第49話 もう一つのエボリューション。

ある日の土曜の事。私は、朝早く起きて相棒のパジェロエボとのドライブを楽しむべく、伊豆スカイラインへ来ていた。ゲートで通行料金を支払って、いざ出陣する。朝焼けが気持ちい空の元、天城高原へと昇っていくように美しい曲線を描いた道路を、私はパジェロエボと対話をしながら、そして景色を楽しみながら駆け抜けていく。次々と現れる初めて通るコーナーを見据えながら、ステアリングを正確に切り込み、シフト操作を手首のスナップでスムーズにこなしながら、アクセルとブレーキで適切に速度を調整して、一つの線を描くように駆け抜けていくのはまたとない快感なのであった。パジェロエボはそのコミュニケーションに答えるようにV6エンジン特有のクオオオンというサウンドを響かせ、白い小さなボディがダンスを舞うようにしなやかに向きを変えてグングンと走り抜けてくれた。


そして暫く走り続けた後、休憩を入れるべく玄岳展望台に立ち寄り、駐車スペースに入ろうとした時、ある一台の赤い車に目がいった。


「お、パジェロエボじゃない!」


駐車場に入ると私はわざと横に付け、自分のパジェロエボから降り立った。そして、隣のパジェロエボを覗き込んだ。外装はフルオリジナルでナンバーは当時モノの「静岡35」、そしてボディカラーは目にも鮮やかなパッションレッドで、パジェロエボの派手なエクステリアデザインによくマッチしていた。この手のソリッドレッドは色落ちが激しいことがよく言われるが、この個体は新車と変わらぬ光沢と鮮やかさを保っていた。車高は私のパジェロエボよりも若干低くなっているようだった。更に車内を覗き込むと、どうやら5速オートマチック車であることが分かった。パジェロエボに搭載されているオートマは、「INVECS-Ⅱスポーツモード5AT」と言われるもので、当時としてはとても先進的な5速仕様でマニュアルモードを備えたものであった。まだスポーツカーのオートマですら4速の普通のオートマが主流であった90年代においてこれは非常に画期的なもので、5段であることによって、ギアのつながりをよくしている上に、マニュアルモードを付加してドライバーがギア選択を積極的にできるようにしていたのだ。これによってパジェロエボのオートマ車は、誰でも高性能を気軽に楽しめつつ、マニュアル車にも引けを取らない性能を持つものになっていた。今でこそスポーツモデルに高性能オートマを組み合わせることは当たり前どころか主流になりつつあるが、5速オートマ仕様のパジェロエボはそれを20年以上も前から成し遂げていたのであった。当時からこの仕様は高い評価を受けていて、事実パジェロエボの生産台数の7割はこの5速オートマモデルと言われている。自分の5速マニュアル仕様車も凄く楽しいけれど、この5速オートマはどんなもんなんだろうなあ・・・・・なんて考えに耽っていた。すると、


「あのお・・・・わたしの車がどうかしましたか?」

 

背後から声が聞こえた。振り返ると、どうやらこの赤いパジェロのオーナーらしい、少し白髪の交じった中年男性がそこにいた。


続く。




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