第46話 首都高の白虎

金曜の夜。私は、ユリのFK8型シビックタイプRの横に乗り、横浜環状線を漂うように走っていた。実はユリと会うのは本当に久しぶりで、話がとても弾んでいた。なんとユリは普段勤めている秋葉原のメイドカフェの店長業に加えて、なんと横浜に新設される新店舗の店長兼プロデューサーも任されることになったんだそうだ。横浜の新店舗では今までのメイドカフェ+αの要素を加える事を目指しているらしく、その+αを考えるのに苦労しているらしい。今後の昇進にも関わってくる大仕事であるがために、暫く走りにも行けなかったそうだ。という事で、今日は飛ばすためではなく、息を抜くために愚痴を聞いたり、会話をするために走っている。


「はああ・・・・本当に嫌になっちゃうわよ・・・・。仕事に追われて毎日毎日頭動かしてばっかりでクッタクタになるし・・・。おかげで休みも中々取れないしで・・・・。」


「まあ、でも凄いじゃない。プロデュースまで任されてるってことは今の店舗での実績が認められてるってわけだしさ。いつものユリならもっと喜んでそうなもんだけどなあ。」


「まあ、そりゃそうなんだろうけど・・・・。とにかくアタシには荷が重すぎるよ・・・。うーん、ほんとどうしようかなあ・・・・。 プラスαなんて言ったって何足せばいいのよ。」


「そりゃ、今流行してる何かを足すんでもいいだろうし、後は例えば、ユリの好きな何かを足すのもいいんじゃない? 私経営とか全くわからないけど、割とそういうところからアイデアって浮かんでくるものじゃないかしら。」


「好きな何か・・・・・ね。うーん・・・・・・。」


ユリにしては珍しく弱音を吐きながらも話をしていると、何やら後ろから車が迫ってきていた。そして、ぴったりとシビックの後ろに張り付くように追尾してきた。


「何こいつ・・・・。さっきっから煽ってきやがって・・・。抜きたきゃとっとと右から抜きゃいいのに。」


「向こう、なんかライトをハイビームにしてきてるね・・・・。車種が全然わからないよ・・・・。」


「とりあえず、アタシから右に逸れてみるか。」


そう言ってユリはシビックを敢えて右車線の方へ振った。しかし、後ろの車も合わせて右に車を振ってきた。


もう一度ユリはシビックを左車線に戻す。が、それにも合わせて向こうも車線を合わせてくる。 かなりタチの悪い煽りの様だ。


ユリはかなりイラっときたようであった。すると、ユリはおもむろにシビックのモード切替スイッチを操作し、+Rモードへと切り替えた。メーターパネルが赤く発色する。


「あああんもうジレってえなあ!? とっととチギったろ!」


そう言ってユリはギアを3速に下げて、思いきりアクセルを床まで踏み込んだ。シビックは体をシートバックに張り付かせるような猛烈なダッシュをして、後ろの車を引き離しにかかった。車速をグングンとシビックは伸ばしていったが、それに追随するように後ろの車もぴったりと後ろに付いてくる。向こうの車も相当の実力のある車の様だ。ユリはぐぬぬっとした顔でルームミラーを覗き込む。


「あっちも中々やるわね・・・。アタシのシビックにぴったりついてくるなんて。・・・っくしょおお・・・振り切れない・・・。」


結構なスピードが出ていた状態のまま、二台のバトルは続いた。並み居る一般車両をすり抜け、追い越しながらユリのシビックは逃げる。向こうはかなり追い越しに手間取っていたようで少しずつ離れていっていた。そのまま逃げ切れるか、と思った次の瞬間。何やら後ろの景色が一瞬真っ赤に染まった。そして、「ウーーー!!!ウッーーーー!!!ウウウウッッーーーーー!!!!」というサイレンの音が響き渡った。


「「あ!?!?!?!?!?!?!?」」


二人揃って絶叫し、青ざめた・・・・・。もしや後ろに付いてたのって・・・・・覆面パトカーじゃ・・・・。


『前のシビックの運転手さんっ~!路肩によって止まってくださいー。』


どうやら女性隊員の方だったようだ。ふらふらとユリはシビックを路肩に寄せる。


「っっ・・・・・!終わったああ・・・・・。」


すっかり意気消沈したユリ。私はかける言葉が上手く見つからなかった。・・・・と二人して茫然としていたら、さっきの覆面の警官がこちらに寄ってきて、

「おいっす~☆ ユリユリ、久しぶり~!」


っと話しかけてきた。ユリと二人でポカーンとしていたら、ユリは思い出したようで、「ハッ」としたような顔をして、


「もしかして・・・リドっちゃん?マジ!?」


どうやらユリの知り合いの様だった。名前は『織戸芹香おりどせりか』と言うらしい。ユリに詳しく話を聞いてみると、この人はユリが地下アイドル時代だった時の同期で、年齢も同じ良きライバルであり、良き友人であった人だったらしい。あまりユリで旧友絡みの話を聞いたことがなかったから、ちょっとばかり驚いた。(失礼)なんでもこの子も元走り屋だったらしく、ST205型セリカGT-Fourを駆ってユリと一緒に首都高や、ヤビツ峠を走り回っていたらしい。なんでも、たまたまユリのシビックを見かけて、話しかけようとすべく、わざとお尻についていたんだとか。


その後は車から一旦降りて、違反に関してはそっちのけでユリと芹香の話は続く。


「へええ~・・・芹香、警官になってたんだ。まだまだアイドルの方やってるもんかなあと思ってた。」


「ん~・・まあ、まだ続けてたかったけど、色々あってね。親からもいい加減落ち着いた仕事就けってうるさくて。で、たまたま親戚のツテがあったから警官になったってわけさ。ユリの方こそメイドカフェのやり手店長だって聞いてるよ。あの『ワルキューレ秋葉原本店』を弱冠21歳で引っ張ってるとか・・・恐れ入るよ。 」


「いやあ、全然凄くないよ。いつもいっぱいいっぱいでやってる・・・。アタシは友達も仲間もあんまいないから一人でどうにかするしかないしさ。」


「なるほどねえ・・・。ところで、横にいる眼鏡の人は?」


芹香が私に目線を送り、話を振ってきた。


「あ、この横のはアタシの友達の凛子っていうの。アタシにドラテクとか色々教えてくれてるの。」


「あ、篠塚凛子と言います。よろしくです。・・・・ところで、このマークXのパトカー凄く速いですね・・・。普通のマークXじゃなさそうというか・・・。」


そういうと、「待ってました」と言わんばかりの顔で、マークXを撫でながらこう話し始めた。


「ああ~、この子ね。 トヨタマークX+Mスーパーチャージャーっていうの。3.5リッター車のマークXをベースにスーパーチャージャーを付けたやつでね・・・。最大出力360馬力オーバー、最高速250キロオーバーの中々のモンスターよ。もちろん、脚も強化されているわ。大人しい見た目して、中々のもんでしょ。わたしも高速機動隊にきてから乗り続けてるけど、今のところ逃げ切れた車はいないわね。・・・ユリは逃しかけたけどね。」


と嬉し気に話した。 まさか、警察がこんな隠れたモンスターマシンを導入していたとは初めて知ったので私は驚いた。フォーマルで大人しい外観からは想像できない高性能ぶり・・・確かに覆面パトカーにはある意味ピッタリなのかもしれない。


そんなことを考えていると、芹香はこう切り出してきた。


「あ、そうそう。違反の事なんだけども・・・・。」


「あれはリドっちゃんが勝手に煽ってきたんだから不問にしといてよ。」


「ふふっ・・・・。まあね。確かにあれは私からけしかけたことだしね。・・・そこは不問にしといてあげるわ。でも、せっかくこうしてまた会えたんだし、ここはひとつ「賭け」をしてみない?」


「「賭け?」」


と私とユリは声をハモらせて言った。


続く。


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