第1127話 獣人にも崇める神がいる
アースさんの言動やウィンクに、拒否反応を示している場合じゃないな……えっと、話の流れからフレイちゃんは女の子と。
四大元素、女性が二人に男性一人、あとアーちゃん? は見た目は男性だけど性別不明って事で。
「お前達、召喚主様が困っておられる。我らが呼ばれたのなら、頼み合っての事だ」
わいわいと収拾がつかなくなっている状態を、ウィンさんが全員に声をかけて治めてくれる。
まともそうなウィンさんがいてくれて、ありがたい。
予想外に頭が痛くなるような、個性的な人格を持ったスピリットを召喚してしまったなぁ……。
「チチー! チー、チチ?」
「そうだったな。でどんな願いだ? まぁ、眼下の状況を見ればなんとなくわかるが」
「なんでも頼んでねぇ。可愛い主様のお願いなら、私張り切っちゃう! もう、私の足にちっちゃいのがムラムラと群がっているけどねぇ」
そうだった、と声を上げて俺に顔を向けて首を傾げるフレイちゃんは、混沌とするこの場では癒しだね……燃え盛る火だけど。
男勝りなウォーさんに、喋り方だけ女の子っぽいアーちゃんは何を張り切るのかわからないけど、聞かない方がいいんだろう。
見た目、声、喋り方など、深く考え過ぎると脳内にバグが発生しそうだったので、そこから意識を反らしつつ……早く慣れないとな。
「えっと、まぁ見てわかる通り、人間の街が魔物の大群に襲われているんだ。それを、できるだけ街に影響がないように、殲滅して欲しい……かなぁ、なんて」
最後に微妙な言い方になってしまったのは、きっとスピリット達の個性に押されたからだという事にしておこう。
ちなみに、遠目にも外壁の上にいる人達が、こちらに注目しているのがわかる。
アーちゃん、巨大だからなぁ……他のスピリット達は、向こうからはっきりとは見えないんだろうけど。
魔物も一部はセンテの門へ向かうのを忘れて、アーちゃんの足に群がっていたりするし。
まぁ、アーちゃん自身はちょっとむず痒い程度であまり気にしていない様子だけど。
こちらに注目して、外壁からの攻撃が緩んだ代わりに魔物の攻撃も緩んでいるので、状況はあまり変わっていない。
門は既に閉じられていて、準備は整っているようだ。
「了解しました、召喚主様。直ちに地上の魔物達を殲滅してご覧にいれます」
「チチ、チチチチチ!」
「数だけは多い有象無象だが、久しぶりに腕がなるぜ!」
「主様のお願いだから、ちゃんとしないとねぇ」
それぞれが俺の言葉に応え、エルサに乗る俺達から離れていく……アーちゃんだけは、巨大だからそこまで離れた感じはしないけど。
というか、今結構な数の魔物を踏みつぶしたよね、アーちゃん? もう、適当に歩いて踏みつぶしてもらう方がいいんじゃないかな……。
なんて考えている間に、それぞれのスピリット達が配置についたようだ。
アーちゃん以外のスピリット達が陣取ったのは、門の上空。
ウィンさんが片手を顔に当てて、もう片方を広げている、格好良さげなポーズを決めているのは気にしない……個性的なスピリット達、まともなのはいなかった。
「あぁそうだ、エルサ。一応離れておこうか……」
「位置が少し不味いのだわ。了解なのだわ」
スピリット達がどうするのかはわからないけど、俺達は群れた魔物の真上にいるのでもしかしたら巻き込まれかねない。
エルサに言って、スピリット達のさらに上に行ってもらった。
ここなら、確実に影響がないだろうし、全体をよく見られるからな。
「はっ!」
「あ、ようやく正気に戻りましたか」
エルサが移動する際に揺れたからか、スピリット達と距離を取ったからか、ようやくアマリーラさんが動いた。
リネルトさんは……何故かすごくニコニコしている。
「リ、リ、リ、リク様!? あれは、あれはもしかして精霊様達、なのではないでしょうか?」
「精霊様……? えぇと、多分? フレイちゃん達は、スピリットって言っていましたけど」
俺の中では精霊で合っているんだけど、アマリーラさんの言う精霊様と同じかどうかはわからない。
けどまぁ、四大元素を司るスピリットだから、多分精霊と言い換えてもいいんだろう。
「精霊様の召喚……しかも、四精霊を全て同時に……。もしやリク様は、我ら獣人の崇める神様なのでは!?」
「いや、神様じゃなくて人間ですけど……」
神様、と言われると頭に思い浮かぶ破壊神……はまぁ、最近戦ったばかりだからか。
他には創造神のユノとか、エルフを創ったアルセイス様とか……あ、もしかして。
「獣人にも崇める神様っているんですか?」
「もちろんです。我ら獣人に力の理(ことわり)を授けて下さった神様がおられます」
「へぇ~、そんな神様が」
エルフを創った神様がいるんだから、獣人を創った神様もいるのかと思ったら、少し違った。
そういえば、獣人の方は人間と同じく創造神のユノが創ったんだっけ? あれ、そんな事を言っていたような言ってなかったような? あとでユノと会った時に聞いてみるか。
「そしてその神様、獣神様とお呼びしていますが……その方が我ら獣人の国が危機に瀕した時、精霊様を呼び出して救った、という伝説があるのです」
「獣神様……」
なんだろう、突然その獣人さん達が崇める神様がうさん臭く感じてしまった。
頭の中には、いにしえの覆面レスラーが浮かんだせいだろう……多分、この世界の獣神様というのは、それとは違うはず。
「獣神様以外に呼び出せないと言われ続け、現に獣人国では呼び出せる者は誰もいませんでした。ですがそれを、リク様がやってのけるとは……それも、四精霊様全てをです」
「えーと……まぁなんというか、そこまで大袈裟な事じゃないかなぁ……と。あ、そろそろ始まりますよ? 詳しい話は後にして、今はその精霊様が魔物達をどうするのか、見ておきましょう」
「は、そ、そうですね! 精霊様をこの目で見られるまたとない機会!」
「故郷の弟妹達に自慢できるわぁ!」
なんとなく、話し始めると長くなりそうな気がしたので、また今度聞く事にした。
話を切って、とにかく精霊……スピリット達のやる事を見ておこうと、アマリーラさんの意識をそちらに向けるのに成功。
……アマリーラさん達だけでなく、他の人からも含めてこの後の追及が怖いけど、今は考えないようにしておこう。
あと、アマリーラさんから後で聞いた話だけど、リネルトさんに弟妹はおらず末っ子らしい……リネルトさん、精霊様を見られてテンションが上がりきってしまって、適当な事を言ったのかもしれない。
「それでは、ショータイムです。行きますよ?」
「おう! いつでもいいぜ!」
「チチー!」
「任せなさい。まずは私からね……ぬぅん! はぁ!」
聞こえて来るスピリット達の声……距離が離れているし、決して大きな声というわけでもないのに、俺にははっきり聞き取れるのは、召喚した主だからだろうか?
スピリット達は、それぞれ示し合わせるように声を掛け合う。
まずは、アーちゃんが土の両手を重ね合わせながら気合の声……そこは男らしいんだ――。
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