第1148話 笑ってワイバーンを受け入れる
ワイバーンが魔物を運んでいると知っていても、シュットラウルさん達は今までどうする事もできなかったようだ。
大量の魔物が街を囲んでいるような状況で、ワイバーンだけを倒しに目指すなんて事は無茶が過ぎるからね。
多くの人を向かわせると魔物とぶつかるから当然できないとして……ワイバーンを倒せるような少数精鋭を向かわせたとしても、辿り着くまでに魔物に襲われてしまう。
なんとか行き着いても、ワイバーンが空を飛んで逃げたら手も足も出ないから。
そういう意味では、エルサに乗って空中で戦えた俺が特殊なのか……南の魔物はもういなかったけど、いたとしてもその上空を飛んで行けただろうから。
「そこでちょっと色々あって。結構な数のワイバーンを倒したのは倒したんですけど……あっちにいる、ボスワイバーン……ちょっとだけ大きくて角の生えているワイバーンが、降参? というか、俺やエルサに従うと言い始めたんです」
「……よく見ると、二体いるうちの片方は少し大きく見えるか。しかし、ワイバーンが何を言っていたのかわかるのか?」
「そこはまぁ、エルサがやってくれました……」
細かい事を言うと、魔力を繋げただのなんだのと長くなりそうだったので、エルサがなんとかしたとだけ伝える。
あとは、十体以上のワイバーンと、ここにいるワイバーン達は従ってくれている事や、人間を攻撃しないと約束した事など、もしものときは俺が責任を取る事を伝えた。
「ふ……」
「シュットラウルさん?」
「シュットラウル様?」
大きな鎧の中に入り、くぐもった声だけど微かに息というか声を漏らすシュットラウルさん。
ワイバーンを連れてきた事を、怒っていたりするんだろうか? と、俺とほぼ同時に大隊長さんの方も声をかけていた。
「ふふ……ふはははははは!! 南の魔物を殲滅するだけでも、リク殿の称賛するべきだが……まさかワイバーンを味方に引き入れるとはな! これが笑わずにはいられるか! はっはっはっは!」
豪快に笑いだすシュットラウルさん。
さっきのは怒っていたのではなく、笑いを我慢していたのか……紛らわしい。
「えーっと……?」
「ははは! よく考えると、あのワイバーン達は私達には攻撃をするような意思が感じられなかったし、実際に攻撃の影響はほとんどない。いや、助かったくらいだ。それもリク殿の指示なのだろう?」
「えぇ、まぁ」
「空から何かを叫んでいるとは思ったが、まさかワイバーンが味方になるとはな!」
フルフェイスの兜のせいで表情は窺えないけど、くぐもって聞こえる声からは楽しそうな様子が伝わって来る。
ついでに聞いてみたところ、俺が空から叫んでいた声は聞こえていたけど、ほとんど何を言っていたのかは聞こえていなかったらしい。
ワイバーン、攻撃、薙ぎ払え、とかそんな感じの事を断片的に聞き取れただけだったとか。
ただ、俺が乗ったエルサが上空にいるのだから、もしワイバーンが敵だったとしても問題はないだろうという判断と、攻撃されても鎧がどこまで耐えられるか試したい、というのもあったらしい。
多分大丈夫っぽいけど、鎧を試すためにワイバーンに攻撃されてもいいかと思っていたのは、ちょっと危なっかしい。
それだけ、鎧への信頼が大きいのかもしれないけど……確かに、魔物に囲まれ続けても傷一つなく白い鎧は綺麗なままだけども。
「では、リク殿。ワイバーンの協力とリク殿の協力で、共にここらの魔物を倒そうではないか!」
「シ、シュットラウル様、それは……」
「あ、それは駄目です」
「ぬ? なぜだ……?」
突撃槍を頭上に掲げ、意気揚々と魔物の討伐をしようとするシュットラウルさん。
隣の大隊長さんは止めようとしているのか、手をワタワタさせている……鎧のせいであまり動かせていなかったけど。
意気込んでいるシュットラウルさんには悪いけど、さすがにこれから魔物と戦うのはちょっと厳しい。
いや、戦えなくはないけど、エルサも俺もいつ魔力が減って意識がなくなるかわからない状態だ。
ワイバーンだって、硬い皮膚のおかげで魔物達に対して無敵を誇っているけど、ずっと戦っていられるわけではないだろう。
それに、シュットラウルさん達の鎧も、クォンツァイタからの魔力がいつまで保つのかもわからないからね。
「魔力が色々と限界です、俺もエルサも。ワイバーンもさすがに疲れてきているみたいですし……」
結界内の魔物を蹂躙しつくしたワイバーン達だけど、怪我は一切していないにもかかわらず、息が荒い。
興奮状態とかではなく、単純に疲れたからだろう。
魔力切れではないんだろうけど、魔物を運んだり、空でエルサが襲撃してきたり、俺と一緒に街まで飛んでその後人の目に晒されながら魔法も使いつつ、魔物と戦ったからね。
疲労するのも無理はないと思う。
「そ、そうです、シュットラウル様! ここは一旦退いて……」
「魔物を好機だと思ったのだが……しかし、退くと言ってもそれはそれで一苦労だと思うぞ?」
「それは確かにそうですけど……でも、このまま戦い続けるわけにもいきません」
というか、中隊長さんにシュットラウルさんが戻るよう、お願いされたからね。
大隊長さんも同じく、シュットラウルさんを退かせようとしているみたいだし……ここにいるのは、多分巻き込まれたからだろうなぁ。
エルサに乗せて戻ればというのも考えたけど、そろそろ大きくなっているのも限界っぽいし、鎧付きの二人を乗せるのは難しそうだ。
「というか、その鎧は外せないんですか? せめて、それがなかったらエルサに乗せられると思うんですけど……」
人間三人くらいなら、さっきまで程じゃなくても何とか乗せられるくらいの大きさになってもらって、飛んでもらう事がギリギリできそう、だと思う。
頭にくっ付いているエルサからは、抗議のつもりなのかペシペシと叩かれていたりするけど。
……はっきり口に出さないあたり、ギリギリ大丈夫なんだろう。
「それは少々難しいな。そもそもこの鎧を一度身に付けて発動したら、自分では脱ぐ事はできないのだ」
「……リク様、この鎧は脱着するのに数人がかりなのです。リク様のおかげで、現状猶予ができていると言っても、人手が足りません」
「そ、そうなんですか……」
まぁ、人間の体からするとかなり大きなフルプレートアーマーだから、仕方ないか。
腕の可動域も少ないみたいで、武器を掲げるくらいは肘を曲げてできるようだけど、そもそも兜にすら手が届かず、自分で脱ぐ事もできないようだ。
「一体、なんだってそんな鎧を……」
「いつまでたっても、後方で指揮をするだけでは戦っている者達に示しがつかんからな。クォンツァイタとカイツ殿の協力で使えるようになったのだ、せっかくだからこの機会に前線で私も戦わねばと思ったまでだ」
「誰も、シュットラウル様が後方の安全な場所にいるだけ、なんて事は言っていません。むしろ、今シュットラウル様を失う方が、兵士達の瓦解を招きます」
「大隊長さんの言う通りだと思いますよ?」
自分だけ安全な場所にいる事を良しとしないのは、シュットラウルさんのいいところなのかもしれないけど……さすがに総大将が突出するのはどうかと思う。
大隊長さんの言う通り、誰も文句とかを言っているようには思えないので、考え過ぎだろうね――。
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