第1076話 水風船の魔法



「ん……よく見るとあれ、結界で水を包んでいるのか?」

「そうなのだわー。リクの記憶から拝借した……水風船? なのだわー」

「水風船……あぁ、そういう事か」


 頭上に現れた球……よく見てみると、水がタプタプと揺れている。

 探知魔法のおかげでわかったけど、球状の結界を膜にしてその中に水が入っているようだ。

 確かに、エルサが言った通りの水風船そのものだな。


「それじゃ、行くのだわー! これがウォーターガンなのだわー!」

「おぉ!」

「……」


 そういえば、エルサが発した魔法名はウォーターガンだったな……とよくわからない感心をするくらい、とんでもない勢いで兵士さん達の方へと向かう、無数の水球。

 成る程……水を打ち出すイメージの魔法だったんだな。

 多分、結界のおまけというのは水風船にするためって事なんだろう。

 横で見ていたシュットラウルさんは、エルサの使った魔法の規模か、それとも水球が放たれた速度になのか……はたまたその両方かに驚いて、口をあんぐりと開けたまま絶句していた。


「あー、成る程。確かに水風船だなぁ」

「何かに当たったら結界が解除するようにしたのだわ。どうなのだわー」


 エルサの使ったウォーターガン……無数の水球が凄まじい勢いで土壁の向こうに殺到。

 狙いはモニカさん達が向かっている中央アーチの奥で、兵士さん達が一番密集している場所で。

 特に細かく狙いを定めていないためか、水球は地面に落ちたりしているのもあったけど、数が多いおかげでほとんどの兵士さん達に命中……したような反応が探知魔法で知る事ができた。

 その水球は何かに当たった瞬間、水球が水をまき散らしているよう……アーチの向こう側なので、詳しくは見えなかったけど、水飛沫が舞っているのは見える。


 兵士さん達の悲鳴っぽい叫びも聞こえるから、相当な威力だったのだろう。

 誇らし気なエルサの声からすると、結界はそのままではなく衝撃と共に消える仕組みになっているらしく、水をまき散らしているのはそのためか。

 かなりの勢いで飛んで行ったから、水とは言え結構な衝撃なんだろうなぁ。


「さすがエルサだなぁ……俺だったら、似たような事はできても」

「リクがやったら、結界が解除されずにそのまま当たった対象物を貫通するのだわ?」

「いや、そこまでにはならないと思うけど……」


 俺がやったら、エルサの言うように結界のまま貫通……はさすがにないと思いたいけど、自信はあまりない。

 それか、まき散らされる水の量が多かったり? そもそも、数はともかくエルサが魔法で作った水球とは違って、一つ一つがもっと大きいものになりそうだ。

 結果、援護どころかそれだけで兵士さん達を全滅させてしまいそうな……やっぱり、後方援護はエルサに任せて正解だったようだね。

 今回の目的は全滅させる事じゃなくて、訓練する事なんだから。


「こ、こちらも負けてはいられないぞ! 不甲斐ない姿を見せ続けるな! 最後方帯、壁向こうに魔法をばら撒け! 前衛部隊は槍を持て! 壁やアーチに張り付かせるな!」

「……よ、ようやくあちら側の反撃のようだな。まぁ、先制でこれだけの事をやられたら、初手が遅れるのも無理はないか。こちらはどう動くか……」


 おそらく大隊長さんだろう、大きな声を張り上げて兵士を鼓舞するとともに、指示を飛ばす。

 それを聞いて、エルサの魔法で驚いていたシュットラウルさんが正気に戻った。

 状況の分析をするのはいいんだけど……本来向こうの兵士さん達って侯爵領の兵士さん達だから、シュットラウルさんは俺達側ではなくて、向こう側のはずなんだけど。

 まぁ、俺達と一緒にいて見物しているから、感覚としてこちら側の気分なのかもしれない。


「よっ……と」

「ふむ、やはり兵士達の方の魔法は精度が低いな」


 遠くから落ちて来る魔法を、結界で防いだり剣で弾いたり、シュットラウルさんも同様に剣で軽く打ち払いながら、分析。

 大隊長さんの命令後、一気に動き出す兵士さん達……これまで、押し込まれそうになっていた状況を、壁の外側で耐えるようになっている。

 後方の兵士さん達、最重要の陣地を守っているんだろう、その人達から打ち上げられた魔法は、壁を挟んでいるという事もあってか命中率は高くない。

 俺が一人でやった演習の時程ではないけど、それでも数が多いから、モニカさん達の足止めになっていはいるようだ。


 アマリーラさんとリネルトさんは、そもそもあまり攻め込み過ぎず、あくまで主力はモニカさん達という事なんだろう、近くにきた兵士さんを薙ぎ払うだけに留まっている。

 結構広範囲に火の魔法や氷の魔法などが降り注いではいるけど、かなり接近しているため、モニカさん達には直接命中する事はほとんどなさそうだ……アーチ付近に降り注がせたら、味方に当たる可能性もあるので、どうしても少し離れた場所に落としてしまうからだろうね。

 ただ、それをわかっているから、兵士さん達の動きもモニカさん達を直接どうにかしよう、という感じではなく槍などリーチの長い武器を使って、魔法が多く着弾する地点に押し戻そうとしているようだ。

 中々、こちらも攻めきれないし、向こうも押し返せない攻防になっているね。


「うーん、味方が邪魔して直接魔法で狙えないみたいですから、仕方ないですね……」

「そうだな。初手が遅れたからだろう。本来なら、モニカ殿達やアマリーラ達が駆け込む前に魔法で足止めをするのがセオリーなんだが……」

「そうですよね。俺の時も、最初は魔法で来られましたから」


 距離が離れている時は、存分に魔法を撃てる……まぁ、それは軍同士ならお互いそうなんだけど。

 それを、今回は先にフィリーナとカイツさんが向こう側を牽制してくれたので、楽にモニカさん達が近付ける結果になったってだけの事だ。

 向こうも準備はしていたんだろうけど、先制で魔法を撃たれたうえに左右にアマリーラさんとリネルトさんが散って、対処が遅れたのも原因かな。

 混戦になってしまっては、遠くから直接魔法で援護するのは難しいか……。


「味方が魔法に当たる覚悟をさせるのは、駄目ですよね……?」

「それは味方の戦力も削ぐ結果になる。それに、そんな決死の覚悟を持たせるのは演習ではさせられんだろう、危険過ぎる」

「まぁ、そうですよね」


 こういった状況でどうやって魔法を使って援護するかを考えて、シュットラウルさんに聞く。

 味方のはずの人から撃たれた魔法が当たる……後ろから撃たれるようなものだから、それはできないか。

 本当に魔物とかが押し寄せて来て、命を懸けて守らなけらばという状況ならともかくだ、演習でそれをやるのはシュットラウルさんの言う通り危険過ぎる。

 無防備の背後から魔法が当たれば隙だらけになるし、威力が高い魔法だったら鎧を破壊して大きな怪我もしてしまうからね。

 衝撃だってあるだろうし……。


「数人程、状況を見てどこに魔法を放つか指示を出す人って、選出できませんか?」

「ふむ……それはつまり、その選出した者の指示通りに魔法を撃つという事だな?」



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