第1147話 なんとか隔離に成功



「もう少し、近付くのだわ」

「今なら、ワイバーン達に魔物の注意が向いているから、大丈夫かな。お願いするよ、エルサ。でも、飛び上がって来る魔物には気を付けて」

「もちろんだわー」


 エルサの提案に乗り、高度を少し落としてシュットラウルさん達に近付く。

 周囲の魔物達は空を飛べないにしても、人間とは比べられない程の跳躍力を持つのもいて、数十メートルくらい飛び上がる魔物だっている。

 まぁ、その魔物は見当たらないし、飛び上がった後に落下して地面に激突して勝手にやられるという、意味がわからない魔物だったりするだけど。

 それはともかく、魔力節約と声を届けるには邪魔だから今は結界を張っていないし、エルサなら大丈夫だろうけど、地面から飛び上がってきた魔物が体に張り付いたら嫌がるだろう。


 だから、警戒をしながら少しずつ高度を下げて行く。

 幸い、大きな鎧をまとったシュットラウルさん達と、同じくらいかそれ以上の体を持つワイバーンに注意が向いているので、周辺の魔物が空に浮かぶエルサに気付いていない様子だったけど。


「シュットラウルさーん! そのワイバーン達は! 敵ではないので! 攻撃はしないで下さーい!」


 二度目の呼びかけ。

 今度は全部がはっきり聞こえたわけではなくとも、なんとなく意味は伝わったようだ。

 大隊長さんとシュットラウルさんの二人が、驚いている仕草をしつつ、ワイバーン達の方を見たり俺達を見上げたりと繰り返した。

 少しして、納得したのか武器を下に向けて下げてくれた……多分、ワイバーン達を攻撃しないという意思表示だろう。


「なんとか、伝わったようだね。さて……」


 ワイバーン達は俺がシュットラウルさんに話し掛けている間にも、ずっと魔物達と戦ってくれている。

 これまで実感した事はなかったけど、本当にワイバーンの皮膚が硬いからだろう、魔物の一体が鋭い爪を突き立てようとしても一切傷が付かず、噛み付いても逆にワイバーンに振り回されるだけで牙が刺さる事はない。

 魔物の数が多過ぎるから体に張り付かれたりはしているようだけど、再生能力を発揮する事もなく、ただただワイバーン達が蹂躙しているだけだ。


「うーん、でもこのままだとシュットラウルさんと話せないし、なんとか隔離できないかな?」

「魔物と距離が空けば、結界で隔離できるのだわ。けど、あの状態だと……だわぁ」


 ワイバーンには攻撃しなくとも、シュットラウルさん達にも魔物は続いて群がっている。

 さっきよりも数は減っているけど……それでも十分多い。

 魔物とシュットラウルさん達を、けっかいで隔てるタイミングがつかめないな……。


「……もういっそ、魔物も一緒に隔離しよう」

「魔物もだわ?」

「あの状態なら、結果の中に魔物が入ってもすぐにワイバーンや、シュットラウルさんが倒すだろうからね」


 ある程度の魔物なら強制的に結界の中に入り込んでいても、問題ないだろう。

 隔離した事に驚いたシュットラウルさん達が、その隙に魔物から攻撃れる可能性はあるけど、あの鎧なら怪我をする事はないだろうからね。

 問題は、密集し過ぎて地面が見えない事だ。

 結界はイメージが大事だけど、目に見える場所や感知できる場所にしか張れない。


 ハウス化の時なんかは、探知魔法で広範囲の情報を調べているから見えなくとも地形を把握して、大きな結界を張れるんだけど……今は魔物が密集しすぎているから、探知魔法も役に立たない。

 このまま無理矢理結界を張ったとしても、魔物達の頭上で発動して下部分がスカスカになってしまう可能性が高い。

 あ、そういえば、さっきボスワイバーンが魔法を使っていたっけ。


「ボスワイバーン、広い範囲に炎をまき散らして! 白い鎧の人には当てないように! ワイバーンはできるだけ魔物を薙ぎ払うように!――シュットラウルさん達も、周囲の魔物を薙ぎ払って隙間を空けるようにしてください!!」

「ガァゥ!」

「GRA!」


 声を張り上げて、ボスワイバーンとワイバーン、シュットラウルさん達へお願いする。

 ワイバーン達が返事をするように咆哮するのはこちらに聞こえたけど、シュットラウルさんの返事はさすがに聞こえなかった。

 でも、ある程度把握してくれたのか、動きを変えて一体一体の魔物を確実に倒すのではなく、数体の魔物を薙ぎ払って、他の魔物を巻き込むように攻撃してくれるようになった。

 ワイバーンの方は、大きな尻尾を振り回して、一気に魔物を薙ぎ払うのを繰り返す。


 ボスワイバーンの方は、大きく息を吸い込むような仕草で魔力を溜めた後、一気に放出。

 口から炎を吐くブレスのような攻撃を扇状に噴射し、広い範囲の魔物達を焼く。

 広範囲だからか、威力自体は分散しているようだけど炎だから燃え移ったりと二次被害が魔物達の間で広がっていく。


「よし、今だ。……結界!」


 そうして、少しの隙間から地面を見下ろし、シュットラウルさん達を包むような、アマリーラさん達を確保した時と同じ円柱の結界を発動。

 魔物達との隔離を成功させた――。



「ふぅ……シュットラウルさん、ですよね?」


 結界の中、周辺の魔物との隔離空間で地上に降り立ち、息を吐きつつエルサから降りてシュットラウルさんを見上げながら声を掛ける。

 エルサも魔力節約のためか、すぐに小さくなって俺の頭にくっ付いた。

 ただ、近くで見ると真っ白な鎧が立っているだけなので、本当にシュットラウルさんなのか不安になって尋ねる形になったけど。

 シュットラウルさんだろうと見切りを付けて、叫んだり隔離したりしたけど、声すら聴けていないからね。


 ちなみに、エルサが降りるための空間を確保するため、百以上の魔物が結界内に入っていたけど、それらは順調にワイバーン達が蹂躙を続けてくれている。

 外側では、魔物達が結界に張り付くようにしているけど……そちらはあんまり見たくない。

 形は違うけど、ゾンビ映画とかで閉めた門に群がるゾンビみたいになっているから。

 まぁ、アマリーラさん達を確保した時にも見ているんだけど、あの時は空を飛んでいたこんなに近くでは見ていない。


「あ、あぁ。そうだが……リク殿、ワイバーンを攻撃するなというのが聞こえたが、どういう事だ?」


 完全に頭を覆っている兜が微かに動き、頷くようにしつつ中からシュットラウルさんの声が聞こえる。

 良かった、間違っていなかった。

 多少くぐもって聞こえるのは、兜に遮られているからだろう。


「えーっと、話せば長く……はないのかな? 南側にいる魔物を殲滅したんですけど……」

「リク殿がここにいるという事は、そうなのだろうな。見てはいないが、派手にやっていたのだろうというのはわかった。地面も揺れていたからなぁ……」


 地面揺れたんだ……まぁ、アーちゃんが色々やってたからね。

 周辺でちょっとだけ地震が発生するのも当然か。


「その後、ワイバーンを倒しに行ったんですよ。魔物を運んで来るワイバーンを止めないと、いくら倒してもきりがないですから」

「ふむ……確かにそうだな。囲まれている状況では、ワイバーンを目指す事はできなかった。どういう動きをしていたかがわかっていてもな」



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