おれ100万人
きききらす
第1話
起きたら、おれが2人になっていた。
お互いに顔を見て、ふーん、ははーん、なるほど、と納得する。
どちらがオリジナルであるかはすぐに理解した。
おれは服をシャツとパンツを着けているが、もうひとりの俺は全裸だ。
残念ながら運動不足で不健康な40過ぎたおっさんの全裸なので絵面はよくない。
これ以上、描写するのもいやだ。
とりあえずパンツを渡し、オリジナルのおれともうひとりの俺が「これはあれだSF的ななにかが俺の身に起きた」という理解はお互いのおれと俺で共有された。
こどものときに読んできた藤子・F・不二雄先生のSF(すこしふしぎ)作品のおかげである。
あれは謎の宇宙から来たクローン培養装置みたいなもので分裂したSFマンガ家の話だっただろうか。
理由はわからないが分裂したおれは俺はまちがいなく両方が同じ人間であると確信した。
とにかく服を着た俺とおれは、ジャンケンをした。
「仕事の内容わかる?」「今日提出の書類が一枚。2階に新しい入居者」
念の為、お互いに、いくつか短い確認をしていき「昼休みになったら一度もどってきて」「うむ」という短い会話をしたまま、おれは俺を送り出して、視聴途中のアニメを観ながらラーメンを食べた。
思わぬ休暇を得られたおれは戻ってくるだろう俺のために飯を作って待っていた。
「明日はおれが出勤しよう」「食費倍になるけど休みが二倍になるのは嬉しいな」
この時はお互いに、まだこの程度の認識だった。
それくらい仕事や他のことに疲れていたし、そういうものだろうという受け入れができていた。
世間的にも独身中年男性が一人増えたところで大した問題でもあるまいという妙な確信があった。
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