敢えて私も先導することはせず、一人で気ままに走ることにした。


「はい、じゃあコースインしてください!!」


係りの人の合図に応じて、ゆっくりとアクセルを踏み込んでピットロードを後にする。


そして、今度はタイヤも温まっていたので私は最初からハイペースで攻めたてた。


長いホームストレートを全開で駆け抜け、チョンっとブレーキをかけてステアリングを軽く切り込み、姿勢を変えながらクルっと回り込むように1コーナーをクリアすると、テクニカルなコーナー群をダンスステップを踏むようにリズミカルにクリアしていく。


ゴーカートはエンジンパワーがそれほどあるわけではないから、ステアリング操作、ブレーキング操作、アクセルのオンオフの良し悪しがモロに出てしまう。当然、ただ踏みすぎ、飛ばし過ぎ、ないしその逆をしてしまうとロスをしてしまい、つまりは速く走る事が出来なくなってしまうのだ。 だからこそ、次のコーナー、そしてその次のコーナ―を頭の中に浮かべて、どうクリアするかを考えながら、ステアリング、ブレーキ、アクセルを上手にコントロールしてロスなくスピードを殺さずに走らせる事を心がけなくてはならない。


操作系はとってもシンプルだけど、速く走らせようとすると様々なテクニックが要求されるし、頭もフル回転させなければならないし、体力だって要求される。それがこのゴーカートの楽しさであり、奥深さであるのだ。


私もこうして、久しぶりに走らせていると昔の勘が多少は戻ってきて、それなりにやれているような気もするのだが、やはりまだ完全に乗り切れている感じがせず、とにかく色々自分の引き出しを探って考えながら、走り抜けた。


そして、走らせながら陽ちゃんの様子を探っていた。 走らせ方をある程度覚えていたので、それなりに走らせられていたようだったが、まだまだ無駄にテールを振ったり、ハンドルを切りすぎている場面が多い印象であった。でもきっと、彼はまだまだ若いし(?)、走っていくごとに掴んでいくさ・・・・そんな子を見守る親の気分(?)で時折彼の姿も見ていた。


入りこんで走っているとあっという間に時間が過ぎ、二走目が終わった。


「ふう・・・久々にガチで走ったら腕にきたわ・・・・」


パンパンになった腕を見下ろしながら、私はボヤいた。 更に、掲示板にあるタイムを見てみると、どうやらベストラップは47秒6くらいであった。昔一番よかった頃で46秒前半くらいだったから、まあまずまずだ。


暫くして、陽ちゃんもやってきた。なんだかさっきより更に目がキラキラしている。


「凛子姉ちゃん!! さっきよりずっと楽しく走れるようになったよ!!」


「お、それはよかったよ~!! 楽しいでしょ?乗り物を操るって。」


「うん! 本当に楽しい!エンジンブンブン唸るし、クイックイって向き変わるし。 ねえ、凛子姉ちゃん。もっと速く走らせようと思ったら、どんなことに気を付けたらいい?」


「おお、やる気出てきたねえ!! ・・・・そうだね、今度はもっと速いペースでスピードを下げ過ぎない事を考えながら走ってごらん? お尻を滑らせすぎないように、とにかくタイヤをしっかりグリップさせながら、前に進める事を考えてさ。 あと、他の人の走りも観察してみると面白いかもよ!」


私がそう言ってウインクしてみせると、陽ちゃんは、うん!っと元気よく答えた。


徐々に人も増えてきて、クイック羽生は賑やかになってきた。 賑わう店内の中で、私はぼんやりと次はどう走ろうか考えていた。


続く。

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