第1070話 新しい訓練のお誘い



 それからさらに数日、あれからフィリーナとカイツさんは魔物の死骸を調べるも、特にこれといった何かは見つからず、モニカさん達の調査も同様。

 シュットラウルさんの方は、追加のサマナースケルトンを発見したり討伐したりはしていたみたいだけど、こちらもそれ以上の成果は見込めず。

 南側の魔物は減っていないので、サマナースケルトンがいなくなったわけではないと、調査を続けている。

 俺の囮の方も、一度だけフィリーナと農地のハウス化をしに行った時以外は毎日行われ、ついでにエルサに乗って周辺の調査をしていたけど、特に成果がなかった。


 ちなみに、農地のハウス化は全て終わったので、本来なら王都へ戻る予定だったんだけど、シュットラウルさんへの協力や、周辺調査を終えてからとなっている。

 一応、王都に向けて連絡を送っているんだけど……到着するのが早いか、俺達がセンテでの問題を解決して戻るのが早いか、微妙なところだ。

 そんなある日、成果が上がらない状態で悩み続けるのも良くないと言われ、俺達はセンテの東側にある、兵士さん達の駐屯地にきた。


 運動場のようになっていた場所は、俺が訓練を行った時より整備され、多少なり残っていた雑草すら一つもない状態になっていた……まぁ、結構時間があったからね。

 この運動場に来ているのは、俺とシュットラウルさんやユノだけでなく、今回はモニカさん達も全員いる。

 調査する事が増えた影響で、訓練よりも優先されていたけど停滞しているので、全員参加の訓練をという事だ。

 アマリーラさんやリネルトさん、宿でお世話をしてくれている執事さんもいる……執事さんは、シュットラウルさんが予算を越えて何かしないように、見張るためだろうけど。


「あれからちゃんと訓練していたのか、見て来るの!」

「程々になー」


 運動場で、整列した兵士さん達に迎えられた後、ユノが隊長格が集まる所へ駆けて行くのを見送る。

 次善の一手をちゃんと練習しているのか、見に行くらしい。

 兵士さん達は、順次交代しているらしく、隊長格の人も含めて初めて見る顔もそれなりにいる……数は変わらないけど。

 とは言っても、さすがに全員の顔を覚えているわけじゃないんだけど。


「……整列していた時の兵士さん達、疲れた顔をしている人も多かったんですけど、大丈夫なんですか? 調査に訓練にと忙しいみたいですし」


 人数が多く、街の近くにいるとはいえ、基本的に野営している兵士さん達。

 それなのに、訓練の合間に目ぼしい進捗がない調査もしていて、疲れが出ているのではと心配になってしまう。


「問題ない。先程まで行っていた訓練の影響だろう。多少の忙しさでへばるような、やわな訓練はしておらんさ」

「あー、確かにあれはきつそうでしたね……」


 行軍訓練だったか……整列する前までやっていた訓練が原因で疲れていたらしい。

 俺達がきた事で、訓練が中断してホッと息を吐く兵士さんもいたっけ。

 その訓練内容、以前俺がきた時にやっていた行軍訓練とは様相が違い、ただ歩いたり走ったりするだけではなかった。

 装備一式を持ち、身に着ける物は身に着けての訓練……合計で数十キロはありそうな、全身鎧や剣、さらに砂袋を背負って走ったり歩いたりしていたんだ。


 しかも、隊列を崩さないように。

 日本でも、軍隊の訓練で重い荷物を持って行う訓練ってのを、話で聞いた事はあるけど……実際目の前で見ると、想像以上に辛そうだった。

 ほとんどの兵士さん達が、必死の形相だったからね……。

 そりゃ、中断して安堵もするし、疲れた顔もするかぁ。


「それで、今日は何を計画しているんですか……?」

「計画というかだな、今後の有事……もしもの事を考えての訓練をと思ってな」


 シュットラウルさんからは、行き詰っている調査の息抜きがてらに訓練を、と誘われているから何をするのかまでは聞いていない。

 訓練が息抜きになるかはともかく、気分を変えるには悪くないかなとは思ったけど。

 それで、俺やモニカさん達だけでなく、フィリーナやカイツさんまで一緒にいるわけで……以前みたいに、模擬戦をそれぞれの兵士さん達とやったり、次善の一手の練習をしたり、というわけではないだろう。


「リク殿、最初の農地でやって見せてくれた魔法があるだろう?」

「えーっと……?」

「土を固める魔法だ」

「あぁ、そういえば。他の農地でも、やれるところは同じようにしましたけど……」


 土を固めるついでに、結界の境目部分で溝のようなものを作った魔法だね。

 他の農地でも、全てで全体に……というわけではなく、部分的にやっていたりもする。

 まぁ、農地の中に川があったり、起伏の激しい地形だったりで、できない所もあったけど。

 その魔法が何か関係があるのかな? と思って聞いてみると、土を固めた物を利用しての訓練をしたいとの事だった。


 あの固めた土はそこらの石壁より頑丈で、巨体を持つヒミズデマモグですら掘れない強度。

 それを街の外壁に見立てて、防衛戦をする際の訓練にどうか? と考えたらしい。


「もし魔物が襲ってきた場合、街を守れるようにな。攻勢に出る訓練はいくらでもできるのだが、守る訓練は中々難しいのだ」

「まぁ、街に魔物が押し寄せるなんて、ほとんどありませんからね」


 何度も同じような状況に遭遇している、俺が珍しいだけだ。

 通常、魔物は冒険者さん達に討伐されて、押し寄せる程の数になる事はないし、少数なら常駐の兵士さん達で対処できる。

 それこそ、ここ最近はアテトリア王国は戦争を経験していないようだし、魔物以外からも攻め立てられる経験なんてないだろう。

 攻守に別れて陣地を作って……という訓練がすぐに思いついたけど、それを発展させて規模を大きくしたのを、俺が協力してやって欲しいって事なんだろうね。


「居住性とかは考えなくていい、ここにいる兵士達が収まる程度に、大きな壁で囲いのようなものを作ってもらえないかとな」

「それくらいならできると思いますけど……ただ、土が……」


 土を固める魔法は、そもそもに土があってこそだ。

 凝縮させて固めるんだから当然なんだけど……地面にある土を使ってそのまま足下で固めるならまだしも、地面の上に壁を建てるのであれば、それ相応の土が必要になる。

 兵士さん達、五百人くらいが収まるとなったら、簡易的に四角い物だとしても一辺数百メートルくらいになりそうだし……かなりの土が必要なはず。

 それだけの量を、適当にそこらの地面からだったら穴だらけになるし、下手したら地形が変わるくらいになってしまう。


「それは問題ない。先程、兵士達が運んでいたのはなんだと思う?」

「なんだって、背中に背負っていた砂袋は……あぁ!」

「うむ。訓練ついでに、土もは運んでいた。今頃は、この駐留地の端に積み上がっている頃だろう。小さな山ができているはずだ」

「また手の込んだ事を……でも、もし俺が断ったり、できないとなったらどうするつもりだったんですか?」


 まぁ、シュットラウルさんからの頼みだし、これくらいの事なら断ったりはしないけど……でももし、俺が使う魔法で不可能だった場合や、今日参加できないとなったらどうするつもりだったんだろう?

 どこかから持ってきた土だとしても、それが意味を成さないなら無駄な事になってしまうからね――。



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