第1069話 リクの囮作戦開始
「では、今度はこちらからの報告だな」
「と言っても、最近はあまり目ぼしい事はないんだけど……」
サマナースケルトンなどへの対処が決まった後は、運ばれてきた夕食を頂きながら、恒例の報告会。
ソフィーが切り出し、モニカさんと一緒に一日の調査の成果を報告されるが、こちらはやっぱりあまり芳しい内容じゃない。
まぁ、相変わらず魔物が減らない事や死骸が置かれている状況は変わらず、怪しい何かを発見する事もできていないというくらいだ。
ただ、冒険者が連日討伐を続けているにもかかわらず、魔物が減らないのはやっぱり発見されたサマナースケルトン以外にもまだいるのだろうという結論。
他の場所から移動してきたのもいるんだろうけど、それだけでは説明がつかない数だからね。
そして最後に、フィリーナとカイツさんからの報告……こちらは、冒険者ギルドで俺と話した内容をそのまま皆に伝える形だ。
ワイバーンの核にクォンツァイタ、さらに再生能力の付与は核の能力を増幅させているからではないか、という推測……さらに魔力への仕掛けをして、指示を聞くようにしている事など。
何者かが仕組み、意思を持ってワイバーンを運用しているのだろうと、決定づけている。
とは言ってもそれ以上の事はわからず、何を狙っているのかまではわからないんだけど。
ただ、再生能力を付与した影響なのかなんなのか、俺が戦った時のように、怪我を負わせたら再生に集中するため、それだけでは脅威ではないとの結論でもある。
警戒はするけど、敵わないような存在になっているわけでもないって事だね……まぁ、ワイバーンってだけで脅威ではあるんだけど、魔法が使われない分襲われても広範囲に被害が広がらないだろう、というのは悪い事じゃない。
そうして、夕食兼報告会が終わった後は、エルサを連れてお風呂へ。
そこでも、またシュットラウルさんが入って来て話したりとあったけど、大体はサマナースケルトンへの対処に俺が協力する事への感謝とかが多かったかな。
お風呂が終わったら、まだ目が冴えているのか使用人さん達と遊んでいるユノに、声をかけてから部屋でエルサのモフモフを乾かして就寝した――。
「さて、今日から本格的に、周辺の調査だ。エルサも頼むぞ?」
「了解なのだわー!」
翌日、朝食を食べて宿から出る皆を見送って、俺とエルサは少しだけずらして外へ出る。
途中適当にお店に寄っておやつ用のキューを買ったりしながら、少し大きめの声でエルサと話す。
これは、囮になるためここにいるって事を報せる意図がある。
無関係な人の目もあるから、少し恥ずかしいけど……そんな事言ってられないからね。
俺の事は、しばらくセンテに滞在している間に広まっているし、皆慣れてきているらしく、頭にエルサをくっつけて歩いていても周囲に人が集まる事はない。
目を向けられたりはするけど……あと、エルサが喋るとその事に驚く人がいたりもする。
基本的に寝ている事が多かったから、エルサをぬいぐるみか何かと思っていた人とかがいるんだろう。
とにかく、いつもより少し目立つようにして、俺の行動を何者かに報せるようにして囮の役目をしっかりやらないとね。
「今日は、どの辺りを飛ぶのだわー?」
「そうだなぁ……やっぱり最近は南側が多かったから、北側を見てみようか。空から見たら色々とわかる事があるかもしれないし」
「了解したのだわー」
割とノリノリで話すエルサ……実は結構、こういう事が好きなのかもしれない。
以前は、あまり注目されるのが好きじゃないとか言っていたような気がするのになぁ。
まぁあれは、エルフの村で多くのエルフから崇められるような感じだったから、かもしれないけどね。
ともあれ、北側上空へ行くという情報は、その通りに行動するつもりではあるけど、別の意図もある。
南側は冒険者さん達が魔物の討伐で多く、モニカさん達もそちらで調査をしているし、東側は街道作りやシュットラウルさんの兵士さん達が駐留しているため、こちらも人の目が多い。
なら一番隠れやすいのは北側だろう……だから何かが見つかると思っている。
「北側はあんまり調査が進んでないみたいだからね、何か見つかるといいんだけど」
「きっと見つかるのだわー。じっくり調べてやるのだわー」
……というのは見せかけで、俺達が北側に行くとなればもしそちらにワイバーンや何かを隠している場合、急いで移動する必要がある。
そのまま北側で見つからないようにする可能性もあるけど、一番安全なのは空から調べられるのが嫌なら、隠れ場所を移すだろう。
連絡手段とかはわからないけど、もしそうであるならば、動く先は東西のどちらか。
南側は距離があり過ぎて行けないだろう。
西側はヘルサルが近く、それなりに人通りもあるうえ、ワイバーンが空を飛ぶ事も含めてセンテから離れれば離れる程、ヘルサル側から見つかりやすくなる。
東側は、兵士さん達など人が多いため、こちらも見つかりやすい……遠く離れたら見つけにくいけど、それはそれで相手側の行動が制限されてやりづらくなるはずだ。
とは言っても、ただこれだけで見つけようというわけではなく、少しだけ相手側に嫌がらせ的な事をしようってだけ。
結局は、俺を囮にして何者かの尻尾を掴むのが一番の目的だからね……俺やエルサとか、街の外で何かが見つからなくても問題ない。
「……そろそろいいかな」
「多分なのだわ」
エルサと話しつつ、少しだけいつもよりゆっくり歩いて東門からセンテを出る。
北東に進んで、街から離れた辺りで周囲を窺う……道からは外れているため、俺達以外には誰も周囲にいないようだ。
「結局、俺からは誰かにつけられているかわからなかったけど……大丈夫かな?」
「リクは注目され過ぎなのだわ。だから、不自然な視線もよくわからないのだわ」
目立っているし、噂などの影響もあって注目されやすいため、誰かから監視されているような視線というのはよくわからない……もともと、それを感じ取る技術なんてのもないんだけど。
念のため、探知魔法を使ってもいたんだけど、やっぱり移動中でしかも話しながらだったから、人が周辺にいっぱいいる程度の事しかわからなかった。
アマリーラさんとか、リネルトさんの気配というか魔力反応は人間とは違うため、よくわかったんだけどね。
シュットラウルさんから指示されたのか、二人が近くにいてくれているのははっきりと感じていた。
「アマリーラさん達が、何か見つけてくれているといいんだけど……まぁ、一日ですぐにわかるような簡単な事じゃないか」
「用意周到に、そして隠密に長けている相手かもしれないのだわ。すぐに見つかるわけないのだわー」
「そりゃそうだろうね。とにかく、こっちはこっちで囮らしく派手に動こう。って言っても、ただ空から見て回るくらいなんだけど。頼むよエルサ」
「気ままに飛ぶのだわー」
エルサの隠密って、ただ言いたいだけのような気がしたけど……それはともかく、これまでわからなかった事がたった一日違う事をしただけでわかるなんて、簡単な相手じゃないと思う。
何はともあれ、囮として目立つ行動をしていけばこれから先、何かわかる時が来るだろうと信じるしかない。
エルサに大きくなってもらい、背中に乗って空に浮かび上がる。
目指すは、話していた通りセンテの北側だ――。
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