第6話 いつメンでドライブ!?後編

この小説に登場する人物名、地名、団体名は実際に存在するものと一切関係ありません。


法定速度を守り、安全運転を心がけましょう。



先週の飲み会のノリから、私のパジェロエボでいつもメンバー三人でドライブに行くこととなり、日曜の朝、凛子は集合場所の某駐車場に駐車し、二人を待っていた。


一応、人が乗るということで昨日のうちに念入りに洗車と、車内の掃除を済ませておいた。 納車する時にボディコーティングもしてもらったおかげでかなりピカピカになった。

暫くすると、莉緒とユリが二人そろって現れた。莉緒は流石芸能人というだけあって、如何にも高そうなブランドの服を嫌味なく、フォーマルに着こなしていた。(もちろん、プライベートなので、サングラスも付けている) そしてユリもいつもは縦ロールのツインテールなのだが、今日は降ろしていてストレートのロングに、また服装も白いシャツにスキニージーンズと、かなり印象が変わっていた。 いつものゴスロリ衣装とはまた違うクールな雰囲気だった。 立ち話もそこそこに、早速出かけようとパジェロエボに乗り込むことにした。

少し前に、莉緒を助手席に乗せたので、今回はユリを助手席に乗せることにした。


「あ、こっち側フルバケ付けてるから後ろに乗る時は助手席側からお願いね~」


と、私が莉緒に言うと、おけ~っと返ってきた。 二人とも、車高が高い車なので乗り込むのに苦戦していたが何とか乗り込んだのち、無事出発した。


練馬インターチェンジから関越道にアクセスする。 合流でわざとアクセルを多めに踏み込んでみる。 二人の「おお~!!」という声と、エキマニも変えて甲高くなった6G74エンジンのエンジンサウンドが響いた。 あっという間に法定速度に達したので5速に入れ、そのまま巡行した。

「もっと鈍いもんかと思ったけど・・・結構速いわね・・・この車。」


「まあ一応これでも当時最強のスペックのエンジンだったからね~。 軽くはないボディをぐいぐい引っ張ってくれるよ~。」


と、私はユリに答えた。


しかし

こうして巡行していると、改めてパジェロエボのロングツーリングのしやすさが身に染みてわかる。 3.5Lの6G74エンジンは余裕たっぷりだし、先日交換した足回りも馴染んできて、かなり乗り心地も良くなってきた。 奮発して付けたフルバケも一度座ってしまえば中々安楽だし、気分がとてもよかった。 かのラリードライバーの増岡浩さんが、「高性能で、なおかつ疲れないのがパジェロの良さ。」みたいな事をカタログで言っていたが、本当にその通りだと思った。


道路の流れが良かったのもあり、比較的早いうちに赤城インターチェンジを降り、暫く行くと、赤城4号線道路の方面へと向かった。 赤城4号線道路に来るのは大学生時代以来だろうか・・・。久しぶりの赤城、そしてパジェロエボで走る初めてのワインディング、楽しみは尽きなかった。 早速ペースを速めて登っていくとパジェロエボはそれに応えるかのように、2トン近い車体を物ともしない鮮やかな身のこなしを見せてくれた。 もちろん、絶対的な車高の高さ、重心の高さはあるのだが、四輪独懸の接地性の良さが光り、路面に吸い付いたようにスルッとコーナーを駆け抜けていった。 本当に思いのままに走ってくれるのが楽しくて、思わずあと二人乗せているのを忘れて楽しんでしまっていた。(二人ともかなりそわそわしていたらしい。)


頂上で景色を眺めた後、南面を通って(ここも程よい中高速ワインディングになっている。)ぐりーんふらわー牧場に立ち寄る。ここに隣接する道の駅のソフトクリームを買って3人で食べた。品の良い香りと共に、牛乳の濃厚さが口いっぱいに広がっていく何ともおいしいソフトクリームであった。またここは、 その後大間々市街に降り、岡直三郎商店で卵かけ醤油、こい口醤油を自宅用に買い、三人で醤油アイスを食べた後、122号線を経由して、日光へと行き、お目当てだった鬼平の水羊羹を購入するためにダッシュ!!・・・したのだがあえなく轟沈・・・・。そのまま観光をすることにした。


日光は徳川家康を祀ってることで知られる日光東照宮や、中禅寺湖や、明治時代などに作られた近代建築の数々など、あらゆる時代を映したかのような様々な遺産が随所に残っていて、正に「日光を見ずして結構と言うこと莫れ」という格言通り、一日市内を回っているだけでも楽しめてしまう観光地である。中でも私は中禅寺湖湖畔にあるイタリア大使館別荘記念公園が特に好きだ。 アントニン・レーモンドの手により設計され建築された建物で、1997年まで現役で使われていたそうだ。 私はここに併設されているカフェでお茶していくのが好きで、大学時代もたまに来たものだった。 当時車にばかりお金を注ぎ込んでた貧乏学生だった私だけど、ここに来ると非日常的な世界が広がっていて、まるで何かの物語の主人公になったような気分になれたような気がして好きだった。


ここで、私はブレンド、莉緒はカプチーノ、ユリはブルーベリー&カシスのジュース(コーヒーが飲めないらしい)を頼んでそれぞれ飲んだ。 


中禅寺湖の素晴らしい景色を眺めながら、飲むコーヒーはやはりあの頃と変わらない、特別なものがあった。


「・・・ここ、なんか凄く落ち着くわね。」


と、ユリがポツリと言った。


へへへ、でしょーなんて、得意げに私は答えた。やはり、お気に入りの場所が褒められると嬉しい。


お茶をした後は、そのまま、いろは坂へと繰り出していった。 


つづら折りのコーナーをパジェロエボと呼吸を合わせながら、スルッと抜けていく。 いろは坂は非常にRのキツイコーナーが多く、スムーズに走らせるのには結構手間がかかるが、上手くハンドルを捌きながら、うまく切り抜けていくのは何とも心地がいい。 車内で他愛もない会話をしながら駆け抜けていっていたのだが、ここでユリが鋭く、こう語りかけてきた。



「・・・ねえ、やっぱりアンタ、昔競技かなんかやってたでしょ。」


「え、な、なに言ってるの・・そんなわけないって!!」


と、私は切り返したが、ユリが嘘おっしゃい、と返してきた。


「この間のバトルの時といい、今回の運転している様子といい、見てて思ったけど、あれは明らかに素人の動きじゃなかったわ・・・。 他の一般車が多い中あれだけのペースを保ったまま車をコントロールするのは並みの神経じゃできないわ。 正直に言って御覧なさいよ。」


「・・・ええ、やってたわ。大学生時代に。走り屋とラリードライバー擬き。 そんなこともあったわね。」


ユリに迫られたので私はそのまま重い口を開いて白状してしまった。。


「私ね、大学入って免許取ってから、自動車部入ってCJミラージュサイボーグRS買って赤城で走り屋やってたのよね。 まあ、自分で言うのもあれだけど鬼のようにいつも走りまくってたからメキメキ上達出来て、2年目にして赤城の下りで最速になっちゃってね。 有頂天になってたら、たまたま赤城の方に来てたラリー屋のおっさんに声かけられてね。 そう、その時のおっさんが志熊自動車の志熊社長だったってわけ。」


そうだったんだ・・・とユリと莉緒の二人は少しばかりの驚きと呆気にとられたような表情をしていた。



そのまま私は、日光インターチェンジから高速に車を進めつつ、話を続けた。


「まあ、志熊社長は昔からモータースポーツ大好きだったみたいでね。 自分のラリーチームを持つのが夢で、その当時志熊社長が立ち上げた新しいチームのドライバーにならないかって言われて。 私は小さい頃、増岡さんみたいなラリードライバーになるのが夢だったし、夢を叶えるチャンスかもって思って二つ返事でOKしたわ。 しかも、国内トップカテゴリーの全日本ラリー選手権に出させてもらえるっていうし。」


それで・・・どうだったのと莉緒が言ってきた。


「まあ、二年間やったけど本当苦しい思い出ばっかりだったし、結果は散々だったわよ。 当時三菱コルト1.5Cって車を競技車にして出てたんだけどね、とにかくセッティングは決まらないわ、変なとこは壊れるわでね。SSで折角頑張ってトップタイム出しても車が突然変なトラブル起こしてリタイアなんてのがザラでね・・・。あと私自身も、走り屋やっててそれなりに運転も上手いつもりでいたけど、色々とレベルの差を見せつけられたし。 本当に悔しかった。 一応大学生やりながらだったから、学業との両立も大変だったな~。 それに・・・」


それに・・・?とユリと莉緒がハモった。



「スポンサー集めに凄く苦労したのよ。 正直、志熊自動車みたいな小さな販売修理の店だと資金繰りが苦しくてね。 色んなとこ頭下げていってね。 でも、経験も実績もないチームだからそう簡単に集まらないし・・・。本当に厳しい世界だなって思った。 いつもヘトヘトになってたわ。」


私は少し深呼吸をして、長く瞬きをした後私はこう続けた。


「・・・・結局、このままじゃ本業が傾きかけちゃうってことで結局二年目にしてチームを畳むことになってね。 なんだか虚無感というか、脱力感というか・・・。凄く複雑な気分になったわね。  でもね、どうせ最後になるならせめてひと花は上げようと思って頑張ったの。 そしたら、何とか最終戦に最初で最後のクラス優勝することができてね・・・。あの時はうれしかったな~。」


そう、忘れるはずもないあの最終戦。満身創痍のコルトを必死で操って掴んだ勝利。話していて少し思い出し泣きしそうだった。

  

重い雰囲気になってしまったので、少し私はおどけてこう続けた。


「まあ、結局チーム潰れちゃったあと、私も就職活動まともにやってなかったから、パニックになってね(笑)。 結局親戚が三好プロとコネがあったから何とか就職できることになってね。 工学部生だったのにこんな仕事やってるのはそういうわけ。 で、志熊社長には未だよくしてもらってるし、こうして趣味として大好きで憧れだったパジェロにこうして乗って、で、ちょっとダートとか走れて、こうして素敵な仲間ができた今が最高に幸せだけどね!!」


と私は笑ってみせた。 ユリと莉緒がやれやれといった表情で笑った。



「なんだか、凄い話聞いちゃったな~・・・。 なんかごめんね。」


とユリが言ってきたので、私は全然大丈夫よ~と答えた。 そして、


「せっかくだし、このまま宇都宮で降りて餃子でも食べてから帰ろうか!」


と切り出してみた。 ユリと莉緒は合わせていいね~!っと言ってくれた。


よし、三人でまた盛り上がりながら、餃子を食べて帰るか。 私はアクセルペダルをグッと踏み、パジェロエボを加速させた。




続く。


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