第79話 夢へのアプローチ

大和さんはうっとりした顔を浮かべながら、話を続ける。


「その時が私とオロチの出会いだったの。不夜王っていうパープルのボディでね、何処から見ても異質で、クルマというより生き物みたいなオーラだったのが衝撃だったのよね・・・しかも、見かけたのが銀座の歌舞伎座前だったんだけど、その光景がもう忘れられなくて・・・」


「あーー!!それは絶対忘れられなくなるやつじゃないですか!その時のシチュエーションで記憶が焼き付くってことありますよね・・・」


私が砂漠で隊列を組んで圧勝するパジェロの光景を見て憧れたように、やはりまた彼女も強いエピソードを持っていたようだった。


「私、その時クルマには全く興味がなくてさ・・・なんとか頑張って調べてたら、光岡のオロチって車だってのが分かって。その時私、頑張って納得いく結果を残せるようになって、尚且つ稼げるようになったら、オロチを買おう、って決めたの!」


キラキラと目を輝かせながら、彼女はそう語った。


「で、その後も暫く劇団にいたんだけれど、ある時その劇団のいつもの連中と一緒にある仕事をする機会があってね。 私は一応連中で一番年長だったもんだから取り仕切って、みんなに指示やらなんやらしてたんだけど、そんな時にある人から声を掛けられたのよね・・・・その時出会ったのが三好プロの社長だったってわけ。」


「えええ!?!?そうだったんですか!?!?」


私は思わず目を真ん丸くしてしまった。


「そうそう。その仕事も、三好プロから頂いたものだったんだけど、当時三好プロもまだ小さい会社で色々なところと仕事してたみたいで、その縁で私たちみたいな若手にも仕事をくれてたのね。 それであの三好社長が、私が現場の人たちを取りまとめてる私を見て興味を持ったみたいで・・・ なんと私、役者としてじゃなくて、マネージャーとして誘われたのよね。」


「あ、そうなんですか!? 社長そんな事やってたんだ・・・・」



私自身、実は社長とは少ししか会った事がなくて、気さくではあるけれど、威圧感のある人だなあ・・・みたいな印象しかなかったので、少し驚いてしまっていた。


「あの社長、ぶっきらぼうそうに見えてよく喋る人でね・・・。正直最初はその提案蹴るつもりだったんだけど、あまりに熱意を持ってこられたもんだから、先ずは半年、居座ることになってね・・・ そしたら、いきなり馬鹿でかい仕事が舞い込んでくるわ、なんだわで大変だったけれど、結果的に大成功してね。 私もなんだか仕事が楽しくなってきちゃったから、結局そのまま三好プロに就職することにしてね。で、今のポジションにいるってわけ。」


そうだったんですか・・・と、私は頷きながら答えた。


本当に人生、どういうふうに自分の才能が生きてくるかわからないし、それを見出してくれる人との出会いでどうにも人生が振れてしまうんだなあ・・・と改めて感じた。


「で、働き始めて2年くらいの時だったかな。突然オロチがもうすぐで販売終わっちゃう、なんて話が出だしたもんだから、大急ぎでオーダー入れて、なんとかギリギリ新車で購入できたのよね。それが2014年の時だったかな。だから、この子とはもう5~6年くらいの付き合いって感じよ。」


「そこそこ長い付き合いなんですね・・・。」


「うん。とは言っても、いっつも乗るわけではないし、車庫にいる時間も長いから距離的にはまだ3万キロも行ってないくらいだけれどね。 色々オプション付けちゃったから、契約書の数字見て震え上がっちゃったっけ。 でも、ほんと納車された時の事は忘れられないなあ。納車式の時に泣いちゃったもの。」


懐かしそうな顔をして彼女は答えた。


「でもほんと、クルマって趣味は楽しいな、ってオロチに乗り始めてから思ったの。好きな時に、好きなタイミングで、好きな道をたどって。そして、大好きなクルマと駆け抜けるのが、なんて心地よくて、心がいっぱいになるんだろうって・・・。」


「わかります!その気持ち。大好きな相棒と、何処までも好きな景色を追いたい・・・遠くへ行きたい・・・・ってなりますよね。」



自分の意志でどこまでも遠くへ、そして相棒と心を通わせて、呼吸を合わせて走り抜ける喜び。 どうやら、大和さんも同じものを感じる同志の様であった。


そうこう話してるうちに、大和さんはオロチを首都高へと進め、レインボーブリッジを走り抜けようとしていた。


東京の夜景の中を縫うように張り巡らされた首都高、そこをシトシトと白いボディに光をまとわせ、這うように進んでいくオロチはさながら、都会を統べる大蛇を思わせた。


そんな、オロチの乗り心地にうっとりしていると、


「ね、折角だからさ、この後パーキングエリア行って、まだまだ語り倒そうよ!飲み物なら奢るからさ。 ・・・・まあ、拒否権はないけどね。」


悪戯な笑顔を浮かべていった。


「・・・パワハラですかそれ・・・・なーんて、冗談です! もちろん!折角明日はオフなんですし、もうここまで来たら語り倒しちゃいましょう!」


私は笑顔で答えてみせた。


よーし!そうと決まればどこのパーキングへ行くか・・・・と、大和さんの声も弾む。


今日の夜は、いつもより長くなりそうだ。


続く。


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