第23話 アルファロメオに駆け寄ると・・・

サーキット走行会の興奮が冷めやらぬ火曜日の事。私はいつも通り、職場に来て事務仕事をしていた。まあ、人間を相手する仕事なので結構精神的に疲れはするのだが、テレビに頻繁に出てくるような人のプライベートの姿を見れたり、色々な一面を伺うことができるので中々楽し・・・・


「おお~い!?なんでいつものとこにドクペがねえんだよおい!!?? 早くよこせ!!」


前言撤回。やっぱりだりい。


というわけで今日も色々なゲテモノ芸能人に囲まれながら過ごしていた。


そしてそんな人たちの中から、またも仲間が一人増えることとなってしまったのだった。


私がいつもの様に仕事を終え、パジェロエボに乗り込んで立体駐車場を後にしようと

した時のこと。ボンネットを開けた赤いアルファロメオジュリアの前に、黒い服装に身を包んだ一人の小柄な女性がうろたえていた。


どうにも落ち着きがなさそうだったので一旦端にパジェロエボを駐車して、彼女の元へ駆け寄った。


「あの・・・大丈夫ですか?車に何かあったんですか?・・・・ってもしかして二階堂美都ちゃん!?」


「・・・・・・・そう・・・だよ・・・・私は・・・・・二階堂・・・・美都。 篠塚さん・・・だよね?」


「そうそう、事務の篠塚です!! 覚えててくれたんだ!」


そう、二階堂美都は我がプロダクションで最近引っ張りだこの不思議ちゃん系新人タレントなのだ。かの有名な二階堂財閥の令嬢さんで、寡黙でどこか天然なキャラクターが話題となり、徐々に人気を博している。 実は私も、この子がプロダクション入りする時のオーディションに少し携わったこともあって、個人的には少し思い入れがあったのであった。


「美都ちゃんアルファに乗ってたんだ・・・・カッコいいねえ。 それより、何かあったの?ボンネット開けて中まさぐってたけど。」


「・・・・・バッテリー上がっちゃって・・・。どうしたら・・・・いいか・・・・わからない・・・・の。」


といつものちょっと寡黙な口調ながらも泣きそうな顔をして言ってきた。


「ちょっと待ってて。パジェロエボにブースターケーブル(*バッテリー上がりを起こした車と救援する車のバッテリーを繋いでエンジン始動をさせるための道具)積んであるから、とりあえずそれでバッテリー繋いでエンジン始動してみよっか。」


「え・・・うん・・・・あり・・・がと・・・・。」


そう言って、とりあえず私はパジェロエボをジュリアのすぐ前に着けボンネットを開け、手袋を付け、リアゲートからブースターケーブルを取り出し、ジュリアのバッテリーに接続した。


そこから五分ほど待ち、美都に指示を出した。


「じゃあ、そろそろセル回してみて!!」


こくん、と美都が頷くとジュリアに乗り込み、スタートスイッチを押すと・・・・


ターヒャヒャ・・・ブオオオオオオオという勇ましい排気音と共に、ジュリアの心臓が息を吹き返した。


「かかった! かかったよ!!」


美都は心から安堵した眩しい笑顔を浮かべて、こちらを向いてくれた。その後ケーブルを片付け、美都に「そのままカー用品店かディーラーさんに向かって早くバッテリー新品に変えてもらうんだよ~!」と声をかけてから私はそのまま駐車場を後にした。


その次の日、出勤して自分のデスクの元へ行くと何やら手紙が置いてあった。


開けてみると


「昨日はありがとう。無事バッテリーも交換できて本当に凄く凄く助かりました。お礼がしたいので、今週の金曜の7時、退勤後、駐車場で会いましょう。 ではまた。

二階堂美都                          」


と書かれていた。 お礼をされるほど大したことをやったつもりはなかったけど、こうして助けて喜んでもらえて嬉しかった。 やはり人助けはするものだ。


とりあえず、金曜の夜はちゃんと予定を開けておくこととした。


続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る