第12話 うっかり(?)から始まるナイトドライブ編 後編
というわけで、家の鍵を無くした私は急遽ユリ宅にお世話になる事になり、ユリの運転するシビックの横に乗って向かっていた。
夜の新宿の某大通りでユリたちは渋滞にハマっていた。 今日はとことんツイてないらしい。
「はああ!?なんでこんなとこで渋滞してるの??ありえないんだけど!」
「ん~、調べてみたら丁度今日ハリウッドスターが来日してて、この付近でイベントやってたみたいね~。ファンの出待ちかなんかの車でごった返してるみたい。」
「そうなの・・・・・はあああムッカつくう・・・・」
ステアリングを左手でトントン叩きながら、歯を食いしばっているユリ。相当イライラしてるらしい。 流石に10数分もこの空気のままなのは嫌なので、私は話を振ってみることにした。
「ね、ねえ。そういえばユリって仕事なにしてるの? さっき会議とかいってたじゃん?」
「ああ~そうね・・・・そういえばアンタとか莉緒にはまだ言ってなかったね・・・・。アタシね、メイドカフェの店長やってるの。秋葉原のワルキューレ総本店って知ってる?」
「え!?ワルキューレってあの有名な!?え???」
ワルキューレとは、全国15店舗も構える業界でもトップを誇る超有名メイドカフェグループで、中でも秋葉原本店は日本一の規模を誇ると有名だ。 並みいるメイドカフェの中でもサービスのクオリティの高さとリーズナブルな価格設定で所謂オタクな人たちからの信頼も厚い。
私も一度行ったことがあったが、女性の私ですら日常を忘れて癒されてしまう素晴らしいお店だった。ユリがそこの店長だったなんて・・・!!
そんなことを考えていると、ユリは続けて話始めた。
「あたしね、元々アイドルやりたくて高校卒業した18の春の時青森から着の身着のままで上京してきてね・・・・。 所謂、地下アイドルってのやってたんだ。」
「そうだったんだ・・・・・。 ちょっとびっくり。」
「ふふっ。アタシ、昔から所謂オタク気質で、学生時代イジメられて引きこもってたりしたんだけど、その時TVで見たアイドルに凄く勇気づけられてね・・・それで、アイドルを目指してたりしたんだ。まあ当然それだけじゃ食べていけないからさ、副業っていうかそんな感じでワルキューレに入ってね。 そうしたら何だかんだで一番人気のメイドになっちゃってね(笑)。アタシ目当てのお客さんが来るようになっちゃったし、いつの間にやら伝説のメイド・・・・なんて呼ばれるようになって。ま、アタシは容姿も性格もいいからね~!」
なんか無駄に自意識強いのがムカつくが、確かにユリは可愛い。人気になるのも頷ける。
「その後暫くして、ワルキューレのプロモーションとかサービスのプロデュースとかも任されるようになって。 アタシ、商業高校でマーケティング戦略の勉強してたからさ、こういうの得意だったんだ。そうこうしてたら、ワルキューレのお偉いさんから店長やってみないか?って言われて。まあ、正直その時もうアイドルの活動の方の熱が冷めちゃってね。これもいい機会だと思ってアイドル辞めてメイドカフェの店長やることにしたってわけさ。」
はえ~・・・・っと凛子は深くため息をついた。まさかユリがそんな過去を持っていたとは思わなかった。彼女のいつもの鼻に突く軽い口調からは想像できないほどの力強さを感じた。 彼女もまたシビックのインパクトに負けないほど強い人生を送っていたのだな・・・・と思った。
「ちなみに車にハマったのは、ホンダのビートがキッカケね。こっちに上京してくるときに移動用に適当に買った車だったんだけどこれがもう面白くて・・・・。結局こっちは駐車場代高いからすぐ手放しちゃったけど、おかげさまで店長になってからはFK2、そして今のFK8って乗り継いじゃってるのさ~!!」
と、キラキラした目で語っていた。ユリが大のホンダ党なのはそこからだったんだなあ・・・・と思った。
「へええ・・・・。だからユリはホンダ好きなんだね。」
「そうよ。こうやって三台ホンダ車乗り継いでるけど、どれも最高だもの!!次昇進したらNSXが欲しいかな~。 あ、そろそろ着くよ。」
そう言ってユリが指さす先には高級高層マンションがあった。どうやらアレがユリの自宅らしい。 なんでどいつもこいつも金持ちだらけなのか・・・・。
地下の駐車場にシビックを駐車した後、エレベーターに乗って暫く上がっていき、降りて暫く歩くとユリの部屋に着いた。
ユリが部屋の鍵を開け(なんと鍵はカードキー!今風・・・・)、どうぞと言ったので、私はお邪魔しまーす!と言って中に上がる。
・・・・広いリビングに、大きいソファー。家具は北欧系のものにまとめられていて、明るくきれいにまとめられていた。
「とりあえず、そこ座ってて~!! 今晩御飯用意するから。」
なんだか申し訳ないな~と思いつつ、私はリビングの中のものをチラチラ見ながら待つことにした。
リビングの端の方には、恐らく職場で表彰されたらしい(?)トロフィや賞状が棚の上に所せましと並んでいた。 その横にはアイドルのCDやライブDVD、写真集がギッシリ入った棚があり、その上にはシビックやインテグラやNSXなどのミニカーが置いてあった。
特にアイドル関係の品々は、往年の名アイドルから、マイナー(?)なアイドルまで幅広く並んでいて、ユリのアイドル愛の深さが伺えた。
そして、リビングの真ん中には大きいテレビ(65Vくらいだろうか?)と、オーディオが並んでいる。
暫くすると、リビングに再びユリがエプロンを着たまま入ってきてお待たせ~!と言って料理を運んできた。
料理はどれもプロレベルで凄かった。ビーフシチューにフランスパンに出来立てのポテサラに、サラダというメニューだったのだが、どれも凄くおいしかった。
メインのビーフシチューは肉がトロットロになるまでよく煮込まれていて、噛まなくても口の中でトロっと溶けてしまうようでコクが深く、とても美味しかった。 付け合わせのポテサラもホクホクの絶品で普段は小食の私も思わずバクバク食べてしまった。
ウッヘッヘ、旨いだろ?なんてドヤ顔をしながらこちらを見てくるユリ。今回ばかりは負けだユリ。 飯めちゃくちゃうまいぞ。
なんと食後には実家のリンゴ農園から送られてきたリンゴで作った手作りアップルパイまで出てくる至れり尽くせりっぷりで、久しぶりに美味しいものをガッツリ食べた気がした。
そしてその後
「じゃ、飲んじゃいますか!」ということでさっきたらふく食べたばかりなのに今度はお酒を煽ることになった。
うーん、久しぶりに飲むお酒は美味しい。 と、ここで意外だったのがユリが泣き上戸だったことだ。 お酒を飲み始めてしばらく、ユリはかなり勢いよくガブガブ飲んでいたのだが、次第にかなり酔いが回りだして、しまいには泣き始めた。
「うええええん・・・・上京してから仕事はうまくいくのに友達がなかなかできないのおお・・・・寂しいよおいつも・・・・」
なんて、普段のユリなら出てこないようなセリフを言っていてなんだか可愛かった(?)というか・・・ユリの寂しさが伝わってきた・・・・。きっと彼女も孤独を抱えながらこうして暮らしてきたのであろう。
結局私もこの日はベロンベロンになるまで飲んでしまい、そのままユリはソファーで、私は床で不貞寝して朝を迎えてしまった。
朝日が部屋に差し込み、私は目が覚めた。 うーん、と背伸びをして起き上がった時の事。
チャリンッという音が床に響いた。 んん?となって床を見たところ、そこには私の家の鍵が。
「あ・・・・・・そうだわズボンのポッケの中に入れっぱだったのか・・・・ははは。」
ユリにこの後めちゃくちゃ呆れられたのは言うまでもない。 鍵の管理、みなさんも気を付けましょ・・・・。
続く。
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