第1077話 膠着状態みたいな状況



「はい。状況を見定めれば、もう少し敵が接近した状態でも魔法で援護できるかなぁと」

「さすがに今すぐはできんだろうが……考える余地はありそうだな」

「大規模な戦闘になると、本当にできるかはわかりませんが……」


 考えたのは、誰かが戦況を見定めてどこへ魔法を撃つかという判断と指示をする事。

 ツヴァイの地下研究施設で、フィリーナが全体を見通していたのを思い出しての事だ。

 兵士さん達の中に、フィリーナと同様に特別な目を持つ人はいないだろうけど、全体を多少は見れる人はいるはずだ……だから一人ではなくて数人だし、それでも大規模な戦いで適応できるかはわからないんだけどね。


「あとは……味方が当たっても無事でいられるような何かがあればなぁ。あ、そうか。でもさすがに難しいか……とにかく今は、演習に集中だね」


 衝撃くらいはあるだろうけど、今の金属鎧よりももっと頑丈な鎧……ワイバーンの素材を使った鎧があれば、味方の魔法が多少当たっても大丈夫な気がした。

 少なくとも、火の魔法は弾く事ができるし、風の魔法で斬れる事はない……けど、素材がない事と費用も掛かるし、すぐにどうこうできるわけではないので、考えるだけに留めた。

 今はまず、今進行している演習が大事だからね。


「ソフィー、横! フィネさん後ろ! っ、このぉ!」

「助かる、モニカ!」

「ふっ! ありがとうございます、モニカさん!」


 アーチ付近では、剣を持つソフィーと斧を持つフィネさんが主に兵士さんとぶつかり、数歩後ろからモニカさんが周囲に注意を払いながら、槍で援護していた。

 今は、モニカさんから注意され、正面の兵士さんに気を取られていたソフィーが横から突かれた槍を避け、フィネさんは後ろに回られた兵士さんが振り下ろす剣を避けていた。

 さらに、フィネさんの後ろに回っていた兵士さんは、モニカさんの槍で薙ぎ払われて弾き飛ばされる……フル装備の兵士さんを横に飛ばすくらいの威力があったんだなぁ、モニカさんの薙ぎ払い。


「あっちは、モニカさん主体に動いて兵士さん達と戦っているけど……やっぱり数の差で押せないみたいですね」

「まぁ、容易にはいかないだろう。モニカ殿達が戦うのは初めて見たが、中々なものだな。連携も上手く取れているし、お互いを補い合っている」


 アーチ付近は兵士さん達が集団で固めており、一番数も多いため三人がかりでも簡単には押し込めないようになっている。

 しかも、槍を使って長いリーチの利点で押し返そうともしているので、余計苦労している様子だ……アーチの外側に向けて、一メートル程度の壁の外側にとげを付けたのは余計だったかな……。

 まぁ、壁があるおかげで、兵士さん達も大量にアーチから出て来られず、限定的になっているのでお互いさまって事にしておこう。


「アマリーラとリネルトは……完全に、兵士達への訓練みたいになっているな」

「そうみたいですね……まぁ、リネルトさんは少し怪しいですけど」

「駄目だ! そんな事では街や民を守れるわけがないだろう! ……中々鋭い突き込みだが、ただそれだけだ! お前は遅い! もっと速く動かないと、味方にも迷惑がかかるのだぞ!」

「こうやって動くと、素早く動けるのですよ~。こうして、相手の死角に入るように動くと、そもそもの動きが遅くても、早く見えたりもしますよ~……ふふふふふふふ!」



 左右に目をやると、兵士さん達に囲まれながらも薙ぎ払い、打ち払い、怒号を飛ばすアマリーラさん。

 それは兵士さん達に指導しているようで、鬼教官ながらも的確な指摘でこれが訓練何だと思わせてくれる。

 リネルトさんも、教えるように話しているようだけど……あっちは、目にもとまらぬ速度で兵士さんの視界から消えて、後ろから笑いながら剣を振り下ろして強烈な一撃を与えるという……恐怖を植え付けているようにしか見えない。

 まぁ、離れて俯瞰している俺達から見ると、リネルトさんはただ横に動いただけにしか見えないんだけど、それが速いのと、正面に立って集中していた兵士さんからしてみれば、消えたように見えるんだろう。

 あと、戦闘でハイになっているのか、笑い声が怖い……兵士さん達のトラウマにならないといいけど。


「それにしても、アマリーラさんもリネルトさんも魔法で援護していると言っても、兵士さん達相手になんとかなっていますね」

「それはそうだな。アマリーラもリネルトも、両方冒険者で言うとAランク相当の強さだと思っている。まぁ、経験だの依頼達成数だので、Bランクのようだがな」

「え……そうなんですか?」

「うむ」


 開始からずっと、フィリーナやカイツさんの魔法援護が続いているおかげもあるとは思うけど、アマリーラさんもリネルトさんも、それぞれ兵士さん達の集団に一人で飛び込んで、戦い続けている。

 もう結構な数をあしらっているから、かなりの実力者なんだろうし、それはヒミズデミモグと戦った時にもわかっていたけど……まさかAランク相当の実力だとは。

 Aランクになるには、実力以外にも依頼達成や活動内容等々の実績が必要らしいから、冒険者としてではなく傭兵として雇われている二人がBランクなのはまだ納得できるけど。

 それにしても、実力的には俺や現役の頃のエアラハールさんと同じAランク相当とは……まぁ、単純にAランクの実力って言っても、それぞれ差があったりするんだけどね。


 単純な戦闘能力で、危険な依頼を達成させてAランクになる人もいれば、堅実に依頼をこなして派手な活躍はしないけど頭を使って昇格する人だっている。

 まぁ、一定以上の能力が必要ではあるんだけど、考え方は先日聞いた獣人の強さの基準に近いかな。

 なんにせよ、二人がかなりの実力者なのは間違いないって事だ。


「とはいえ、あの二人を雇うのは苦労したな。まぁ、獣人の傭兵を雇うのは何かしら力を示さなければいけないのだが……」

「力をですか」

「獣人の強さについての考えは話しただろう? 戦う以外にも他の事で強さを示すのでもいいんだが、基本的に獣人の傭兵は自分より弱い者には従わないのだ。頭の良さや財力、見た目なんかを競って勝つという事もあるが、あの二人は雇い主に戦いの強さを求めていたからな」


 頭の良さや財力ってのは、なんとなくわからなくもない。

 それらは味方によっては強さとも言える事だから。

 けど、見た目って……見る人によっても基準や感覚が違う事だろうに。

 それはともかく、アマリーラさん達は単純に戦闘での強さを求めていたようだ……あれ? って事は、二人よりも強くないと雇う事ができなくて、部下にしているシュットラウルさんは。


「戦いの強さ……って事は、シュットラウルさんはあの二人より?」

「……雇ってから、あの二人もまた成長しているようだし、今はわからんが……雇う時には一対一で戦て負かしたぞ」


 シュットラウルさんが強いって事は、アダンラダと戦った時にもわかっていたけど……アマリーラさん達より強かったのか。

 今はわからないと謙遜しているけど、鍛錬を怠っているようには見えないし、一対一とはいえ今兵士さん達に突撃して薙ぎ払っている二人に勝っている、ってのはちょっと驚きだった。



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