第1084話 山中に隠された洞窟
山は木々に覆われていて、そこの洞窟となれば近くに行かないとわからないから、エルサに乗って空から調べたんじゃわからないし、巧妙に隠されているらしい。
しかも、誰かが近付いてきたら洞窟内で繋がっている通路を使って、東側に移動するという念の入れようだ……そりゃ、見つからないわけだね。
しかもその東側の隠れ家? はかなり離れた場所にあるらしく、センテの周辺を調べるだけじゃ絶対に見つからない距離だ。
「ありがとうございます、アマリーラさん、リネルトさん。すぐにその洞窟へ行って調べてみます」
聞き出した情報を教えてくれたアマリーラさん達にお礼。
その洞窟を調べれば、情報の真偽だけでなくここ最近の異変について、何かわかるはず。
調査を続けてこれまではっきりとした進展がなかったから、できるだけ早く動いておきたい。
「畏まりました。確かに少々急いだ方がよろしいでしょう。私達が捕縛対象のいる宿に踏み込んだ際には、すでに逃げる準備をしていました」
「昨日捕まえた男からの情報が、行かなかったからみたいですよ~。危機感を感じて、逃げるつもりだったみたいです~」
「そうですか……じゃあ尚更、すぐに行って調べないといけませんね」
捕縛対象……昨日の男に依頼した人物も男だったらしいけど、その人が泊っている宿に踏み込むのがもう少し遅かったら、取り逃していたのかもしれない。
ともあれ、男を捕まえた事でさらにそこから情報を得ていた、ワイバーンなどとの拘わりがありそうな人物も怪しんでいる頃だろう。
洞窟へ早くいかないと、逃げられる可能性もあるかもね。
「私達も、お供いたします」
「行きますよ~」
「わかりました、助かります」
俺とエルサだけよりも、アマリーラさん達がいてくれた方が助かるからありがたい。
誰かがいたとして、逃がさないように捕縛するのは手に余るかもしれないし、単純に調べるのには目が多い方がいいからね。
そうして、お腹が減ったと漏らすエルサに、キューをあげつつセンテの北にある山を目指した――。
――西門から街を出てすぐエルサに乗って、北の山中腹辺りに着陸。
急いでいたため、少し周辺の木々をなぎ倒す形になったけど……倒れた木は後で木材か何かに有効活用させてもらおう。
センテの北山は木々が密集する小高い丘で、ともすれば山ではなく森や丘と呼ばれ事あるくらいであまり大きくない。
「これは、確かに空からじゃ見つからないですね……木も目隠しになっていますし」
「そうですね。こうして近付いても、洞窟の入り口だとは気付かない可能性すらあります」
「よーく見ると、岩が不自然ではあるんですけどねー。獣人の私達でも、怪しんで見ないと前を素通りしていますよ~」
洞窟がある……と思って山の中を調べ、俺の探知魔法を使って不自然な場所を突き止めた。
そこには大きな岩が鎮座しており、かろうじて隙間があるくらいで何も知らなければ、前を通っても何も気付かずに通り過ぎるような場所。
獣人として、人間より感覚が鋭いらしいアマリーラさんやリネルトさんも、岩を見て唸っている。
というかこの仕掛け、ブハギムノングの鉱山でもあった、モリーツさんの研究施設に行く道を塞いでいたのと同じだよね?
「ん……っと。やっぱり動きますね。成る程、地面が少しへこんでて動かしやすくなっているんだ……」
岩が鎮座している場所には、地面に小さな溝のようなものがあり、そこを転がして動かせるようになっていた。
日本家屋の引き戸に似たような仕組みになっている、と言えばわかりやすいか。
それでも、岩は二メートルはゆうに越える大きさなので、それなりの力が必要だけどね。
しかも溝のような部分は、背の高い草花をわざわざ植えたような形跡があり、それが目隠しになってもいる……念の入った隠蔽だ。
「岩の大きさと仕組みからして、人が二人くらいで動かす事ができそうですね」
「つまり~、単独での出入りは考慮されていないって事ですか~?」
「おそらくな。誰かが見つけても、容易に入られないようにと警戒しているんだろう。まぁ、こんな場所に単独で来る者も少ないだろうが……」
俺が動かした岩を見ながら、分析するアマリーラさん。
まぁ、隠したい場所なんだから、怪しんでいなくても通りがかった人が寄っかかったら動いて入り口が開きました……なんて事にならないように、という意味もあるんだろう。
「これが洞窟の入り口……まぁ、大きな岩で塞がれていただけあって、大きいなぁ」
「もしかしたら、ワイバーンなども出入りしているのしれませんから」
岩を転がして姿を見せた洞窟の入り口……人間どころか、大きめの魔物でも通れそうなくらいだ。
ブハギムノングの時と違って、通るのは人間とは限らないからだろう。
ツヴァイの研究施設、その地上部分にあった建物の入り口と通じるものがある……オーガを扱っていたからか、あっちの方が大きかったけど。
「入る前に……エルサ?」
「了解したのだわー」
「明りですか、助かります」
「明るいですね~」
暗く、奥の見えない洞窟の入り口に立ち、エルサに頼んで明りの魔法を使ってもらう。
相変わらず、エルサの目が光って俺の頭にくっ付いている状態だから、工事現場で夜間作業をするためのヘッドライトになっているのはご愛嬌って事で。
「それから……ん~、あれ?」
エルサの明りに続いて、探知魔法で中を探る……どんな魔物が潜んでいるかわからないし、待ち伏せとかされたくないからね。
内部は結構入り組んでいそうだけど、ブハギムノングの鉱山程じゃない。
それはいいんだけど……。
「どうしたましたか、リク様?」
「いえ、念のため探知魔法を使って中を探ったんですけど……はっきりとした魔力反応がないんです。生き物の反応がないという方が正しいですかね」
「生き物の反応が? もしや既に移動した後なのでしょうか?」
「わかりません……多分、鉱石とかそういった何かの魔力はあるんですけど、魔物とかではなさそうです」
鉱石なのかなんなのか、動かない自然物っぽい魔力反応はある。
だけど、生き物……それこそ、人間や魔物の反応がないんだ。
動いている何かが一切ない状況、かな?
「……確かに、臭いでも生き物がいる様子は感じられませんね……何者かがいた痕跡のような臭いは感じられますが」
「音も聞こえず静かですね~。空気の流れはここと中を繋げているので、誰かがいたら何かしらの音や臭いが流れて来てもおかしくないはずです~」
「さすが獣人ですね。でもやっぱり、誰もいないのか……」
鼻をひくつかせるアマリーラさんと、耳をピコピコと動かすリネルトさん。
ちょっと、リネルトさんの耳のモフモフに誘われかけたけど……今はそれどころじゃない。
二人共、探知魔法で調べた俺と同じように、洞窟内の様子を窺って生き物がいなさそうな事を確認していた。
獣人だから、嗅覚や聴覚が優れているって事なのかな、多分。
「とにかく、中に入ってみましょう」
「はっ!」
「はい~」
「目が疲れるから、早くするのだわ~」
アマリーラさんとリネルトさんに声をかけ、洞窟内部へと踏み込む。
……エルサは、目が疲れるなら光を目から出すんじゃなくて、別の方法を考えた方がいいんじゃないかな?
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