第50話 互いの物語

「あ、いえ。すいません・・・丁度私の車と同型の車が止まっていたものだったのでついつい見入ってしまって・・・・。 綺麗なパッションレッドのエボだなあ・・・と思いまして。」


私は頭をボリボリ掻きながらそう答えた。


「あ、もしかして隣の白いパジェロエボって・・・なるほど、そういう事でしたか!いやあ、お綺麗な個体ですね~!!」


という感じで、挨拶もそこそこに、私とこの赤いパジェロエボのオーナーさんとの会話が始まった。それぞれ気に入っている部分だったり、維持面で苦労している事だったり、使っている油脂類の話であったり・・・・。同車種のオーナー同士なだけあって話題には困らなかった。色々な話題で盛り上がった後、どうしてこのパジェロエボに行きついたのかについての会話になった。無論、私は幼少期からずっと憧れていて、数か月前にやっと念願かなって手に入れたことを話した。赤いパジェロエボのオーナーさんもうんうん、っと深く聞き入ってくれた。


「なるほどですねえ・・・。じゃあ、本当昔からお好きだったんですね。お話伺っていても、本当に大事にされてるみたいで、愛が伝わってきましたし。こんなに好きな子に買ってもらったんじゃ、この子も幸せだろうな~。」


「いやあ~、そう言っていただけると嬉しいですね。私なりに沢山愛情注いで手入れしたり、手を加えてきてますから・・・。暇さえあれば走りにいくようになっちゃったんで距離が伸びまくっちゃってるんですけどね。」


「はははは。 まあ、車は動きまわってるくらいが一番調子いいですしね。沢山走るようになっても手入れとメンテナンスさえやっていれば問題ないですからね。・・・何だかんだ私も20万キロくらい走ってますけど、まだまだ元気ですし。」


「ええ!?そんな走ってるんですか。塗装の色艶といい、足回りの綺麗さといい、新車級ですよね・・・・。」


「そう言っていただけると嬉しいですね。新車の時からマメに洗車をずっとやってきてましたし、点検も定期的にやってきてましたからね。・・・・それはそうと、私がこの車と出会ったキッカケもお話ししましょうか。」


「あ、そうでしたね・・・。是非お願いします!」


私がそういうと、ゆっくりと赤いパジェロエボのオーナーさんは語り始めた。


「実を言うとですね、私は買った当時はパジェロにめちゃくちゃ興味があったわけじゃないんです。当時私自身は学生時代から陸上競技、特に短距離を嗜んでいまして、そっちにずっと夢中で他の趣味に全く興味がなかったくらいなんです。・・・・ところがある日、脚に大けがを負ってしまいましてね・・・。以前まで夢中になっていた陸上ができなくなってしまって、絶望に打ちひしがれていたんです。しかも、それと同時に仕事先が転勤になって、車通勤をしなきゃいけなくなってしまって、どうにか足を探さなきゃと思って、その時偶然出会ったのがこの子だったんです。」


男性は、パジェロエボを撫でながら話を続ける。


「当時は車なんて全く興味なかったんですけど、小さい頃にNHKでパリダカを見ていて、それとなくパジェロの名前は知っていたので、折角買うならそれがいいかもなあ・・・と思ってディーラーに行ったら、たまたまこの子が展示車で置いてあって・・・・。一目ぼれして即決購入でした。」


と、男性は笑いながら話した。


「そうだったんですか!? なかなか鮮烈な出会いだったんですね。」


「ええ、そりゃもう。この攻撃的なデザインに一目で吸い寄せられましたね。しかも、オートマ車で運転しやすそうだったのも決め手でした。乗り始めてからもパワフルさと操縦性の良さと、長距離移動のしやすさにまたまた惚れ込んでしまって、気づいたら今年で付き合いだして22年目になった・・・・って感じです。今ではドライブも手入れも趣味になっちゃいました。」


「なるほど、そんなストーリーがあったんですね! でもほんと、このデザイン最高にカッコいいですよね。私もいっつも撫でまわしちゃいますもん。」


「ですね~。車に関心があまりなかった私でも引き付けられてしまいましたし、今でも惚れ惚れしているくらいですから・・・。未だにこの車を越える車に出会ってないですね。」


嬉しそうに男性は言った。そして、少し間を開けて更にこう言った。



「そうだそうだ、唐突なんですけどもしよかったら私のパジェロエボ、運転してみませんか? ・・・実はちょっと他のパジェロエボと違うところがありまして。」




続く。

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