第1090話 渾身の魔法もほとんど無効



「ふふ、ふふふふふ……ほんと、すごいわ。そして面白いわ。あんな事をできる人間が他にいないでしょうけど、あれくらい思い切りよくやれるのも他にはいないわ。でも、ここは洞窟の中。もし崩れて生き埋めになったらどうしていたの?」

「本当に洞窟の中なら、あんな魔法は使ってなかったよ」


 だってここは、俺やアマリーラさん達が捜索しにきた洞窟じゃない。

 次元をズラしたとか切り離したとか、よくわからない部分もあるけど……神の御所を真似て作った場所らしいからね。


「俺の知っている神の御所は、ただひたすら広かった。洞窟みたいな狭い場所じゃなかったんだ。それに、神様がいる場所だろ? あれくらいの事じゃビクともしないんじゃないかってね」

「……ふふ、ふふふふふふ……あははははははは!! げほっえほっ! ほ、ほんと面白いわ。たったそれだけの事で、大丈夫だと確信してあんな魔法を使ったって言うのね。あはははは!」


 破壊神、大爆笑……途中咳き込みながらも、笑いは止めない。

 まぁ、本当はそこまで確信のある事じゃなかったんだけどね。

 でも少なくとも、ここが本当に洞窟の中のままだとは思えなかったし、生き埋めになるとは思っていなかった。

 俺を弾き飛ばしたり、結界を破る程の破壊の力を使っても、壁に穴を開いたくらいで崩れなかったから、相当丈夫な場所だって思っていたのもある。


 結界の丈夫さを考えると、あれを壊すくらいの威力があれば洞窟なんて、既に崩壊してておかしくないだろうから。

 洞窟がどれだけ丈夫かはわからないけど、ブハギムノングの鉱山なら間違いなく崩壊していただろうし、自然にできたのか人為的に掘られたのかの違いはあっても、山に空洞があるわけで、耐久性は知れているはずだからね。


「いや~今のは本当に驚いたわ。私もさすがに危なかったかも?」


 なんて言う破壊神だけど、その言葉には余裕が感じられた。

 やっぱりというかなんというか、全然通じなかったみたいだ……。


「とりあえず、邪魔だからまだ舞っている土埃はどかすわね」

「……同感だよ」


 全力で放った爆発……いや、爆裂の魔法を受けても余裕を感じさせる破壊神に、精一杯強がる。

 とは言っても、向こうに同意しただけだけど。


「よっ……と」

「くっ!」

「だわわわわわ!! 首が、首が折れるのだわ!」

「そんな恰好のままでいるから……ほら」

「ふぅ……だわ」


 破壊神の声と共に、土埃の向こうで何かが動く気配……それと共に吹き荒れる突風。

 手でガードしながら飛ばされないように踏ん張る。

 足元では、顔を地面に突っ込んだままのエルサが、突風によって体をあちこちに揺らされている……さっさと抜ければいいのに。

 というか、さっきから疑問だったけど、その状態でも喋れるのか……とりあえず、風に気を付けつつ足を引っ張って引っこ抜いておいた。


「これはまた……随分と見晴らしがよくなったわねぇ」

「……本当に、さっきいた洞窟とは違う場所なんだって、実感ができたよ」


 風が止み、エルサがパタパタと翼で浮かぶのを確認してから、俺の魔法でどうなったのか確認するため、周囲を見渡す。

 多分俺が魔法を放った時と変わらない位置に立つ破壊神……だけどそれ以上に、周囲の光景には驚きを隠せなかった。

 先程まで、暗い洞窟の中だったにも拘わらず、今は見晴らしのいい明るい場所……いや、光源があるわけじゃないんだけど、眩しいという程ではなくさりとて暗さを全く感じさせない。

 そういえば、完全に周囲が壁で覆われていた洞窟の時は、暗くてもはっきり破壊神だとか周辺の事が見えていたのはどうしてだろう? エルサの出していた明りは、破壊神が出てきた時から既になかったはずだ。


「あぁ、それは神の御所の副次的な効果ね。光も必要なく、ちゃんと見えるのよ……まぁ、細かい理由なんかは省くけど」

「教えられても理解できるかわからないから、なんとなくそういうものだと思っておくよ」


 とりあえず、神の御所だからって事でいいか。

 理由なんかを言われても、それが役に立つわけでもないから。

 って、明りに関しては声に出していなかったのに……ってそうか、向こうは俺の考えている事を読めるんだった。


「多少だけれどね。はぁ……汚れちゃったわ」

「さっきの爆発を間近で受けて、汚れた程度で済ませられる方がおかしいと思うよ」


 溜め息を吐く破壊神……確かに、爆発の影響なのか周囲にまき散らされていた土埃などの影響か、着ていた服は端の方が破れたり、汚れている。

 俺の方も同様だけど、一応魔法は破壊神を中心に、むしろ破壊神そのものを破壊するつもりで放ったんだけど。

 やっぱり、さっきの剣を振り下ろした時と同じように、勢いを破壊したとかでたらめな理由なんだろうか?


「当たらずも遠からずってとこね。何も力を使わなくても、神であれば人間よりも存在の次元が高いのよ。だから、多少の事では傷付かないのだけど……さすがにさっきのはそれなりに力を使わせてもらったわ」

「成る程、ね……」


 また俺の考えている事を呼んで、疑問に答える破壊神。

 神と人間では存在そのものが違うって事だろう……それでも力を使ったって事は、さっきの剣と同様に俺の攻撃はそれなりに届かせる事ができるってわけだ。

 それでも結局、威力を破壊されたら意味はないのかもしれないけど。


「って事は、ユノもそうなのか」


 なんとなく、ユノが見た目と違って異様に強い理由の一つがわかったような気がした。


「あれは、ちょっと違うわね」


 と思ったのに、すぐに否定された……くそう。


「創造神としてなら確かに私と同じだけど、今はほぼ人間よ。多少丈夫だとは思うけど、ただそれだけ」

「じゃあ、ユノが魔法も使わずに魔物を軽々と倒すのは……?」

「単純に技量ね。まぁ、創造神なのだから、体が人間と同等になる前に、そういった戦闘技術から何から、便利な技術を自分に対して創ったってとこかしら」

「そういうわけなんだ……」


 なんというか、的外れかもしれないけどパソコンを思い浮かべてしまった。

 技量……何かしらの作業ができるソフトをインストールして、使えるようにするとか……。


「詳しく知りたければ、ユノ自身に聞く事ね。私とあれは同じで違うのだから。……もっとも、ここから生きて帰れたらの話だけど」

「随分と、わかりやすい悪役のような事を言うね。まぁでも、確かにどうしようもないのかもしれないけど……」

「リクに合わせてあげているのよ」


 本当にそうなのだろうか? 破壊神の考えている事を見透かせるわけではないのでわからないけど……ともあれ、生きてユノと会い、色々と聞きたい事を聞くためにも、このまま黙ってやられるわけにはいかない。


「ど、どうするのだわリク。リクの全力でも、敵わなかったのだわ」

「そうなんだけど、でもどうにかするしかない」


 手だてが全く思いつかないからって、諦めたら終わりだ。

 どうにかしてあがいて、何とか生きて帰らないと……頭に浮かぶのは、話を聞きたいユノではなくモニカさんだった。

 獅子亭で働くモニカさんの笑顔、また見たいなぁ――。



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