第1132話 ワイバーンの群れへ



「わかった。では私達は残った魔物の討伐をしておこう」

「それと、魔力溜まりを発生させないための対処も承りました」

「うん、お願いします」

「私もまだまだ頑張るの! あいつが協力した事なんて、絶対ろくな事じゃないの。ぶっ潰すの!」

「ユノ、それはちょっと言葉が汚いぞ……」


 もうほとんど魔物がいない南門は、このまま皆に任せていればなんとかなるだろう。

 東門への応援も、もっと多くの人が駆け付けられるはずだ。

 サマナースケルトンがいないため、すぐに魔物が追加される可能性は低いからね。

 とりあえず、破壊神に関係するからか特に意気込むユノには一応の注意をしておいて、エルサに乗って空へと浮かび上がった。


「休めると思ったのにだわー」


 ゆっくり羽ばたき、浮上しながらぼやくエルサ


「まぁまぁそう言わずに。ワイバーンがセンテに来たら、休むどころじゃなくなるんだからさ」

「仕方ないのだわー」

「あ、そうだ。もう俺一人しか乗っていないから、さっきみたいに小さくなっても大丈夫だよ」

「そうだったのだわ」


 こうしている間にも少しは魔力が流れて行っているとはいえ、エルサも完全に魔力が回復しているわけじゃない。

 無駄に使わないに越した事はないからね。

 俺の言葉で、すぐに体を小さくするエルサ……ふむ。


「エルサ、この大きさならしばらく魔力がもつとは思うけど、速度とかは出せる?」

「前みたいに、全速力は出せないけどそれなりに速く飛べると思うのだわ。魔力量や翼の数が関係するくらいで、大きさは速度にあまり関係しないのだわ」


 つまり、いつものんびり移動するよりは速く動く事ができるってわけだね。


「そうなんだ。でもまぁ、小さい方が小回りが利きそうだよね?」

「大きくても小さくても関係ないのだわ。飛ぶのは得意なのだわ」

「ふむ……」

「また変な事を考えているのだわ?」


 変な事とは失礼な。

 これから向かおうとしているのは、ワイバーンが大量にいる場所……ウォーさんの水が弾けた時、探知魔法を使って確認していたんだよね、偶然だけど。

 空を飛んでいても移動はしていなかったから、こちらの様子を窺っていたのかもしれないけど、ともあれ数十くらいはいるのがわかっている。

 そこに飛び込むとなると、大きさで圧倒するよりは小回りが利く機動力が欲しいと思った。


 エルサ曰く、大きさはあまり関係ないらしいけど、乗っている俺としては小さい方が戦いやすい。

 ワイバーンにとっても空は得意な場所……王都の時みたいに、エルサも俺も遠慮なく魔法を使うだけの魔力はあまり残っていないし、向かって来るのを倒すだけよりは、動き回った方がいいだろう。


「ただ、ワイバーンが群れて飛んでいる場所に飛び込んで、エルサが翻弄しつつ俺が倒す……なんてのを想像しただけだよ」

「……つまり、空中戦闘機動をするのだわ?」

「どこからそんな単語を……間違っていないけど。とにかく、ワイバーンのいる場所へ向かおう」


 空中戦闘機動……多分俺の記憶にある、何かの知識からなんだろう。

 突っ込むのを諦め、ワイバーンの反応を感知した東南へと向かってもらう……スピリット達が言っていた、サマナースケルトンがいた場所よりも向こう側……フィリーナとカイツさんの足跡を追いかけて、発見した場所付近だ。


「ワクワクするのだわ! ラグロールやバレルロールは格好いいのだわ!」

「いや、それはさすがに乗っている俺が辛いから止めて……」


 東南方向へ向かって、エルサの意気込みを示すように速めの速度で移動を開始しつつ、興奮を抑えきれない様子のエルサ。

 あんまり詳しくないけど、最低限俺の記憶にある航空機の軌道というか技名というか、それを掘り出して興味津々といった感じらしい。

 ただ、俺はそういう訓練を受けていないし、空中でグルグルと体を振り回される事になるので、勘弁して欲しい。

 そもそもに、航空機と違って揚力を魔力で動かしている上に生身のエルサやワイバーンが、戦闘機の空中機動を真似しても意味はあまりないと思うんだ。


 浮かんだまま完全停止できるし、ブレーキやアクセルも思いのまま……高度の上げ下げだけでなく、多分直角に曲がる事だってできるはず。

 ……簡単に戦闘機の動きを凌駕できる時点で、わざわざ真似する必要はあんまりね。


「ミサイルの追尾や、バルカン砲の回避もやってやるのだわ!」

「聞いてない……ミサイルもバルカンも、ワイバーンは持っていないから、落ち着いてくれー!」


 空中戦闘機動に思いを馳せ、興奮してしまったエルサは俺の話を聞いていないようだ。

 ミサイルやバルカン砲なんてワイバーンが撃つわけないし、ちょっと落ち着いて欲しいんだけど……。

 まぁ、魔法で相手を追尾とかくらいならあるかもしれないけど……それにしたって、これから戦うつもりのワイバーンは再生能力を強化したやつなので、魔法を使って来ないだろうに――。



「あれなのだわ?」

「みたいだね。確認した時より、増えているかな? 集まっているのかもしれない」


 なんとかエルサに落ち着いてもらおうとするが、聞く耳を持ってくれず、高揚した状態のままワイバーンが目視できる場所まで来る。

 さすがに、その勢いのまま突撃しなかったのはありがたいけど、なんとなく雰囲気が落ち着かず、さっさと突撃したい様子のエルサ。

 俺が行こうと言ったら、いきなりトップスピードを出しそうでもある。

 とにかく、まずは見えているワイバーン。


 探知魔法で確認した時よりも数が多い気がするのは、俺達が到着する前にどこからか合流したんだろう。

 サマナースケルトンがいなくなって、向こうも混乱しているのかもしれない……むしろ都合がいいね。


「他の所に行っているのもいるかもしれないから、全部とはいかないけど……ん?」

「どうしたのだわ?」

「いや、あれ……」


 ふと気付いて言葉を止める。

 エルサに手で気になった部分を示す。

 そこは空を飛んで群れを成しているワイバーンの下、地上部分でそこから次々とワイバーンが浮かび上がって、空で合流しているみたいだった。


「あそこに、ワイバーンが集まっているのだわ」

「むしろ、集まっているというか、あそこがワイバーンの棲家みたいな場所なんだろうね」


 破壊神と会った洞窟、そこにいたはずのワイバーンはアマリーラさん達に倒されたの以外、全ていなくなっていた。

 魔物とはいえ生き物、再生能力が高くても使っているのは魔力や生命力……数が多くなればなるほど、必ず休む場所が必要になるのに、破壊神の隔離から抜け出した際にワイバーンが戻ってきた形跡はないように思えた。

 センテに戻る事を優先したから詳しく調べていないけど、足跡が外向きで残ったままだったし、何度も出入りしている感じじゃなかったからね。

 つまり、あんな所に別の居場所を作っていたという事だったのだろう。


 俺が洞窟に踏み入ってからなのか、それ以前からなのかはわからないけど……カイツさんを探しに来た時にニアミスしていたのかも。

 あの時周辺をもう少し調べていれば、と思うけどカイツさんを探して偶然辿り着いた場所だし、今考えても仕方ないか――。



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