第1091話 結界を貫通する閃光の対処法
「考えるのは結構だけど、どうしようもないわよ?」
「さて、本当にそうかな?」
俺が想像するモニカさんを打ち消すように、こちらを試すかのように言う破壊神。
確かにどうしようもない……と思う状況で、エルサも怯えている様子だけど、一つ気になる事があった。
「だったら、どうしてさっきみたいに笑っていないんだ? つまらなそうにして、見切りをつけたって感じじゃないように見えるけど?」
「……少し、ほんの少しだけ魔法に驚いただけよ」
本当に驚いただけなのだろうか?
破壊神の表情、それは先程つまらないと言った時と同じ無表情なんだけど、どこか違う印象を受けた。
先程のはおもちゃを失くした子供のような、拗ねたのに近いつまらなさ……でも今は、どちらかというと何かを隠しているような、面白さではなく焦りとかそういった何かを押し殺しているような無表情だ。
破壊神の事はよく知らないけど、ユノはこの世界で再開してから見て来たから、なんとなく……そう、ほんとになんとなくだけど違いを感じた。
「確かにさっきは大笑いしていたけど……ん、待てよ?」
「どうしたのだわ」
「いや、ちょっとね……」
笑いそのものは、余裕さとか俺が使った魔法の思い切りが良すぎたからとかだろうけど……存在の次元が高い神で、多少の事じゃ傷付かない体……か。
ユノはほぼ人間らしいけど、それ以外に俺は破壊神と同様の存在と会った事がある。
いや、破壊とかではなくて、神としての存在と……。
「そうか、アルセイス様……」
「何をブツブツ言っているの? 今度はこちらから行くわよ、そろそろ終わりにするべきでしょうから……ねっ!」
「うぉっと! くそ、落ち着いて考え事もできない!」
「命を狙っている相手を目の前に、落ち着いて考えに没頭できるわけないでしょう? ほら、当たったら痛いわよ?」
「うぉ! ぬぁ!」
頭の中で、暢気なお姉さんの姿が思い出される……いや、本当に暢気というわけじゃないんだけど、雰囲気がリネルトさんとかと似ているんだよね。
ともかく、何かをひらめきかけた瞬間、破壊神が俺に向かって指先を向けたので、咄嗟に横へ飛んで避けた。
今まで俺がいた場所には、閃光と共に一筋の線……唯一残っていた俺の後ろにあった、洞窟の名残……壁が貫かれる。
その後も、俺を追うように指先を動かし、それから逃げるように飛んで跳ねて走って避ける。
閃光は、光ったと思ったら目標地点に当たっているくらいの速度なので、見てから避けるなんて事は不可能……指の動き、その先を避けるようにしなければ、とてもじゃないけど避けられない。
幸い、魔力も含めてまだ元気があるので避けられているけど……それもいつまで続くか。
「くっそ! こう立て続けに打たれたんじゃ……! とぉ!」
破壊神を中心に円を描くように走りつつ、そのままでは避けられそうにない場合は、飛んで避ける、跳ねて避ける、しゃがんで避ける。
とにかく無理やりにでも体を動かして、閃光は放たれるより前に避けるの繰り返し。
閃光はどうやら、放つ瞬間は指を固定しなければいけないらしく、俺が反応して避けた先に指を動かされる事はないのが救いか。
「あははは! 結構面白いわねこれ。ほらほら、ちゃんと避けないと当たるわよ?」
「あぶっ!」
楽しそうに笑う破壊神は、先程俺が指摘した様子もなくなり、本当に面白がっているようだ……遊ばれているようで、悔しい。
もしかすると、本気で当てるつもりじゃないのかも? という考えも一瞬だけよぎるけど、お腹の辺利を狙われてそれも打ち消された。
本気でやれば俺が避ける先を予測して放つ事もできるかもしれないけど、今のところその様子はないのでこの間に方策を考えないと……。
「光を反射っと! でき……れば! ん? そうか……成る程!」
「何を考えているか知らないけど、無駄よ!」
「それはどうかな……? っと!」
というか、俺が強く考えている事って向こうに伝わっているはずじゃ……? もしかして、真似た神の御所だから何かをしようとしている時は、読めなかったりとか?
まぁ、理由はなんであれ、不完全ならそれは俺にとってはありがたい。
閃光を避けるのに精いっぱいになりながらも、なんとか考えをまとめる。
結界は不可視で強固な壁だけど、光は通してしまうから意味はない。
でもよくよく考えれば、先程俺が避けた時に壁に当たった際には、壁を貫通して穴を開けていた……結界を通って俺に当たった時は、火傷をしたくらいなのにだ。
さすがに、俺は魔力で硬いらしいけどその影響だけとは考えにくい。
それと、さっき考えた反射……光だから鏡にでも当てれば反射するはず、というのを考えれば……そうか!
「一か八か!」
「ん? ついに疲れて諦めたのかな? まぁ、ちょっとつまらないけど、いつまでも追いかけっこは続けられないわよね」
足を止めて、破壊神に体を向けて閃光が放たれるのを待つ。
こちらが観念したと思ったのか、口角を上げて指先を向ける破壊神……生憎と、まだ息切れすらしていないから、疲れたわけでも諦めたわけでもない。
でも、ずっと追いかけっこを続けられないのは同感だ、と考えながら即興で魔法のイメージをする。
爆裂の魔法は、ただ魔力任せに爆発させるだけだったから簡単だったけど、今回はちゃんとイメージしないと駄目だ……失敗したら、あの閃光が俺を貫いてしまうだろう。
「一思いに貫いてげるわ!」
「……反射鏡!」
指先から、光が生まれる……その瞬間に練り上げた魔力を使って、イメージを解放。
破壊神と俺の間に魔法の壁を生成。
それは真っ直ぐな壁ではなく、結界を歪ませた即興で作った鏡……みたいな物。
「そんなっ! 光が逸れた!?」
「やっと、驚いた顔が見れた。爆発させた時は、声しか聞こえなかったからね」
狙い通り……とまではいかなかったけど、魔法の壁のおかげで俺に向かう当たるはずだった閃光は、立ったままでの俺の数十センチ横を通り過ぎた。
イメージが甘かったのか、鏡と言うより光を屈折させて直撃を避けただけみたいだけど、それでも十分破壊神を驚かせる事には成功した。
一番の成功は、閃光に当たらなかった事だけど。
「な、何をやったの……? ただ結界を張っただけに見えたのに」
「リ、リク! さっき結界は無駄だって……!」
「結界のようだけど、ちょっと違うんだよエルサ」
戸惑っている様子の破壊神に、驚くエルサ。
俺が使った魔法は、結界を元にはしているけど別の魔法。
光は屈折したり反射したりするから……形はハウス化でドーム状の結界に慣れていたおかげで、曲面にできた。
まぁ、光の反射率とか屈折率とかまで、細かく計算できる状況じゃなかったし、鏡をイメージして歪みを持たせてさらに分厚くする。
そうする事で、上手くいかなくても直撃は避けられるようんなるんじゃないかって。
本当は鏡をイメージして、完全に別方向へと反射させるつもりだったんだけど……結界をイメージの基礎にしているせいなのか、透明で不可視の壁になっちゃったからね。
結果は閃光が貫通してしまったけど、直線のはずが途中で曲がって俺には当たらなかった。
直撃しなかっただけでも、咄嗟に考えたにしては上出来だ……これで多少考える時間ができるし、次は一度使った魔法だからもう少しちゃんとイメージができるはず――。
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